作戦会議
「それで、まだ信じ難いのだが、本当にそんな力を持った人間がいるのかね」
この話を始めて三度目になる台詞を、ロイはまた口にした。
『そんな力を持った人間』とは、もちろん『紅い目の魔女』のことだ。
彼女が見えざる力で岩を飛ばしてきたこと、そして銃弾を止め、兵達の手の中にある銃を鉄くずへと変えたこと。
エルネストが言葉にするたびに、ロイの眉間に刻まれたしわは深くなっていった。
「はい。と言っても、本当にその目にするまでは信じていただけないのでしょうね」
自分が語る話に疑いの眼差しを向けられ、エルネストが苦笑しながらそう返す。実際のところ、彼自身、もしかしたらあれは夢、それもとびきりの悪夢だったのではないかと思う時があるのだ。
半信半疑のロイをよそに、リオンが今後の方針を告げる。
「あの少女のことは口でどうこう説明するよりも、実際に目にした方が手っ取り早い。我々が遭遇したのは彼女だけだったが、まず、あの力を持つ者が彼女一人であることを確認する。二つの部隊に別れて同時に攻撃すれば、それを確かめられるだろう」
「分裂したらどうするよ」
茶化した勁捷の言葉に、間髪を入れず省吾の蹴りが飛んだ。
「いてっ。解った、冗談だって」
蹴られた尻をさする勁捷を、省吾は冷ややかに見遣った。
どちらが大人なのか、判らない。
そんな二人にはチラリとも目をくれず、リオンが地図と見取り図を広げる。
「この砦を、次の目標にしたい。これが見取り図だ。こことここ、正反対から同時に侵入する。ロイ殿、あなた方は獣を獲るための罠を仕掛けるのが得意だと伺ったが、この通路に五ヶ所ほど仕掛けるのにはどのぐらいの時間が必要だ?」
問われて、ロイは軽く首を傾げる。
「そうだな……五分もあれば充分だと思うが」
「それは助かる」
「予め、我々が砦を襲撃するという情報を流しておきましょう。確実にあの少女が砦にいるようにしないと、どちらにも彼女が現れないということになりかねませんからね」
「分け方は、私とエルネストの組と、勁捷殿と省吾殿とロイ殿の組とでよろしいか?」
「私は構わないよ」
「俺もそれでいい」
リオンの言葉に、ロイ、省吾が頷く。一人注文を付けたのは、勁捷である。
「分け方はそれで良いとして、俺らの組はちょっと早めに行動開始してもいいかい?」
「それは、また何故……」
「あのお嬢ちゃんをこっちに引き付けたいのさ」
そう言って、勁捷は省吾に片目を瞑ってみせる。
「ああ、そうか、省吾殿は……」
「そういうこと」
察したように眉を上げたリオンに、勁捷はニヤリと笑う。
そんな遣り取りに、ロイが省吾に目を向けた。
「省吾の『会いたい子』というのは、もしかして……?」
彼の言葉に、勁捷は大袈裟に首を振る。
「そうそう、よりにもよって、あんな厄介なのなんすよ」
台詞が終わりきる前に、勁捷の背中に、今度は連続五回の蹴りが入った。
「いていていてっ、ショウっ、止めろって」
「まあまあ、省吾。けれど本当にそれで良いのですか? こちらとしては有難いけれども、彼女の相手はそう簡単なものではないでしょう。獣用の罠も、何処まで通用するか……」
宥めるように割って入ったエルネストに、省吾は足を止めて頷きを返した。
「ああ、そうして欲しい」
固い決意が其処には見て取れ、リオンも強く頷く。
「よし、では、省吾殿たちにはこれを渡しておこう。彼女が現れたら連絡してくれ。我々はそれを合図に行動を開始する」
そう言って手渡されたのは、小型の無線機だった。
「決行は三日後にしよう。その間に、我々が襲撃するという情報を流しておく。首都からこの砦までは一日もあれば到着する。丁度良い頃合だろう」
リオンのその台詞に、一同は、決意と共に深く頷いた。