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夜を越えて巡る朝  作者: トウリン
夜を越えて巡る朝
12/25

作戦会議

「それで、まだ信じ難いのだが、本当にそんな力を持った人間がいるのかね」

 この話を始めて三度目になる台詞を、ロイはまた口にした。


 『そんな力を持った人間』とは、もちろん『紅い目の魔女』のことだ。


 彼女が見えざる力で岩を飛ばしてきたこと、そして銃弾を止め、兵達の手の中にある銃を鉄くずへと変えたこと。

 エルネストが言葉にするたびに、ロイの眉間に刻まれたしわは深くなっていった。


「はい。と言っても、本当にその目にするまでは信じていただけないのでしょうね」

 自分が語る話に疑いの眼差しを向けられ、エルネストが苦笑しながらそう返す。実際のところ、彼自身、もしかしたらあれは夢、それもとびきりの悪夢だったのではないかと思う時があるのだ。


 半信半疑のロイをよそに、リオンが今後の方針を告げる。

「あの少女のことは口でどうこう説明するよりも、実際に目にした方が手っ取り早い。我々が遭遇したのは彼女だけだったが、まず、あの力を持つ者が彼女一人であることを確認する。二つの部隊に別れて同時に攻撃すれば、それを確かめられるだろう」

「分裂したらどうするよ」

 茶化した勁捷けいしょうの言葉に、間髪を入れず省吾しょうごの蹴りが飛んだ。

「いてっ。解った、冗談だって」

 蹴られた尻をさする勁捷を、省吾は冷ややかに見遣った。


 どちらが大人なのか、判らない。


 そんな二人にはチラリとも目をくれず、リオンが地図と見取り図を広げる。

「この砦を、次の目標にしたい。これが見取り図だ。こことここ、正反対から同時に侵入する。ロイ殿、あなた方は獣を獲るための罠を仕掛けるのが得意だと伺ったが、この通路に五ヶ所ほど仕掛けるのにはどのぐらいの時間が必要だ?」

 問われて、ロイは軽く首を傾げる。

「そうだな……五分もあれば充分だと思うが」

「それは助かる」

「予め、我々が砦を襲撃するという情報を流しておきましょう。確実にあの少女が砦にいるようにしないと、どちらにも彼女が現れないということになりかねませんからね」

「分け方は、私とエルネストの組と、勁捷殿と省吾殿とロイ殿の組とでよろしいか?」

「私は構わないよ」

「俺もそれでいい」

 リオンの言葉に、ロイ、省吾が頷く。一人注文を付けたのは、勁捷である。


「分け方はそれで良いとして、俺らの組はちょっと早めに行動開始してもいいかい?」

「それは、また何故……」

「あのお嬢ちゃんをこっちに引き付けたいのさ」

 そう言って、勁捷は省吾に片目を瞑ってみせる。

「ああ、そうか、省吾殿は……」

「そういうこと」

 察したように眉を上げたリオンに、勁捷はニヤリと笑う。

 そんな遣り取りに、ロイが省吾に目を向けた。

「省吾の『会いたい子』というのは、もしかして……?」

 彼の言葉に、勁捷は大袈裟に首を振る。

「そうそう、よりにもよって、あんな厄介なのなんすよ」

 台詞が終わりきる前に、勁捷の背中に、今度は連続五回の蹴りが入った。


「いていていてっ、ショウっ、止めろって」

「まあまあ、省吾。けれど本当にそれで良いのですか? こちらとしては有難いけれども、彼女の相手はそう簡単なものではないでしょう。獣用の罠も、何処まで通用するか……」

 宥めるように割って入ったエルネストに、省吾は足を止めて頷きを返した。

「ああ、そうして欲しい」

 固い決意が其処には見て取れ、リオンも強く頷く。

「よし、では、省吾殿たちにはこれを渡しておこう。彼女が現れたら連絡してくれ。我々はそれを合図に行動を開始する」

 そう言って手渡されたのは、小型の無線機だった。

「決行は三日後にしよう。その間に、我々が襲撃するという情報を流しておく。首都からこの砦までは一日もあれば到着する。丁度良い頃合だろう」

 リオンのその台詞に、一同は、決意と共に深く頷いた。


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