3、はじめて、だらけ。
ミキ・・・
そんな新しい名前をつけられた私。
まずは衣装を選ぶように店長に言われ、連れて行かれた小部屋。そこにはズラーっと並んだきらびやかなドレスの数々・・・。
キラキラのスパンコールやラインストーンが光るドレス。さらさらとした美しいサテンのドレスや、ゴージャスなレースがふんだんにあしらわれたものまで。
今までこんな綺麗なドレスを近くでみたのは初めてかも。
「ここにあるドレスは全部、店服。お店のドレスだから。好きなの選んで。」
「は、はい・・・」
それにしても、どのドレスもボディラインばっちり出る感じだし。なんか露出も多いような・・・
「あんまり好みの無いかもしれないけど、稼げるようになったらみんな自分で好きなの買ってるから。ミキちゃんもすぐに好きなの買えるようになるから。がんばってー」
いや・・ただ生活費とレッスン費稼げるようになればいいんですけど。別にドレスなんて何でもいいんだけどな。
そんなことを考えながら、とにかく一番ボディラインが目立たなそうで、一番露出が少なそうなドレスを選んでみた。
紫色の、スパンコールがちりばめられたベアトップのサテンのロングドレス。ちょっぴり引きずる長い裾がなんだか上品でお姫様みたいだった。
「え?そのドレス?なんか地味だな・・・。もっとさあ・・そう、胸元バーンと開いて、スリット入ったドレスのほうが受けると思うけど・・・まあ今日はいいかぁ。」
店長は若干・・・というか、かなり不満げに私を見たが・・・しょうが無いじゃないの!無理なものは無理だし!
その後はメイク室に突っ込まれ、なんだかギャルみたいな美容師さん?に有無を言わさず髪の毛をぐるぐるに巻かれ、いわゆる『盛り髪』というすごい頭にされてしまった。
我ながら・・・・・・・・似合わない 涙。。。。
たまにコンビニで立ち読みする雑誌を見ては、誰でも『盛り髪』にすればそれらしく可愛くなるんだと思っていたけど・・・私のはなんだか、髪の色も暗いこともあって 田舎くさ~い 感じだった。そう。無理してがんばってる田舎のヤンキーみたいな。
鏡で自分自身をみながら、ちょっとため息をつく。
自分じゃ結構マトモな顔してるし、スタイル悪くないほうだと思ってたけど・・・鏡に映る野暮ったい姿を見る限り、自分のそんな自信は思い込みだったと思った。
その後は、店長からお酒の作り方とタバコの火のつけ方、グラスの拭き方なんかを一通り教えてらった。
そして今日だけ使う自分の名刺・・『カラ名刺』という店名だけ入った名刺に自分の名前を何枚か書かされた。お客様に渡すのだそうだ。
『MOON』 どうやらそれがこの店の名前らしい。緊張しすぎて店の名前を確認する余裕もないまま、ここまでいたことに正直びっくりした。
あとはお店の従業員・・ボーイと呼ばれる人たちの説明と紹介をされ、時間まで待機席で待つように言われた。出勤時間には皆接客していない時間は『待機席』と呼ばれる場所で、一箇所に待機をして待つのだという。
フロアとは少し離れた場所の小さなスペースに、ソファが並んでいた。他の子が来る前に、座って待っていたが、時間が近づくにつれて、一人、また一人と女の子がやってきた。
(う、うわぁ・・・・・・・・・!)
みんな、可愛い。すごい綺麗。そして、エロいぃぃぃ!
正直、素でほかの女の子達に見とれてしまった。
ボディラインくっきりのドレスを堂々と着こなし、クビレを強調してる子。
胸元が大きく開いたドレスから、惜しげもなく豊かなバストを見せ付けてる子。
超~短いドレスを着こなす美脚の子もいれば、
アイドルみたいにちっちゃくて可愛い子や
まるでハリウッド女優のようなゴージャスなオーラの人まで・・・・・・・
みんな芸能人みたいにばっちり化粧して、本当に綺麗。
同じ人種だっけ?私。 と、すら思った。
待機席に着けば思い思いの席に座り、携帯をいじる子もいれば、隣の子とおしゃべりを始める子、メイクの確認をする子など様々だ。
「ねーね。こないだ買い物行った時に会った人、あれ、あんたの客じゃなかった?」
「あー、あれね。あいつ、もう切った客なんだけどさあ。こないだ偶然会っちゃったから、調子こいてまた電話とか来るようになってうざいんだけど。」
「え、なんで切ったの?」
「やらせろってうるさいし。全然金使わないくせにさぁ。」
「あー・・それ超ウザイ。顔もきもいし。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「さっきメイクルーム居た子、前の店で一緒だった奴。・・あいつ、超ーむかつく女なんだけど。」
「わかるー。さっき、ブスのくせにヘアメに色々文句つけてたよねぇ。あ、来た来た・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
こ、
怖い世界だね・・・・。
私、一日ちゃんと持つんだろうか。
そういえば由美先輩・・じゃなかった、まりあさんの姿が時間になってもどこにも見えなかった。私と一緒に随分早い時間にお店に着いたはずなんだけど?
怪しまれない程度に、なんとなくあたりをキョロキョロ見回してみたが・・まりあさんの気配すら無い。
「いらっしゃいませ!」
ボーイの大きな声が響いた。店内が微妙にざわつく。と、同時に待機席も微妙にざわつき始めた。お客さん・・?が入店したのだ。
そのざわざわはフロアの置くのほうへと消えて小さくなり、代わって待機席のざわざわがはっきり聞き取れるようになってきた。
「・・・また?」
「むかつく」
「・・今月もう毎日同伴じゃない?」
「また今月も・・」
「またVIP?」
何か・・・・確かにみんな、誰かの悪口を言ってるような・・・・。
待機席のこそこそ話が聞き取れるようになり始めたころ、そんな空気を破るようにボーイが入ってきた。
「ミキちゃん!よろしく。まりあの同伴のヘルプ!」
「え・・・?」
「まりあさんが同伴で来たお客さんのヘルプに入って!」
え?私??へ、ヘルプって、何?
というか・・・悪口いわれまくりって、由美先輩・・・まりあさんの事だったの!?
なんだか色々ありそうな『MOON』というお店。・・・今日一日、大丈夫かな、私・・・。