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33、カースト制

「つーか、マジでありえないんだけどっ!!!!!」


 営業終了後のメイクルーム。皆、口々に文句を言ってはいたけど、ひときわ綾奈ちゃんの声が響いた。

「あいつらマジでありえないって!!何なの!?」

 自分のロッカーにポーチを乱暴に投げ入れる綾奈ちゃん。あいつらとは・・・そう、凛ちゃんと杏ちゃんだということは、そこに居る誰もがわかっていた。

「マジむかつく!ずっとキャストの入れ替えは無いし、着いた客に営業しようとしたら邪魔するとかホント、ありえねー。超ー時間の無駄!」

 今までに無いくらい爆発している綾奈ちゃんを、誰もが止めようとは思わなかった。だって、ほとんどのキャストが同じことを思っていたから・・・

「つか、岩村も超つかえねぇー!!!ほんとむかつく!!!」

 綾奈ちゃんはついには岩村にまで怒りが達したらしい。岩村に直接文句を言おうとフロアへ繰り出していってしまった。

 ヤオーが帰ってからも、1セットくらい延長して残っていた凛ちゃん・杏ちゃん指名のヤカラ客。来店していた他のお客さんのほとんどが、指名有りの常連のお客さんということもあり、最初にヤカラ客に着いた女の子達はほとんど入れ替えが無いままだった。本来ならウチの店では指名ナシのフリー客についた女の子は、店内の状況にもよるけど1セットで3~4人くらい入れ替わる。自分の指名のお客さんが来ている場合でも、同じ時間に『良いお客さん』になりそうなフリー客がいる場合、少しの時間だけでもその女の子をフリー客に回したりしてる。・・・・が、今回はそれは無かったようだった。

 綾奈ちゃんや他の女の子が言うには、他のヤカラ客・・つまりは凛ちゃん・杏ちゃん指名のお客さんの『枝』であるお客さんに着いた女の子が、そのお客さんと番号交換しようとしたり、場内指名を取ろうと営業するものなら、すかさず凛ちゃんと杏ちゃんが邪魔をしていたらしい。営業妨害ってやつだ。

 さらにはゲームで負けた女の子にもイッキ飲みをさせ酔い潰したり、同じようにヤカラで潰れてべろべろになるのもいて、グラスは何個も割れるわ、ボトルは倒して床が水浸しになるわで・・・とにかく、ぐちゃぐちゃな感じだったらしい。

 あのグループで一番偉いのはリーダーらしい杏ちゃんのお客、次は凛ちゃんのお客・・といった感じだったから、他のヤカラ客は自分の好きなようにはできなかっただろうし、文句も言えなかっただろう。

 ヤオーは・・なんかちょっと『別物』って感じなのかな?いまいち関係性は分からなかったけど、凛ちゃん・杏ちゃん指名のお客さんに遠慮することもない立場なんだろうなとは思った。一人で先にみんなの分会計して、眠いとか言って勝手に帰るくらいだし・・・・。

 今日は、まりあさんのお客さんが結構来店していたこともあり、私はヤオーが帰ってからはすぐにヘルプにまわされてしまったから、詳しいことはよく分からないんだけど・・・みんな綾奈ちゃんのように爆発はしないにしても、かなり不機嫌に、仲が良い子同士でぶつぶつ文句を言いながら着替えと帰り支度をしていた。

 当の凛ちゃんと杏ちゃんは

「送りキャンセル~!アフター行ってくっから~ぁ!」

 ・・・・と、営業終了後すぐさま、ドレスを脱ぎすて、靴だのドレスだのを片付けることも無くその辺に放り出したまま出て行ってしまっていたのだ。

 


「・・・岩村さぁ、あれでいいわけ?」

 アキラちゃんがちょっと乱暴にタバコに火をつけて、煙を吐いた。みんなが帰りの車や、アフターに出て行ってしまった後の店内。閉店作業に忙しいフロアの一角に座るアキラちゃんと、私と、それから岩村。・・・いつものように送りをキャンセルしてアキラちゃんとラーメンを食べに行くところだったんだけど、店を出る前にアキラちゃんが岩村を見つけて、ソファに座らせ話し出したのだ。アキラちゃんもあのヤカラグループへの不満があったらしい。

「・・んな事言ってもなぁ。入店させるって決めちゃったの店長だし、ウチの店じゃ禁止してるゲームとかイッキ飲みとか・・目をつぶってろってことだったしさぁ・・・」

 岩村はちょっと疲れたように、困った顔をして頭をかいていた。他の女の子も送りの車に向かう前に、岩村を囲んで散々責めていたので・・ちょっと可哀想な感じだ。岩村はネクタイを外し、一つため息をつくと話を続けた。

「・・わかったと思うけど、凛も杏も、自分の指名客が連れて来た『枝』は絶対にとらせようとしないからね。これはもう、ずっと昔、池袋で一緒だった頃から。自分達の売り上げは自分達のもの。あいつらの仕事はいつもそう。そんな使い物にならない『枝』だってわかってても、キャスト回すのが付け回しとして当然だとは思うけど・・今日のキャスト、他に誰がいる?『MOON』ナンバー1・まりあさんや、ナンバー2・ゆいちゃん、歌舞伎町の人気嬢エナちゃんをさ、あの席の下っ端の『枝』客なんかにつけれる訳ないだろー。しかもお客にならないってわかってて。唯一お客になりそうなジャージの人はミキちゃん指名になってたしさぁ。やっぱりそのお客様と色々な意味で釣り合うキャストを付けないといけないんだよ。・・・他の指名が入ってるキャストだって、わざわざ指名の席から抜いて、あの席に付ける必要なんて無いだろ。そんなの指名のお客様とキャストに失礼だよ。だからさ、付きっ放しだったキャストには我慢してもらうしかなかった・・・・・つーか、アキラちゃんの事はすぐ抜いてまりあさんのヘルプに回したじゃん!?なんで怒ってんの?」

 ちらっとアキラちゃんは岩村を見て、またタバコをふかす。

「別に。あんな接客のキャストが働いてたり、あんなお客が出入りする店になるのが嫌なだけ~。・・で?閉店作業ほったらかして、店長と宮道は?」

「え?あー・・さっきの凛と杏指名のお客様が一緒にアフターに誘ってってさぁ・・2人で出てったよ。」

 アキラちゃんの質問にそう答えて、岩村は大きくため息をついた。

「凛と杏はさぁ、・・・態度は悪いし、遅刻に無断欠勤当たり前だし。枕だの裏引きなんかも当たり前。色々問題も起こす奴等だから・・池袋の既存店じゃ、もうどこも働けないって話なんだよね。。おそらく宮道は店長レースの売り上げの為だけに2人を引っ張ってきたんだと思うから、この店にも長くいるとは思えないし。だからちょっとだけ我慢してよ。それでもあいつらは在籍してる間は、大金使う客を連れてきて、かなり売り上げあげるからね。店としては凛と杏に強く出ることはまず無いと思う。凛も杏も無断遅刻だの欠席だの多いから、罰金で引かれまくって、あいつらの手に渡る給料は毎回メチャクチャ少ないからさ。店の儲けだけ出して、給料出すの少なくて済むなんて店としてはウハウハだし。」

 ・・・ふーん。やっぱり色々問題あるんだ、凛ちゃんと杏ちゃん・・。それにしても『MOON』らしくない2人と、そのお客さん。それでも店長が雇ったってことは、やっぱり売り上げが上がるからなのかな・・。

「この世界は本当の意味で格差社会だからね!わかる?ミキちゃん!!!」

 岩村が妙に力説しだした。

「え、ええっ!?」

 アキラちゃんと岩村のやり取りを横で傍観し、一人でぼーっと考えていた私はビクッとした。い、いきなり私に話を振らないでほしいんだけど・・。

「水商売はカースト制だぞ!一番偉いのは、お金を使うお客様!次に偉いのがそのお客様から大金を引き出せる女の子!次に黒服!そして・・一番身分が低いのは売れない女の子!だから・・・他の女の子や店に文句や要望があるなら、自分の売り上げしっかりあげてから!!」

「う・・売れない女の子・・・」

 一瞬ヒヤッとして言葉に詰まっていた私。そこへアキラちゃんが岩村に反論する。

「まあ、ウチはそれにまだ色々と付くけどねぇ~。一番偉いと思ってるのは林田店長、次に偉いのは店長とヤッた女の子、次がお客様、そしてお客様から大金を引き出せる女の子、黒服、売れない女の子・・・」

「おいおいおいおいっ。ア、アキラちゃん、言いすぎじゃない~?ミキちゃんもいるんだし、変なことあまり言わないでよ。」

 岩村は大焦りでアキラちゃんの話をごまかそうとする。・・いや、ごまかさなくても、もう色々知ってるんだけど。

「だって本当の事でしょ。ミキちゃんは大丈夫ー。もう色々レクチャーしといたから今更驚かないし。ね?ミキちゃん。」

「え、えええ・・と。うん・・・」

 私はどんな表情をしていいかわからず、アキラちゃんの言葉にあいまいに返事をした。

 そんな私とアキラちゃんの様子を見て、岩村はちょっと苦笑いしながらも、しょうがない、といったようにまた大きなため息をついたのだった。




 

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