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28、ガールズトーク

「ねーミキティ、こっちのほうが可愛くない?」

 鏡の前ではアキラちゃんが、鮮やかなピンクのミニドレスをカラダにあてている。


 久しぶりに舞台稽古が休みの日曜日。昼過ぎに新宿で待ち合わせ、アキラちゃんと一緒に月末の『ドレス新調デー』用のドレスを買いに来ていた。正直、ドレスなんてどこで買って良いかわからなくてアキラちゃんに相談したところ、じゃあ一緒に買い物に行こうという話になったのだ。

 新宿の地下街っていうのかな。新宿駅の駅ビルから繋がる、沢山のお店が並んだ地下街に連れてきてもらったのだ。

高いドレスは買えないってアキラちゃんに話したら、笑いながら1万もあれば十分おつり来るっていわれたんだけど・・・大丈夫かな・・。

「あ、これ凄い可愛い!ミキティに似合うよ!」

 そういってアキラちゃんが真っ白なミニドレスを持ってくる。けど・・なんだか、凄い伸びる素材で・・・体のラインがバッチリ出ちゃうようなストレッチ素材のドレスだった。昔で言う『ボディコン』?みたいなカンジ。さすがにそれを着こなせる自信は無い。生地も結構透けちゃうみたいだし・・。

「ちょ、ちょっとこれは・・ぱつんぱつんになりそうだし・・・」

「あー確かに。ここの店のドレスって安いんだけど、生地がストレッチ系なのがほとんどなんだよねぇー。」

 アキラちゃんはそう言っては、また他のドレスを手にとっては、私に見せたり自分の体にあてたりしていた。

 どのくらいそのお店に居たのだろう。私達は店内を散々物色し、試着を繰り返し・・・結局アキラちゃんは真っ赤なミニドレスで、コルセットのようにリボンを結びあげるデザインのドレスを選んだ。ドレスの裾はたっぷりのフリルで、試着した姿はなんだかボンテージ下着を連想させるようなカンジで・・かなりセクシーなドレスだった。アキラちゃんて、原色とか、強めなイメージがよく似合う。

 私はといえば、選んだのは薄いピンクの総レース生地のロングドレスで、ところどころパールビーズがあしらわれ、胸元も大胆に開いていて、スリットが深く入っているドレスを選んだ。岩村が勝手に選んだいつものドレスと同じカンジなんだけど・・・なかなか新たな冒険は出来ないな・・。

 そうそう。驚いたのが、そのドレスが5,000円もしなかった事!アキラちゃんが選んだドレスなんて、2,980円なんて値段だった。最近は輸入物のドレスも多くて、5,000円前後で手軽に買える物も多いらしい。もう少し良いものでは13,000円前後からでも揃うという。

「それでもやっぱり、値段が良いヤツは見ただけですぐ分かるんだよねぇ。まりあさんなんて、毎回ドレス新調デーにはお客様にすっごい良いの買ってもらってるから、今回も注目ってカンジよ。80,000円以上するドレスなんて、アタシには縁が無いし〜。」

「ええっ!?」

 アキラちゃんの言葉に、目玉が飛び出そうだった。は、はちまんえんですか・・・・。う〜ん。さすがまりあさん・・。

「素材が高級シルクとかさぁ、有名ブランドのドレスとかさぁ〜。やっぱり良いヤツはすっごくスタイルよく見えるし、綺麗に見えるように作られてるんだよねぇ。」

「それじゃあ、ますます綺麗になって、まりあさん大人気だね・・・。」

 私達は買い物をすませて、地下街を出る。結構時間が経ってるとは思っていたけど、表に出るとすっかり夕方になっていた。せっかくの休み。お腹もちょっと空いてきたので、私達は近くの個室居酒屋に入ることにした。

 仕事終わりのアキラちゃんとのラーメンは、もはや日課になっていたけど、一緒に休日に遊んでお酒を飲むのは初めてだ。適当につまみや料理を頼み、生ビールで乾杯する。しばらくはこの料理が美味しいだの、コレは失敗だの適当な話をしていた。私がちびちび最初のビールを飲んでる間、アキラちゃんはビールを2杯、3杯と、どんどん空けていく。さらにはビールが飽きたといって、今度は日本酒の熱燗を注文し始めた。結構アキラちゃんって、酒豪!?つか、オヤジか。そんなオヤジな姿も、アキラちゃんだとなんだか違和感が無いのも面白い。 お酒も入って饒舌になったアキラちゃんと私はお店のことも話し始める。○○ちゃんがどうとか、あのお客さんがどうだったとか、顔が好みのお客さんは誰だとか、昔は店長がどうだったとか、最近の店はこうだとか・・・・

「そういえば、新店舗の店長、やっぱり岩村かなぁー」

 アキラちゃんが枝豆をつまみながら話す。やっぱりお店の話になると、新店舗の話に及ぶよね。

「今のところ売り上げも指名数も、岩村の担当のほうが多いカンジだよね。・・なんで宮道は店長レースに出ようと思っちゃったのかなぁ?最初から負けが見えてるじゃん?」

 私はテーブルに出てきたばかりの寄せ豆腐を取り分けながら、つぶやいた。誰も宮道が店長になりたがってるなんて予想もしてなかったみたいだし・・・。

「うーん。・・なんだろね。なんか勝算があるから店長レースに名乗りをあげたんだろうけど。宮道にそんな秘策があるとも思えないんだけどなぁー。宮道はアタシの担当だけど…宮道担当のキャストも誰一人、宮道が店長になれるなんて思ってないからねぇ。みんな自分のクビの為だけに頑張ってるし。」

 アキラちゃんは腕を組んで、後ろの壁にもたれかかった。

「岩村はさぁ、もともと色んなところで水商売してて、小さな店では店長として働いてたこともあるみたいなのね。で、『MOON』立ち上げの時、ケイ君と林田店長が飲みに行ってた池袋の店から岩村を引き抜いたんだー。ヤクザとかヤバイ金融とか、そんなお客しか来ないような店だったんだけど、ケイ君が岩村の対応を気に入っててね。」

 アキラちゃんはそういって熱燗の入ったおちょこを飲み干す。

「宮道はー・・『MOON』立ち上げてしばらくした頃に、ボーイのバイト募集でやってきたのよ。結構いい年の男で小学校教師辞めて、水商売とか、どーよ!?ってカンジなんだけど・・」

「えっ前職、小学校教師なの!?」

 随分とオカタイ職業から…なんでまたボーイに!? 

「噂によればね…キレて生徒殴ってクビになったとか、モンペの保護者に暴言吐いて殴りかかってクビになったとか…まあ、ろくな理由じゃなさそうなのは確かね。」

「そんなキャラには見えないけど…」

 いつもニコニコしていて太目で朗らかな宮道のイメージとは、程遠い噂の内容。…でも、店長レースに出ると決まったあとの岩村への陰険な笑顔…それを思えば、いつものイメージよりも、その噂のほうが信憑性が増す。

「宮道とはミーティングしたり、今までゆっくり話す機会あってもイマイチ何考えてるのかわかんないのよね。水商売のセンスがあるとも思えないし。」

 そう言うとアキラちゃんは熱燗のとっくりが空になったのに気づき、次の酒を頼もうとメニューをめくりはじめた。

「…けどまあ、人に取り入るのはうまいのかもね。」

「取り入る??」

「そう。ケイ君はボーイでは岩村の事を買ってるんだけど…店長は宮道イチオシみたいよ。」

 アキラちゃんは店員を呼び出すボタンを押し、すぐにやってきた店員に酒を注文し、タバコケースを取り出した。

「宮道は店長のやることなすこと、何でもマンセーしまくりだからねぇ。酔って暴れても何しても、宮道だけはホイホイ持ち上げるから…。店長もあんまり頭良くないからさ、そんな単純なやり方で、宮道は店長のお気に入りになっちゃったワケ。」

 単純…過ぎるだろ、それは…。

 でも、今までの店長の言動を思えば…そんなもんかもしれない。そうは言っても、店長って立場なら一国一城の主でしょ!?そんなんで、大丈夫なのかなぁ…

 アキラちゃんがタバコに火をつけ、しばらくした頃に、店員さんがアキラちゃんが頼んだ次のお酒を持ってきた。

「店長とはいえ、オーナーはケイ君だから。店長もケイ君無視して宮道持ち上げるわけにもいかないし。リアルで売り上げとかも大事な問題だからねえ。そういうのも面白くなくて、店長は自分の発言力とか主導権大きくしたいみたいだから、自分の子分みたいなのをもっと沢山、重要な役職にしたいんじゃないかなー・・最近ケイ君と店長、意見が衝突することも多いみたいだし、店長の酒癖もあんなんだし・・・これからお店、どうなっちゃうのかね。何もなきゃいいけど。」

「何も・・・なきゃいいよね・・・・。」

 私もぼそっとつぶやいた。このまま何事も無く、新店舗オープンとリニューアルオープンするんだろうけど・・・。なんだかちょぴり心配だった。何が心配なのかはよく分からないんだけど・・・。オーナーと店長の仲も良いわけでもないみたいだし・・・。

 私が色々思いをめぐらせている間、アキラちゃんはお酒と一緒に運ばれてきたチャッカマンを手に取つった。

「・・・・つか、アキラちゃん。その酒、何?」

「ん?」

 私があっけにとられている中、アキラちゃんはいきなり手元のお酒に火をつけ、すばやく蓋をした。

「これ?ふぐのヒレ酒。寒い季節はやっぱこれでしょ~!」

 そういってアキラちゃんは手元のエイヒレをつまんだ。

「・・・・ごめん。やっぱ、アキラちゃん、オヤジだわ・・・!!!」

 私は堪えきれずに、大笑いしてしまった。

「ええー?良く言われるんだけどさぁー。これってフツーじゃない?」

 アキラちゃんはきょとんとして、ヒレ酒を口にする。」

「くはー!うまいっ!!」

 思わず発したアキラちゃんの言葉に、私はまた噴き出してしまう。

「やっぱオヤジ!!」

 個室にはしばらくの間、私達のにぎやかな笑い声が響いた・・・・。

 

 

 





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