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23、綾奈

 周りのキャストの女の子の冷たい視線も気にせず、店長は強引に私の手を引いて店長室に向かっていった。


「あれーぇ、店長、酔っ払ってんの!?」

 フロアを出て、裏に入ったところでアキラちゃんがやって来て大げさに声を上げた。

「あ、アキラちゃん・・・!」

 腕を掴まれて困惑している私を見て、アキラちゃんは更に大げさに話す。

「やだぁー、店長、セクハラぁー!?お店の中では、よしてよねぇー!」

「・・おい、勘違いすんなよ、俺はなぁ・・」

 アキラちゃんのワザとらしい話し声に、さすがに店長も掴んでいた手を離した。

「えぇー、だって酔ってると店長、いっつもセクハラモードじゃん。」

 い、いつも?もしかして、この店長って酒癖があんまり良くないのかな?だからさっき私達の様子を他の女の子も見ていたけど、冷ややかに見ていただけで何も言わなかったのって、・・・日常茶飯事だからってこと!?

「・・・ったく、ほんとにお前はうるせーな!いくらケイ君のお気に入りだからって、調子乗んなよ!」

 そう言うと店長は不機嫌な顔をしてアキラちゃんを睨む。相変わらずアキラちゃんは、そんな店長を茶化すように

「おーこわい、こわい!助けてー犯されるぅー!」

 と、笑ってふざけている。・・・店長とオーナー、そしてアキラちゃんは特別付き合いが長いみたいだし・・この3人の関係は、まだよく分からないけど、お互い『ケイ君』『林田ちゃん』なんて言い合う仲だし、アキラちゃんに至っては直接オーナーと連絡とってるみたいだしなぁ・・。そんなこともあってか、この店でこんな風に堂々と店長に物言いできるのは、アキラちゃんくらいだった。不動のナンバーワン・まりあさんでさえ、そこまで堂々と店長に口答えするのは見たことない。

「?どうしたの?」

 そこへ、ちょうどトイレから出てきたらしいまりあさんがやって来た。ばつが悪くなったらしい店長は、不機嫌なまま

「・・なんでもねぇよ!・・おい、まりあ、着替えたらミキティ連れて一緒に店長室来いよ!」

 とだけ言って、乱暴に店長室のドアを閉めてしまった。・・まりあさんと一緒に・・・ああ、それじゃあ危ないことも無いか。いや、でも何の用なんだろ?まりあさんと一緒にって・・・

 相変わらず私が呆然と立ち尽くしていたところで、まりあさんがくすくす笑う。

「・・ふふ。ミキちゃんの事、ミキティって呼ぶことになったの?可愛いー。私もこれからそう呼ぼうっと。ミキティ、早く着替えてね。」

「あ、ええ!?」

 なんだか恥ずかしいやら照れくさいやら、、状況がつかめないやらで、答えに困ってた私を置いて、まりあさんはさっさとメイクルームに向かってしまった。隣を見ればアキラちゃんもニヤニヤ笑ってる。

「いいじゃん、ミキティ!お客さんにも浸透しそうだし。さ、早く着替えないと!急いで、ミキティ!」

「え、ええー・・。」

 ちょっぴり人がまばらになっていたメイクルームで着替える私達。人が少ないとはいえ、周りに他の女の子も居たので、この後店長になんで呼ばれているのか、まりあさんに聞くことができなかった。もちろん、その場にゆいちゃんや、ゆいちゃんと仲いい女の子達も居たからなんだけど・・・。

 私がお店にやって来た初日、待機席でまりあさんの悪口を散々言っていたメンバーだ。私がまりあさんの専用ヘルプになったと知るや否や、さすがに私の聞こえるところではまりあさんの悪口なんて言わなくなったけど・・・・・影で色々言ってるだろうことは目に見えてた。やっぱり、ゆいちゃんと仲が良いメンバーは、まりあさんをよく思って無いらしい。そりゃそうか。まりあさんが来なければ、ゆいちゃんがナンバーワンで、店長の一番のお気に入りだったんだもんね・・。

「ねーまりあさん。オーナーの友達がやってる上野のお店、今日、オープンイベントあるの知ってたー?」

 着替えていたまりあさんに、おもむろに話しかけて来たのは、ゆいちゃんと一番仲が良いらしい、綾奈ちゃんだった。色白で、茶髪。いつも無造作に髪を巻いていて、そんなに可愛いって子では無いんだけど、ゆいちゃんと仲がいい事もあって、ゆいちゃんの席の『おこぼれ』指名や、場内指名なんかをもらっていて、言ってみれば、ゆいちゃんの専用ヘルプみたいな子だ。この子、待機でもほとんど携帯いじりばかりしていて・・・たまにゆいちゃんや、他のゆいちゃんと仲良い女の子とだけ、こそこそ喋ってるようなカンジの子だ。だから私もほとんどしゃべったことも無く、一緒のテーブルに着いても綾奈ちゃんには軽く無視されている。

「あー・・まあね。」

 まりあさんは着替る手を止める事無く、適当な返事をしていた。ドレスから、ミニ丈の大人っぽいワンピースに着替える。私と、おそらくアキラちゃんは耳をダンボにしながら着替えていた。

「ゆいと私ね、店長から聞いてたから出勤前にお花注文して贈ったんだけど・・・まりあさん贈ったー?」

 ぶっきらぼうでだるい言い方だけど、ちょっと意地悪に綾奈ちゃんが言う。・・・・えっと。・・これは・・・何だかバトってるカンジ・・!?

「・・贈ってないけど。」

 まりあさんは鏡に向かって化粧直しをしながら、無表情に答えた。私とアキラちゃんも着替えを終え、そんなまりあさん達の様子を伺いながらこそこそ帰り仕度をする。アキラちゃんはタバコのケースを探しているらしく自分のカバンをごそごそしていた。

 綾奈ちゃんは、まりあさんの答えを聞くと鼻で笑い、さらに意地悪く唇をゆがめて笑う。

「そうだったんだー、じゃあまりあさんの名前も連名で入れてあげればよかったねー。聞かなくてごめんね、まりあさん。ナンバーワンがお花出してないと、カッコ悪いもんね。」

 まりあさんは無言のまま、唇にグロスを塗り、鏡の自分の姿を見て、ニコっと微笑んだ。

「いいのよ。気にしないで綾奈ちゃん。私、オーナーと店長と連名で10段のテキーラボールタワー贈ってるから・・・お花にも別で名前あると、ちょっと色々困るのよ。」

 そういって、またニコっと微笑んで見せた。・・・て、テキーラボールたわー???なんだろ、それ?テキーラって、あのお酒の事だろうか・・・。これまでも色々な『夜の世界の謎キーワード』は沢山あったけど、これは初めて聞く。シャンパンタワーってのは、よくテレビのホスト特集とかで見たことあるけど・・・・

「私は普通のシャンパンタワーで良かったんだけど・・・新しいもの好きの店長がどうしてもって言うから仕方なくて。・・・さ、ミキティ早く仕度して。これからその、オープンイベントパーティに呼ばれてるんだから、お化粧直しもしなきゃだめよ。」

「え・・・。」

 一緒にっていうのは、私とまりあさんで、そのイベントに行くってことだったのか!? まりあさんは憎々しげな視線を送る綾奈ちゃんやゆいちゃんには目もくれず、鏡で髪の毛を入念にチェックしてる。それはそうと、私、そんなパーティに行けるような服でもないんだけどな・・・デニムに適当な長袖Tシャツ、ダウンコートといった服装なんだけど。そ、それにお金も無いんだけど・・・大丈夫かな。

「アキラちゃんも来ればいいのに。オーナーから誘われたんでしょ?」

 今度はまりあさんが、まるで綾奈ちゃんやゆいちゃんに当て付けるように、アキラちゃんに話をふった。・・・えっと・・アキラちゃんも呼ばれてるんだ?アキラちゃんとオーナー達は古い付き合いみたいだから、呼ばれてても不思議は無いけど・・・。

「んー・・・・。ケイ君と一緒に行ってもつまんない店だから、断っちゃった。一応ご祝儀と、スタンド送ったから義理立てはこれでいいかと思ってるけど。今日は、まりあさんとミキちゃんで行って来て。」

 アキラちゃんはまだタバコケースが見当たらないらしく、今度はロッカーを探りながらぶっきらぼうに答えた。私はとりあえず、さっちゃんに施してもらったカリスマメイクのグロスだけを塗りなおし、髪の毛をちょっと手櫛で直してみた。正直、さっちゃんのメイクはこんなに時間が経ってるのにも関わらず、崩れるとか、テカるとかほとんど無くて・・・化粧直しなんてほとんど必要無かった。給料が出たら、さっちゃんプロデュースのコスメとやらを絶対に買おう・・

「へー・・・なんでアキラが誘われてんの・・?」

 冷ややかな声の綾奈を全く無視して、アキラちゃんは私に『おつかれ~』とだけ言うと、タバコケースを探しにフロアに出て行った。フロアから『アタシのタバコケース知らな~い?』という、アキラちゃんの声が聞こえる。

「さ、早く行こう、ミキティ!私もテキーラボールタワーとかっての見るの初めてだから、楽しみなの!シャンパンタワーならよく見るんだけどね。」

「あ、はい・・・・」

 ばっちり化粧直しをしたまりあさんは、私の手を引いてメイクルームから出た。ゆいちゃんと綾奈ちゃんの『むかつく~』という声は、まりあさんにも聞こえてたはずだった。

「あの子達はあんまり気にしないで。何かと絡んでくるの、いつもの事だから。」

 店長室に向かいながら、まりあさんが私に囁いた。

「・・ゆいちゃんはいつも私への文句とか、綾奈ちゃんに色々言わせてんのよ。綾奈ちゃんは綾奈ちゃんで、オーナーのケイ君の事好きみたいだから、オーナーと仲良いアキラちゃんの事がむかつくみたいなのよね。くだらない。」

 まりあさんも、多少むっとした様子だ。この様子を見る限り、いつもいつもの事で、大分めんどくさがってるカンジはした。・・・・それはそうと、いつの間にか一緒に行くことになってるけど、私、お金も全然ないし、こんな格好だし・・・かなり心配になって小声でまりあさんに言ってみた。

「ん?全然大丈夫!オーナーとか店長と一緒にどっか行くときは、全部出してくれるから平気よ。服もそれで大丈夫。・・・ミキちゃん、初めてじゃない?ホストクラブ行くの。」

「えええ!?ほ、ホスト!?」

 えっ・・?もしかして、これから行くのって、ホストクラブなの!?

 ホストなんて、行くの初めてだから、なんか、不安・・・・・



 

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