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11、ヘルプの品格

 まりあさんのヘルプになりたいと、近づいてきた女・舞・・・・


「ねぇ、ミキちゃんからもお願いして~!」

「うーん・・・・でも、私もよくわからないし・・・」

 ちょっと困ってしまって、答えをはぐらかしていた。実際、私自身もどうして突然まりあさんのヘルプになったのか・・・学校の先輩・後輩関係であっても、特に親しいとかそういう訳ではなかったし。状況がよく分からないまま、ここに居るのだ。

「お、舞!おはよー!遅かったじゃん。」

 しつこく迫る舞さんに困り果てていた所に、接客を終えたアキラちゃんが戻ってきた。

「おはよー、アキラちゃん。」

 アキラちゃんは私の隣に座り、タバコケースを出し、火をつけた。

「・・舞さん、いきますよ!」

 岩村が待機席に顔をのぞかせる。

「ミキちゃん、少し休んだ?次、お客様に着くからね!」

「は、はい!」

 岩村に呼ばれた舞さんは、さっとグロスを塗りなおしフロアへと向かった。私は舞さんに手渡された分厚い名刺のファイルをぺらぺらと、台紙を選ぶでもなく、ただただめくっていた。

「ん?ミキちゃん、名刺選んでんの?」

「あ、ああ。これ、舞さんが持ってきてくれて・・・」

「・・・・あー・・なるほどね」

 アキラちゃんは何か含みのある言い方をして、タバコの煙をフーッと吹き出した。

「あの子、気をつけたほうがいいよ。」

「えっ?」

 私はファイルをめくる手を留めた。アキラちゃんは吸っていたタバコを灰皿に押し付け、話し声が周りに聞こえないようにと、顔を近づけてきた。

「・・・あの子・・舞ちゃんさぁ、結構問題起こす子なんだよね。なんていうか、野心家っていうか、野心はあるんだけど仕事はめちゃくちゃっていうか・・・」

「野心?」

「舞ちゃん、まりあさんのヘルプになりたいって言ってなかった?」

「・・言ってた・・」

 アキラちゃんは『やれやれ』といった顔をして、さらに小声で続けた。

「舞ちゃんさぁ、入って1ヶ月になるんだけど、本指名も場内指名も取れなかったからリストラ対象になってたんだよね。18歳で若いってだけで、見た目はイマイチでしょ?うちの店結構厳しいから、初心者でもある程度見込みないと思われると直ぐにクビよ。最初の時給の保障は1ヶ月で切れて、今月は舞ちゃん時給3,000円以下って話。これ、本人がべらべらみんなに喋ってたから、秘密でも何でも無いんだけどさ。」

 歌舞伎町で、しかもこのお店で時給3,000以下というのは、凄く低い時給レベルらしい。・・あれ?確か時給がどうとか言っちゃいけないって決まりだったような・・・。

「でね、焦ってやる気を出して、多少頑張ってくれればクビにはならないんだろうけど、よくわかんないやり方すんのよね。ゆいちゃんのお客さんにヘルプに入って勝手に自分の連絡先教えて、自分の指名にしたり。他の女の子のヘルプに入って、その女の子には実は彼氏が居るとか、本当は何歳だとか・・・まあ余計な事して他の子が頑張って営業して来てくれたお客さんを怒らせたり、指名をダメにしちゃってさぁ。」

「そ、そんなことしたら、クビなんじゃないの?」

 あまりの内容に私も小声で話す。

「そうなんだけどね、むかつく事に人から汚い手で奪ったお客を、最近何人か指名として呼んだりするから・・・ぶっちゃけ、お客に簡単にヤラせたりしてるみたいよ。そのお陰か、ある程度の売り上げ出してるみたいなんだよね。店としては成績だけでリストラしにくくて。店的にはどんな手を使おうと、売り上げ立ててくれれば、無理にリストラする必要も無いんじゃない?お客に言った言わないは、録音したわけじゃないから、前後の状況から考えて舞ちゃんが話した?・・って憶測だけだし。決定的な証拠もあるわけじゃないし。」

 売り上げさえ立ててればって・・・そんなのいいの!?

「でも、まあ本当はそういう営業は自分のお客にやれって話で、ヘルプの席でやること自体認識がおかしいんだよね、あの子。だから舞ちゃんみたいな子がのさばって、他の良い子達が辞めちゃうと、お店は一番困るから、これから何か手は打つと思うんだけどね・・・・。そんな気配を舞ちゃんも感じているから、まりあさんの専用ヘルプになって命綱つなぎたいんじゃない?ほら、舞ちゃんにはウチら『チーム・まりあ』は、楽して毎日保障された時給稼いでるようにみえるんでしょ?」

 アキラさんは呆れたようにソファに背を預け、ため息をついた。

「誰でも簡単に専用ヘルプになれるんなら、みんな苦労しないわ。まりあさんのお客さんは良い人が多いけど、指名が重なってまりあさんが数分もお客さんの席に着けない時や、お客さんが機嫌悪い時のフォローとか、アフターに行くのもどんなに疲れてても一緒に行ったり・・・私達はまりあさんに感謝してるし、大好きだから苦じゃないけどね。・・舞ちゃんが思ってるほど、そんなに楽じゃないけどな。」

 再びアキラちゃんはタバコを1本取り出し、火をつけた。

「舞ちゃんみたいな変な子が、まりあさんの邪魔しないように専用のヘルプってのを店長が作ったからねー。舞ちゃんには無理、まりあさんのヘルプは。ゆいちゃんなんか、もう何人もお客さん被害あってるし。そんな危険な子、誰だってお断りでしょ。」

 待機席にまた何人か女の子が戻ってきた。がやがやと、多少待機席もにぎやかになる。

「ヘルプにもまともに入れないとなると、お店としては使いずらいだけだしね。」

 周りが騒がしくなったからか、先ほどよりは普通の話し声でアキラちゃんが続けた。

 なるほど・・・。岩村が言っていた『ヘルプができない子は指名を取ることもできない』っていう意味が、私にも少しわかってきた。

「あ・・でも、ゆいさんそんなに被害あってるなら、ゆいさんのヘルプも専用みたいにできないの?舞ちゃんは絶対ヘルプに入れないとか・・・」

 話を聞いていて、なんだかゆいさんが可哀想になってきた。千葉さんみたいな気難しいお客さんにも良く接客して、頑張ってるのに・・何人も被害にあってるとか・・

「・・んー・・・・・・。なんていうかなぁ・・人が余ってるときは舞ちゃん以外使うようにしてるみたいだけど・・・・」

 アキラちゃんは苦笑いをする。

「・・店長は今、まりあさんにぞっこんだからねぇ・・・ゆいちゃんの事は、もうどうでもいいっていうか・・・」

「・・・へ?」

 て、店長が・・・何???まりあさんにぞっこん?ゆいちゃんはもうどうでもいいって・・どういう事!?私が突然の展開にポカーンとしていたところ、岩村が待機席にやってきた。

「はい!ミキちゃん、アキラちゃん!一緒に席に着くよ!!」

 相変わらず岩村はテンション高い。立ち上がったところで、アキラちゃんが私の腕をつかんだ。

「・・・今日、終わったらご飯行かない?」

「う、うん・・」

「・・じゃ、色々な話はあとで・・」

 アキラちゃんは岩村に聞こえないようにできるだけ小声で、早口に話した。

「じゃあ、ミキちゃんとアキラちゃん、大手企業の方々4名様だから、よろしく!」

 アキラちゃんの話の続きが気になりながら、私はアキラちゃんと一緒にお客さんの席へと着いた・・・・・・

 

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