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9、スーパーへルパー

 開店までの小1時間・・・みっちり『岩村考案・接客マニュアル~初級編』を特訓されたワタシ。


結構役立つものから、今の私には『そんなこと何か意味あるの?』ていう物まで色々あった。お客様への挨拶の仕方、席の座り方、ライターの火のつけ方、灰皿の交換のタイミングや片付け方、テーブルクリーニングやお絞りのたたみ方に至るまで・・・それから、ボーイさん達への『灰皿』とか『おしぼり』とかのサイン?とかもね。本当に細かい接客マニュアルだった。本当なら開店まで時間がある・・予定だったものだから、仕度が済んだら軽くご飯でも食べようかと思ってたけど・・・そんな時間はもう無さそうだった。買ってきたコンビニのおにぎりは持って帰って家でたべようかな。

 それはそうと今日はまりあさんが休みの日だったのか・・・。誰も知ってる人が居ないと、やっぱりちょっと不安だな。私は昨日と同じく待機席へと移動した。開店時間に合わせて続々と仕度をすませた女の子達が待機席に集まっていた。私も座ろうと、空いた席を探していた時・・

「あ!ミキちゃん!こっちこっち!!」

「?」

 ソファの端に座っていた女の子が声を掛けてきた。

「はじめまして!あたし、アキラ!ミキちゃんも、まりあさんのヘルプなんでしょ?隣座って!」

 私と年は同じくらい、色白で茶色い髪をグルグル巻いた盛髪にした、ちょっと綺麗な顔立ちの子だった。ミキちゃんも・・ってことは、このアキラさんも、まりあさんのヘルプなのかな?

「今日はまりあさんが休みだから、ヘルプの子もほとんど出勤してないからさー!よかった、ミキちゃんが居て!」

「う、うん。」

 そう言うとアキラさんは自分の名刺を取り出して、なにやら書き始めた。

「はい、これ。あたしのメアドと電話番号!まりあさんのヘルプの子同士、結構仲良くやってるから、よろしく!あ、ミキちゃんのも教えてー」

「あ、う、うん・・」

 なかなか積極的な・・・私はすっかりアキラさんのペースに飲み込まれていった。アキラさんは本当に気さくで、私が夜の仕事はじめてだと話すと色々教えてくれた。

「ここの店はね、店長が3年前に立ち上げたお店なんだ。ここ大箱のお店だから、オープンの頃すっごい話題になったんだよ~」

「へー・・・アキラさんはオープンから居るんだ?」

「あ、アキラさんってやめてよ。アキラでいいって!」

 アキラ・・っていきなり呼び捨ては言いずらいなぁ。アキラさ・・アキラちゃんはタバコを取り出し火をつけた。

「うん。もともと前は上野のお店で働いてたんだけど、そこに店長とオーナーがよく飲みに来ててね。で、一応スカウトされてきたわけ。」

「オーナー?」

 オーナーって、まだ会ったこと無いけどどんな人なんだろう。やっぱりこういうお店のオーナーって、そっち系の・・・怖い人!?

「オーナーは闇金とか色々仕事やってるんだって。オーナーはさ、アタシが売れる子だと思って上野からスカウトしたみたいなんだけど、残念ながら、アタシお客さんにメールとか電話とかデートとかして営業する気全く無い子だからぁ。どこ行っても最初は見た目だけで結構いい待遇してもらえるんだけど、全然指名とらないからがっかりされるんだよねぇ。」

 そう言ってアキラちゃんはイタズラっぽく舌を出した。

「まあ、『スーパーヘルパー』って感じ?営業は全くしたくないけど、ちゃんと席ではキレイな接客はするからねー。どんなお客でも、とりあえずこなせるから。ヘルプ専門って、しょぼく聞こえるけど、どんな人にも合わせるって、結構大変なんだよ。」

「はぁ・・・」

 スーパーヘルパー・・か。ヘルプも結構大変そう。

先ほどの岩村の接客マニュアルを使った特訓?の際も、似たような事を言ってた。ヘルプの仕事がちゃんとできない子は指名を取ることはできない、って。昨日席に着いた飯岡さんはとってもいい人だったけど、難しい人もいるんだろうなぁ・・

「アタシ達、まりあさんが居る日は、まりあさんの専用のヘルプだけど、それ以外の日は他の子と一緒。フリーにも付回されるし、他の子のヘルプにも平気で使われるからねぇ。だからまりあさん休みの日はチーム・まりあメンバー少ないんだよね。アタシはお金稼ぎたいからそれでも毎日出勤するけど。」

「・・・・・あの、結構気難しいお客さんとかもいるの?」

 ちょっと小声でアキラちゃんに聞いてみた。

「・・ああ、それは色々・・」

その時、宮道のドでかい声が響いた。

「いらっしゃいませー!!」

 お客さんが来店したようだった。お客さんらしいヒョロリとしたスーツ姿の中年の男の人が見え、その後ろには、ばっちり化粧をした背が高い女の子が歩いてきた。肌の色はちょっと黒めだけど、手足は長く、健康的なカンジ。今流行の顔立ちだった。

「うわ、最悪!・・・ゆいちゃんの常連のお客の千葉さん。ほぼ毎日通ってくるんだけど。あの客、ゆいちゃん意外の子とは全くしゃべろうともしないし、超むかつくことばっかり言うからみんなヘルプに入らたがらないんだよ!」

 アキラちゃんが早口に私の耳元でささやいた。あきらかに待機席の他の女の子も嫌~な顔をしてひそひそ話す子や、わざとらしく突然お客さんに電話し始める子、トイレやメイク直しに席を立つ子が増えた。・・・ほ、本当に嫌われてるお客さんなんだ。

「たぶん、うちらのどっちか使われるよ。」

「ええっ!?そ、そんなの私、無理無理・・!!」

「だってまだミキちゃん、千葉さんに着いたこと無いじゃん。岩村だったら、絶対今日はミキちゃんをヘルプに入れると思うなー。」

 うわさをすれば・・・岩村が意気揚々とやってくるのが見えた。

「はい!ミキちゃん、出番!!!!!」

「ええええっ」

 アキラちゃんは身をよじって笑いを堪えてる。私はもう本当に心臓がバクバク飛び出そうなくらい緊張していた。そういえば、この広いフロアで接客するのも今日が始めて。・・・・なんだか、だだっ広くて、他のボーイさん達から丸見えで接客するのって、凄く緊張する。うわさの千葉さんというお客さんは髪の毛をぴっちりオールバックにし、不機嫌そうに腕組みをしてソファに座ってた。

「いらっしゃいませ。はじめまして。み、ミキです。」

 私はさっき練習させられたばかりの挨拶を、ぎこちなくした。

「・・・・・・。」

 えっ?あれ?千葉さんは私のほうを見ることも無く、フロアをキョロキョロとしては『ちっ』と舌打ちをした。挨拶が聞こえなかったのかな、と思い、私はもう一度挨拶をした。

「・・お前、しつこい。」

「え・・・あ・・・。す、すみません・・・」

 な、なんだか難しそう・・・。


 昨日はたまたま良かったけど、今日はなんだか大変。この千葉さんってお客さんのこと、ちゃんと接客できるのかなぁ・・・・

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