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幼なじみのせいで婚約破棄した私たちは、ようやく本音を話せた

作者: 唯崎りいち
掲載日:2026/05/26

 エミリアは、婚約者の幼なじみで、多分、彼を好きなのだと思う。


 はじめて会った時は人の良さそうな顔でニコニコしていたのに。


 今は、可哀想にと、私、フローラに婚約破棄されたばかりのアルフォンスを慰めている。


 私、フローラが見ているのは、振ったばかりの男に、アイツは最低だと教えてくれた女が寄り添っている光景——。


 やっと別れられたと思った私に、それは衝撃的だった。


 な、なんであなたが、彼の隣に寄り添って、慰めているの!?

 あなたが、そいつがどれだけ酷い男なのか教えてくれたのに。


 実はたくさんの女の人と仲が良くて、その人たちにお金をたくさん渡しているって。


 アルフォンスの家は子爵家で小さいけれど安定収入があると思っていたけど、アルフォンスの女遊びのせいで借金があるらしい。


 私はアルフォンスの知らなかった女好きの一面と金遣いの荒さに涙して、別れる決意をしたのに。


 ——騙された。


 そう思った時にはすでに遅く、私はアルフォンスと婚約破棄してしまったのだ。


 後から思うと、ここで、私がすぐに戻って、彼に婚約破棄は嘘だと言えたら良かったけど、一度決めて実行してしまった事だ。


 間違いだったと直ぐには認められない。

 間違いだった場合の後悔より、騙された羞恥心が先にくる。


 アルフォンスに、どんな顔をして許してもらうの?


 いろいろなものが心の中で交じりあって、

自分のした間違いから抜け出せなくなった。


 本当のことを言うと、エミリアに色々と聞かされても、アルフォンスのことは嫌いになれなかった——。


 嫌いになれないから、散々迷った後に、キッパリと別れの区切りを付けたのだ。


 また迷って考え続けるのは嫌だ。

 信じきれないのに、アルフォンスを好きだって思い知らされるだけだもの。


 私は二人に背を向けて、婚約破棄を確定させる道を選んでいた。


◆◇◆


 私、エミリアの幼なじみのアルフォンスはカッコいい。


 勉強も武術も出来てみんなの憧れの存在だった。


 そんなアルフォンスが、幼馴染の私を優先するから、嫉妬を向けられる事も度々あったけど、アルフォンスがちゃんと話して相手を納得させていた。


「エミリアはただの幼なじみだ。おばさんやおじさんに頼まれてるから、何かあっては困るけど、特別な関係じゃない」


 アルフォンスは、私にもみんなにもそう説明する。


 嘘じゃない、誠実な説明だけど、私には照れていることが分かっていた。


 私は、アルフォンスの特別なお姫様だもの。


 でも、大きくなるとアルフォンスはそんなにいい感じの恋人候補ではない事が見えてくる。


 アルフォンスの子爵家にはしょっちゅう人が出入りしてお金を無心していた。

 無心に来る人の事情を聞くと、お金を渡してしまい、家計は火の車で借金まであると言う。


 結婚相手の家として、相応しくない。


 だから、私はアルフォンスを見捨てた。


 それでも幼なじみとしての関係は変わらず良好だった。


 そんな時にアルフォンスが婚約した。


 フローラは可愛い人で、一目で好感を持った。


 だから、善意でそれとなく子爵家の内情を教えてあげたの。

 苦労を知らないような子だったから良かれと思ったのに。


「アルフォンス様の事を信じていますから」


 そう言われて、私の中の何かが崩れた。


 本当は、私もそう言うべきだった。


 信じて、アルフォンスと結婚していたら——。


 私が打算抜きでアルフォンスの事を考えていたら、結ばれたのに。


 急に彼女が憎らしくなった。

 

◆◇◆


 俺、アルフォンスは見に覚えのないことで婚約破棄された。


 フローラはなんて言ったんだ?


 俺の家に借金があるのは事実で、借金の理由は困った人に貸しているから。


 その借金を申し込みに来るのが女性な事は多々あるが、みんな誰かの妻でいい年齢だ。

 浮気できないわけじゃないが……普通は、浮気相手と疑わないだろう。


 それから、隠し子がいるとも言っていたが、浮気相手とされる女性たちの子供を誤解されたのか?

 10代後半の俺と変わらない子供もいるのに。


 根も葉もない嘘ではないが、誇張されすぎて、完全にデマと化している。


 誰かが流したのか?


 誰にしろ、フローラの耳にそのまま入れた時点で悪意があるのだろう。


 フローラに婚約破棄された直後に幼なじみのエミリアが来た。


 俺が、フローラと別れた後に呆然と公園のベンチに座っているから、何かあったのかと思ったらしい。


「……俺が、多くの女性と浮気してるとフローラに誤解されて、婚約破棄されたんだ……」


「え!? アルフォンスが浮気するなんて絶対にないのに、フローラはなぜそんな誤解をしたの!?」


 幼なじみのエミリアはちゃんと分かってくれてる。


「やっぱり、人から紹介されて婚約するような関係じゃ信じてもらえないのか……」


 初めてフローラと手を繋いだ時の、まるで自分の手にぴったり合うように作られたみたいだった。

 お互いに驚いて、少しだけ見つめあった。


 この人なら信じられると思ったのに——。


「それはそうよ、私とアルフォンスみたいに長年の積み重ねがあるわけじゃないんだから、誤解されるような事があればすぐにすれ違って取り返しがつかなくなるわよ」


「……だよなぁ……」


 俺はフローラの後姿を思い出した。

 振り返ろうともしないで、一切俺への未練がないみたいだった。


 だから、多分、終わりなんだろう——。


「アルフォンスに、幼なじみの私がいて良かったわね」


 ——不穏な言葉が聞こえた。


◆◇◆


 私、エミリアは、アルフォンスの言葉にニヤリと笑みが抑えられなくなった。


 でも、ここで喜んでいるのがバレたらいけないわ。


「もう、簡単に誤解するような元婚約者の事は忘れるしかないわよね!」


 慰めるように言う。


「……いや、誤解されやすいなら、ちゃんと誤解を解かないといけない」


「へ?」


「誤解させるような所が俺にもあったのは確かなんだから、ちゃんと説明して、納得できる落とし所を見つける」


「……簡単に誤解して、一方的に婚約破棄するような人だよ?」


「俺と幼なじみのエミリアの間では絶対に起こらないことだけど、知り合ったばかりなんだから仕方ないさ」


「……フローラに、そこまでする価値があるの?」


 私は震える声で聞いた。


「フローラは、エミリアと違って、幼なじみだから面倒見ろって押し付けられた存在じゃないんだ。自分で選んだ人をそう簡単に捨てられない」


「は?」


 私は頭が真っ白になった。


 アルフォンスは私を好きだから、幼なじみの私を優先していたんじゃないの?


『エミリアはただの幼なじみだ。おばさんやおじさんに頼まれてるから、何かあっては困るけど、特別な関係じゃない』


 照れてアルフォンスはそう言ってたけど……。


 私が捨てたから、婚約者なんて連れてきて……。


 違うの——?


 アルフォンスが、私を好きじゃないなら、私はずっとカッコいい幼なじみがいるからって、周りを見下してただけの身のほど知らずの痛い女になるんだけど……。


 アルフォンスは私の心の声を肯定するように、にこりと笑う。


「長年の付き合いの俺とエミリアの間でお互いの想いがすれ違ったら誤解じゃなくて決定的な相違だ。二度と君には会わない。別々に幸せになろうな、エミリア。俺はフローラと結婚する」


 アルフォンスが爽やかにカッコよく去っていく。


◆◇◆


 アルフォンスが私の家に来た。


 まさか来てくれるなんて思ってないから、嬉しかったけど。

 婚約破棄が自分の間違いだった事は想像できていたから、顔が合わせ辛かった。


 横を向く私を、アルフォンスは怒っていると勘違いしたみたいだった。


 また、すれ違った。


 それで、アルフォンスは傷ついた顔をして、でも誤解があると真剣に説明してくれた。


 だから私は、アルフォンスが女好きで浮気していると言うのは誤解だと分かった。

 多分、違うのだろうと予想していた事だから、そこはすんなり認められた。


「……でも、困っている人にお金を貸して、自分たちの暮らしが困窮するのは嫌だわ……」


 誤解が解けても、アルフォンスと結婚して実際に困る事情は変わらなかった。


 エミリアは私に女性の事について誇張して誤解させる言い方で何度も説明した。

 ある女性は妊娠してたのに次に会った時はお腹の赤ちゃんがいなくなってたとか……。

 多分、流産したとか、不慮の出来事を誤解するように話したのだ。

 そう言う女性関係の誇張の積み重ねは浮気の信憑性より、実は私の中に“お金の不安”だけを増やしていた。


 私が本当に不安だったのは生活の事だった。

 それに自分でも気づかないままに、何度も同じ不安を煽られて、解決方法が“別れる”しか思いつかなくなっていた。


 でも、アルフォンスが誤解を解きに来てくれた。


 ちゃんとお金は返ってきてるし、ちゃんと人を見て貸しているし、アルフォンスのご両親はとってもいい領主なんだと思うけど……。


「両親の方針には、俺もちょっと嫌だったんだ……。悪い事じゃないから、嫌だと思う自分が悪い気がして、考えないようにしてた……」


 あ、私と同じだ——。


 困ってる人を見捨てることにもつながるから、やめてとも言いづらくて……不満に罪悪感を持ってしまう。

 今感じた事を、アルフォンスも持っているんだ。


「……多分、簡単にお金を借りられると思ったら甘えが出ると思うの。ちゃんと返してくれる人でも」


「そうだなぁ」


 私のつぶやきにアルフォンスが同意する。


「貸す前に、出来ることがないか考えてみるのはどうかな?」


 私の提案にアルフォンスが驚いていた。


「考えても見なかったけど……フローラはまだ子爵家に来てくれる気があるのか!?」


「あなたの家が変われるなら。だって、アルフォンスの事が嫌になったわけじゃないの」


 むしろ、まだ大好きで、会いに来てくれたことがすごく嬉しい。

 こんな問題なんて考えないで済むならいいのに。


 でも、アルフォンスは私の言葉に赤くなって喜んでくれる。

 私も釣られて赤くなってた。


「じゃあ、試してみよう! 両親には俺が話すよ。フローラのおかげで、俺の長年の悩みが解決できそうだ」


 本当にスッキリした笑顔を見せてくれる。


「そんなに悩んでいたの?」


 アルフォンスはうなずく。


「この事だけじゃないんだ。両親から、幼なじみだからって、わがままな女の子の相手をさせられて、ずっと嫌だったんだよ。女の子に優しくするのは悪い事じゃないから、問題があると思っても言い出せなかった」


「アルフォンスはエミリアが嫌いだったの!?」


 私は驚く。

 あんなに親しそうだったのに。


「エミリアを傷つけるようなことは言うなって言われて本音で接する事もできなかったんだ。エミリアと一緒にいること自体が苦痛になってくるさ。エミリアが悪いんじゃないのは分かっているけど」


 アルフォンスはエミリアに迷惑していた。


 でも、それは押し付けられた事についてで……。


「エミリアが可哀想……」


「君は彼女に同情するのか? 君に誤解させるような事を言ったのもエミリアなんだろう?」


「気づいてたの……?」


 アルフォンスは知らないと思っていたのに。


「……君に婚約破棄された後にエミリアに会って気づいたんだ。『幼なじみの私がいる』ってエミリアは言ったけど、その関係が俺は一番嫌だったんだ。

 俺たちは幼なじみとして長年誤解だけを積み重ねた関係だったけど、エミリアだけのせいには出来ない。俺も自分で問題だと思ってたのに、必ず君に嫌がられるから言えなかったんだ……」


 ……エミリアがいなかったら、アルフォンスとこんな風に話し合えたかな?


 私たちどっちも、問題だと思ってたのに、向き合う気がなかった……。


 二人だけの間で問題がある時に表面化していたら、話し合いの余地ってもう無かったかも。


「親を悲しませたくなくて言いなりだった俺も悪いけど、エミリアとはここまで歪むと関わり続けるだけ誤解が大きくなる。お互い誤解だって分かったら関わらない方がいいってやっと思えた」


 エミリアとアルフォンスの関係を正常な関係にするのは大変だと思う。

 だから、もう関わらなのは正しいと思うけど。


「幼なじみなのに話せなくなるって辛いわね、でも、そうする気持ちは分かるから……私とあなたは、もう誤解しないように不安は話し合いましょう」


 私が笑うとアルフォンスも笑ってくれた。


 私とアルフォンスってすごく似てるし、心地がいい。


 秘密を抱えずに上手くいきそう——。


 今後の具体的な事について色々話したし、エミリアに誇張された噂の実態とか、真相がおもしろくて笑ってしまった。


 アルフォンスと楽しい時間が過ごせた。



 ——アルフォンスはそのまま帰って行った。


 最後に握った手を離し難かった。


 アルフォンスの目も何かを欲してるみたいに私をじっと見つめていた。


 お互いに、不安や悩みは共有できても、


 もっと、触れ合いたいって、これはまだ言えないみたい……。


 だから、そっと背中に手を伸ばしてみる。


 届かないのはわかっていたけど……。


 振り返ったアルフォンスに、腕を掴まれて引き寄せられた。


「もう絶対に君を不安にさせないから、待ってて」


 誠実な響きがあった。


「アルフォンス様の事を信じていますから」


 いつかみたいに、私は答えた——。


 もうすれ違わない——。


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