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8 虎

 虎には、大切な師匠がいた。


 都の近くの山の中。


 木々が生い茂っているが、人の手が入っているようで、きれいな間隔で大きな木が順次生えている。


 冬の間に落ちた葉が朽ちてやわらかな土を作っている。


 黒く肥えた土の上で、木の間から漏れ落ちてくる日なたに黄色と黒のしましま模様の虎がごろん、と寝転んでいる。


 ときどき、長いしっぽをぱたん、ぱたん、と動かして気持ちよさそうだ。


 きゅうう、と白い毛のお腹が鳴った。


 太い手足は頑丈そうで、長いひげが囲んでいる口には立派な牙が生えている。


 しかし、顔はまだ幼さが残っている。


 『小虎ことらよ、腹が鳴っておるぞ』


 木の上から声がした。枝の上に体の毛が白くなった老猿が座って地面を見下ろしている。


 『お腹すいたな』


 『狩りに行くがいい』


 『そうしよう』虎はむっくり起き上がる。うーん、と体をのばす。


 鼻を空に向けて空気のにおいを嗅ぐ。


 『じいちゃんのにおいがするよ』


 『わしのにおいは、におわなくていい。獲物のにおいを嗅ぎ分けるんじゃ』


 『うん』


 虎は目を閉じて空気を嗅ぐ。かすかに獣のにおいを感じた。


 『行ってくるよ、じいちゃん』


 虎は走り出した。大きな体で力強く地面を蹴る。大きな体はあっと言う間に木々の間に消えて見えなくなった。


 『さすがだの』老猿はうれしそうに笑った。


 虎は山を風のように走る。難なく山を二つ、三つ超えていく。


 虎は簡単にイノシシを見つけ、狙いをつけるとあっと言う間に捕えた。


 若い虎はお腹がすいている。


 もう一匹、今度は鹿だ。


 虎はどんどん食べる。


 土煙をあげて獲物を追いかけ、捕まえて行く。


 ウサギを捕まえたとき、ふと思った。


 じいちゃんに持って帰ろう。


 虎は、ゆっくり帰った。


 お腹が大きくなって、動きづらい。口にウサギをくわえて山を越えて行く。


 『じいちゃん、帰ったよ』


 もうすでにあたりは真っ暗。


 『遅かったな、小虎』


 老猿はゆっくり木から降りてきた。


 『じいちゃんに持って帰ってきたよ』


 虎はウサギを老猿に渡した。


 『わしに?おお、うれしいな。肉を食べるのは久しぶりだ』


 老猿は、ウサギをあっと言う間にたいらげた。


 『ああ、美味かった。ありがとう、小虎』


 『いくらでも獲ってくるよ』


 虎は、老猿に喜んでもらったことがすごくうれしかった。


 虎は、老猿に喜んでもらうために、鹿のような大きな獲物も持って帰ってきた。


 『小虎よ、さすがにわしひとりでは食べきれんぞ』


 老猿よりも大きい鹿を目の前にして、老猿はつぶやいた。


 『残りは食べるから、気にしないで』


 老猿が鹿を満足するまで食べている間、虎は木の枝に上って洗濯物のように枝からぶらさがっていた。


 虎が、枝の上でうとうとしていると、『おい』と呼ぶ声がした。


 『もう、食べきれん。ありがとう。満腹じゃ』


 鹿を半分ほど食べたところで老猿が虎を呼んだ。


 虎はすぐに老猿のもとへ行くと、お残しの肉をたいらげた。


 『美味しかった!』


 『小虎も満足できて、よかったよ』老猿は満足そうに虎を見て目を細めた。


 その様子を、少し離れた場所から、数十頭の猿たちが見ていた。


 老猿と虎は、そんなことに全く気付いていなかった。


 二人は、仲良く身を寄せあって満腹で眠り込んでいた。




 老猿は、虎を呼んだ。


 『小虎よ、この世には、強い者と弱い者がいる。優れた者とそうでない者がいる』


 虎はうなずく。


 『見よ』老猿は、カッと口を大きく上げると、口から白く光る物を飛び出させた。


 『わ』虎はびっくりして尻餅をつく。


 老猿の口から飛び出した白い光はまっすぐに飛んでいき、空を飛んでいる鴨に命中した。鴨は、高い空から地球に吸い込まれるかのように、まっすぐに落ちてくる。


 『何をしたの?どうしたの?』


 虎が戸惑っていると、老猿は諭した。


 『小虎よ、これが霊能力だ。わしも使えるが、体力がなくなったから、めったに使えない。世の中には、こういった霊能力を使う者がたくさんいる』


 『いたら、どうなの?』


 『小虎よ。そんな者が、小虎と仲良しなら言うことはない。しかし、小虎に攻撃をしてくる者もいるかもしれない。小虎は、霊能力の者と戦うときが来るかもしれない』


 『いやだな』


 『そのときに備えて、霊能力に慣れ、対応できるようにしなければならない』


 老猿は、疲れたように木にもたれかかった。


 『わしは、このように霊能力を使うととても疲れるようになってしまった。他者から学び、お前も使えるようにするのだ』


 『使えるかな?』


 『安心するがいい。小虎よ、お前からも霊能力のにおいはしている』


 老猿は誰かを呼んだ。


 木の間から、ちょろり、と出てきた者がいる。ウサギだ。


 『ウサギだとあなどるな。ヤツは霊能力者だ』


 ウサギは耳をピン、と立てた。


 途端に、虎の体がふうわり宙に浮く。


 『え?』


 宙でくるり、と一回転すると、びょーん、と飛んで地面に叩きつけられた。


 『痛たたた……』


 立派な体を持った虎だが、ふい打ちには打撃を受けた。


 『私のように小さく弱い者でさえ、霊能力で戦うとお前のような大きな者でも敵ではなくなるのだ』


 ウサギは胸を張って虎に言う。


 『すごいな……』


 虎は面食らうしかなかった。

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