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7 蓬野姫、黄金を飼う

 蓬野よもぎのと沖の中将が虎を見ながら困っているところへ、山吹やまぶきが帰ってきた。


 「と、殿方……!!」


 山吹は驚いて声を出さないよう、自分の口を手で押さえた。宮中では、大きな声を誰が聞いているか、わからない。


 「おかえり、山吹。これは沖の中将。それよりもさ……」


 「これは、ってなんです、これはって!……中将様、どうしてこちらへ……!」


 山吹は、かなり狼狽ろうばいしている。女性らしく、袖で顔を隠し、おろおろしている。それを見ると蓬野は、なんだかおかしくなってきた。


蓬野の抜けていた腰も元に戻り、立てるようになった。山吹に歩み寄る。


 「ごめん、山吹。今、それどころじゃなくてさ」


 「姫様、それどころとは何ですか!」


 山吹は声を押さえながらも、顔を青ざめて怒っている。


 「いやさ、こっちよ、こっち」


 蓬野が、気絶して白毛の腹を見せている虎を指さす。山吹の視線が虎に落ちる。


 「!!!!!!!」


 「わかった?沖の中将より、こっちが大変なんだよ。これ、どうしようか」


 蓬野が言い終わる前に、山吹は気絶した。沖の中将が、倒れる山吹を支え、ゆっくり床に寝かせた。


 「あー、そうなるよね、やっぱり……、あ!」

 

 蓬野たちが山吹に気を取られている間に、虎が目覚め、すばやく立ち上がった。


 虎は、逃げようと背を向けて走り出す。


 よほど慌てているのか、広い部屋の中をぐるりと走り、出口を探している様子。


 「そうはいかない!」


 蓬野は、虎の背後から術をかけた。虎の足はピタリと動かなくなった。蓬野は身軽に虎に近づいていく。


 「姫!」沖の中将が驚く。


 蓬野は、虎の顔の真ん前に立った。腰をかがめて虎に顔を近づける。


虎の大きな顔、体、手足をじっくり眺めまわした。


 「姫、何を!!下がってください」沖の中将が慌てる。


 「んふふー」蓬野は妖しい笑みを浮かべる。


 「姫……?」沖の中将は、怪訝な表情。


 「いいこと、思いついたの」蓬野は、少女のころと同じいたずらの表情。


 大きな虎は、動けずに目だけキョロキョロさせている。


 蓬野は、いたずら笑顔で、大きな虎に向かって両手を広げ、術をかけた。大きな虎が、みるみる小さくなっていき、子猫と同じくらいの大きさになった。


 「!!!!!!」沖の中将が声にならない声で驚く。


 小さくなった虎は、もはや怯えた表情で蓬野を見上げている。


 蓬野は、両手で子猫のような虎を抱き上げた。


 蓬野は胸の前で虎の術を解いた。


 虎は、蓬野に抱き上げられ、ブルブル震えている。


 「これ、私が飼うの。黄金こがねと名付けよう」蓬野は、黄金を優しくなでた。


 「………はい???」


 さすがの沖の中将も開いた口がふさがらない。


 「こうするのよ」


 蓬野姫は、にやにやしながら黄金の小さな額に自分の額を引っ付けた。


 蓬野姫は、ふ、と全身の力が抜け、倒れる。


 「姫!」


 慌てて沖の中将が、蓬野を抱き寄せる。


 「………姫!………姫!」沖の中将が必死に蓬野を呼ぶ。


 「大きな声を出さないで。みんなに聞こえるでしょ」


 足もとから、蓬野の声がした。


 「???」


 沖の中将は、自分の腕の中で気絶している蓬野をじっと見つめる。


 「?????」


 「私はここ」


 再度、足もとから蓬野の声がした。


 「??????」


 沖の中将は、足もとを見る。子猫みたいになった黄金が沖の中将を見上げてしゃべった。


 「私が蓬野。それは私の抜け殻。さ、いつまでも私に触らないで」


 「!!!!!!!」


 さすがの沖の中将も、驚きで抱いている蓬野姫を落とすところだった。慌てて抱きなおし、そっと床に寝かせる。自分を落ち着かせるかのように、大きく呼吸を繰り返した。


 「……姫」


 沖の中将は、真剣な顔をして蓬野猫よもぎのねこを見た。


 「何」


 「……実は、言いたくない事実なんだが」


 沖の中将は、小さな蓬野猫の前でもじもじする。


 「何よ。言いかけたのなら言いなさいよ」


 沖の中将は、迷って顔色を赤くしたり青くしたりしていたが、「えい」と気合を入れた。


 「よし、言うぞ。姫」


 「どうぞ」


 「まさか、姫が虎に乗り移るとは夢にも思わなかった。つまり、姫は容疑者と一体となってしまっている、ということなんだが」


 「何の話?」


 「先日、都じゅうを騒がせたもののけの話しだよ。検査室に送られた死体を殺した犯人さ」


 「ああ、そういえば、そんなことあったわねえ」


 「………のんきですね」


 「のんきよ。だって、黄金は人を殺していないもの」


 「………姫。いくらかわいい猫になったからといって、殺人犯は殺人犯ですぞ」


 「大丈夫なの。黄金は人を殺していない」


 「こんなに乱暴そうなもののけは他にない。だから僕はコイツを追いかけた。きっと殺人犯に違いないと思うんだが」


 「そうね、私も黄金と一体にならなかったら、そう思ったかもしれないわ。……見かけだけで犯人扱いするのは、よくないわ」


 「では、姫。何か証拠でもありますか」


 「ありますわよ」


 蓬野猫は、短い尾をぴんぴん動かす。もこもこの小さな体をうれしそうに跳ねる姿はかわいくてしょうがない。思わず、沖の中将は目を細めてしまう。


 「んふふー、何もかもうまくいったわ。さ、出かけましょ」


 「ど、どこへ?」


 「道中、ゆっくり話すわ」


 蓬野猫と沖の中将は、部屋をあとにした。


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