15-1 ここで、ひと休み
蓬野の屋敷のそばの野原。蓬が元気に青々と茂っている。
可武斗が一人で術を使った剣術の練習をしていた。
「可武斗」
「沖の中将様」
「いつ見てもすごいね。僕と手合わせしてほしいんだ」
「え……」
「なんだよ、僕じゃ、すぐに君に負けてしまうとでも?」
「……いえ、そんなことは……」
可武斗はしどろもどろになる。見透かしたように沖の中将はにっこり笑う。
「僕は怪我しても大丈夫、君が叱られることはない」
二人は剣を交えることになった。術を使わない、普通の剣術。
沖の中将が、一気に可武斗に切りかかる。可武斗は本気でよける。
「可武斗、僕は君が思っているより強いんだよ。術を使ってかかってこい」
沖の中将は本気で可武斗を殺そうとしているかのように、頭、胸、首といわず、攻撃してくる。可武斗は全力でよける。
まずい……。
内心、可武斗は焦った。単純に身体の大きさだって、沖の中将の方が大きいし、信じられない身体能力を持っている。
沖の中将の刀がふ、と見えなくなる。
やばい!
沖の中将の刀は、可武斗の左腰の下側からすくうように胴を切り離そうとしていた。
たまらず、可武斗は術を使い、自分の周囲に壁を作った。沖の中将の刀を術で跳ね返す。
沖の中将は、勢いよく遠くまで吹き飛ばされる。が、ぐるりと空中で一回転するとぐい、と足を強く踏ん張って地面に立った。
「!!!申し訳ありません、沖の中将様!!!」
可武斗が慌てて沖の中将のもとへ走る。沖の中将は刀を可武斗の頭に振りかざした。
可武斗はもう練習の気分ではなくなっている。ただの少年のように首をひっこめ、罰を受けようとしている。
「可武斗!!!」
沖の中将が怒鳴った。
可武斗はひれ伏する。
「僕がなぜ怒っているか、わかるか」
「僕が沖の中将様に本気で攻撃をしたからです」
「うぬぼれるな!!!君の攻撃なんか、蚊にさされるようなものだ。それよりもその態度が気に入らない。今、君は僕に殺されていた。……どんな相手でも全力で行け。二度と言わせるな。もし、次にそんなことをしたら、僕は君を殺す」
「!!!!!申し訳、ありませんでした!!!!!」
「すぐに立て!!」
可武斗はパッと立ち上がった。二人は目にも止まらぬ戦いを始めた。
「すごいのがいるじゃないか。小鬼熊よ」
「へへへ。あれを食ったら霊能力が上がりますね、大鬼熊様」
「漁夫の利とは、まさにこのこと。いざ、食ってやろう、小鬼熊よ」
二匹の熊の形に似た鬼が、木陰に隠れながら沖の中将と可武斗に近づく。
大鬼熊は、沖の中将に集中している可武斗の背後から襲いかかった。
「可武斗!後ろ!!」
沖の中将が叫ぶ。可武斗はとっさに大鬼熊の気配を感じ、攻撃に転じる。
大鬼熊は後ろ足で立ち上がり、鋭い爪と牙で可武斗を切り裂こうと攻撃する。
可武斗はひらり、と攻撃をよけ、術を使って大鬼熊の腹を目に見えない巨大拳でなぐりつける。
大鬼熊は攻撃を受けるがすぐに体勢を整え、可武斗に襲いかかる。
可武斗を助けようと沖の中将が大鬼熊の背に刀を振り下ろす。
その瞬間、小鬼熊が気配もなく沖の中将の背後に回る。沖の中将の首を鋭い爪で切り裂こうとする。
「中将様!後ろに熊が!!」
沖の中将はとっさにしゃがんで首を守る。
可武斗は大鬼熊に切りかかる。
大鬼熊は後ろ足で立ち上がった。勢いよく、両の前足を地面に叩きつける。
地震と雷が同時に起こった衝撃が走る。
沖の中将、可武斗は足もとが揺れ、体はしびれる。耳がキーンと鳴った。
「うう……!!」
可武斗は耳を押さえた。頭か、耳か、目か、いったいどこが痛いのかわからない。
大鬼熊の術の中、可武斗はしゃがみこんで立ち上がれない。
沖の中将もたじろいでいた。
『剣だけが攻撃ではない。人は魂で舞えば剣よりも強いときがあるのだ』
沖の中将の脳裏に、幼いころの師匠、勉達の言葉が浮かんだ。
す、と顔つきを変えた。沖の中将の顔から表情が消える。美しい人形のような、透きとおった顔。刀を手に持ち、優雅に舞を舞い始めた。
「?????」大鬼熊、小鬼熊は一瞬、何が起きたのかわからず、ぽかん、とした。
大鬼熊が出した術。体をしびれさせ、大きな音におびえさせる。
それが成功しているはずなのに、沖の中将は立っている。
いや、立っているだけではない。舞を舞っている。
「?????」大鬼熊と小鬼熊は思わず首をかしげた。
大鬼熊がかけた術が、まるでかまぼこを切り分るように、美しく沖の中将の舞っている剣が術を切り裂いていく。術が徐々に消えていく。
立ち上がった可武斗が大鬼熊に攻撃をしかける。ハッとした大鬼熊はすぐに反撃する。小鬼熊も可武斗に襲いかかる。可武斗の腕、足に鋭い爪で切りかかる。可武斗の体のあちこちから血が噴き出す。
沖の中将は舞を舞っている続きのように、美しく小鬼熊に切りかかる。
小鬼熊は沖の中将の刀を力技で跳ねのける。沖の中将は腕で阻止するが、強烈な打撃を受ける。肩までひびいた。
沖の中将、可武斗の二人と、大鬼熊、小鬼熊は熾烈な戦いを続けた。
術を使わない沖の中将が、だんだん押され始める。可武斗も二匹の鬼熊に体力を奪われはじめる。出血もひどい。
……まずいぞ。
可武斗に攻撃を続けていた大鬼熊と小鬼熊が、ふ、と方向を変えた。
二頭そろって一気に沖の中将を攻撃する。
可武斗は顔をひきつらせる。
沖の中将は力が入らなくなってきた腕で刀を握りしめる。
大鬼熊は爪を振りかざし、大きな口を開けて牙で沖の中将をかみ殺す……。
大鬼熊が沖の中将の目の前で、ふ、と消えた。
……まずい!どこへ……?
沖の中将は必死に目で大鬼熊の行方を追う。同時に小鬼熊の行方もわからなくなっている。
まずい、まずい、まずい……早く見つけて反撃せねば……!!!
………いた!!
沖の中将は大鬼熊、小鬼熊を見つけた。同時に硬直した。
二匹は地面に押し付けられ、ぺしゃんこになっている。
押し付けているのは、黄金だ。金色の太い手足で二匹を踏みつけている。二匹はすでに息をしていない。
「この程度の鬼など、一瞬で殺しなさい」
黄金がしゃべった。蓬野虎だ。黄金に蓬野姫が乗りうつっている。
「……姫……」
沖の中将と可武斗の体から力が抜けていく。
同時に、姫より弱い自分に怒りさえ感じていた。
蓬野虎はうれしそうに、にやっと笑った。




