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次の戦い

王都に帰還した唯夜は民衆に歓喜の声で迎えられた。これで麦を安価で買えるようになったと喜んでいる。マリアや廷臣たちも唯夜の武功を聞いて驚いた。マリアは唯夜を騎士に叙任し、盗賊から奪還した財宝を彼に与えた。

「これだけの金があれば一生遊んで暮らせますね」

 ヘスティアが感心したのも束の間、唯夜は財宝の三割を今回の作戦に参加した兵士たちに分け与え、残りは貧民救済のために使ってしまった。彼の手元には銅貨一枚も残らなかった。

「よかったのですか?」

「いいんだよ。金は天下の回り物。どこかの誰かを笑顔にしてまた戻ってきてくれるさ」

 金は貯めることに意味があるのではない。流通してこそ意味があるのだ。男爵、儀仗兵、騎士としての収入があるからこそそう言えるのだが。

 それから数日、唯夜は馬術の訓練を行った。騎士になった以上、馬に乗れなければ話にならない。元の世界にいた時は何度か馬に乗ったことがある。唯夜はすぐに馬術を上達させた。

「あ、ええと…ご主人様」

 一人の少女が声をかけてきた。確か盗賊の牢獄から助けた奴隷の一人だ。解放されたはいいものの行く宛てがなかったから引き取ったのだ。

「ご主人様になった覚えはねえぞ。シーナだっけ?」

「私などの名前を覚えていただいて光栄です。私、剣と魔術に覚えがあるんです。もしご主人様が戦場に行かれる場合は是非お供させてください!」

「ご主人様になった覚えはないって。話聞けよ」

「私はご主人様の奴隷ですから」

「この前解放したはずなのになー」

 唯夜は頭を抱えた。とはいえもうすぐ前線で戦うことになるから戦力は一人でも多い方がいい。貴族連合との内戦が本格化してきたからだ。唯夜は侍従隊五十騎の他に騎兵百騎を率いて前線で戦うことになっている。

「言っておくけど俺は奴隷を持つつもりはないよ。ましてや戦場に連れて行くつもりもない。兵士ではない以上、戦うつもりなら自分の意思でついてきてくれ」

「…わかりました。連れて行ってください。私はごしゅ…閣下のお役に立ちたいのです」

「なら何も言うことはないさ。ありがとう」

 絹のように白い肌、朝日のような金色の髪、大洋のように碧い瞳。見惚れるほど美しい彼女は笑顔をきらめかせた。

 三日後、唯夜は出陣を命じられ、百五十騎の騎兵を率いて王都エレンを出立して北方を目指した。夜、唯夜隊は森の中に陣を置いてそこで野営することにした。唯夜はシーナを伴って見回りに出た。

「私で十分ですから唯夜様は本陣にお戻りください。それにここは…」

「馬術の訓練にちょうどいい。それにこういう役割は大将の義務だ」

 森の外は広い平原が広がっている。近くに町はない。シーナが持つ篝火以外に光るものはない。

 彼らは森を離れ、巡回する。周囲からいくつもの馬蹄の音が聞こえてきた時にはすでに遅かった。

 数十の松明とその数倍の騎馬が彼らを囲んだ。

「よう、そこの旅人。財布が重いなら軽くしてやってもいいぜ」

 闇の中から姿を現したのは壮年の男。引き締まった体と顔をしている。肩には片刃の剣を担いでいる。

「最近、貴族を襲ってるっていう馬賊か」

「その通り。財布の重さに悩む貴族の問題を片付けてやっているのさ。だが宛てが外れたな。網にかかったのは駆け落ち途中のさして金のなさそうな男女とは」

「一応俺も貴族だぞ。金はないけど。あと駆け落ちじゃない」

 唯夜は薄い財布を取り出して男に投げて渡した。男は財布を開いたが銅貨が数枚入っているだけだった。

「貴族の僭称は大罪だぞ。無意味どころか身を滅ぼす嘘はやめた方がいい」

 男は銅貨を抜かずに財布を投げ返した。

「あいにく貧乏人から金を奪うのも、無意味な殺しも、奴隷商も趣味ではないのでね。行くべき場所があるなら行くと良い」

 馬賊たちは道を開けた。馬の扱いに精通しているようだ。動きに乱れがない。ただの馬賊ではないように見える。

「名前は?」

 唯夜が男に尋ねる。

「フェルナー。だがそれに何の意味が?」

「そうか。フェルナー、俺の仲間にならないか?」

「は?」

 突然の申し出にフェルナーだけでなくシーナも驚愕したようだ。馬賊たちは一斉に笑い転げた。

「俺は夜渡祇唯夜。マリア王女から男爵の地位と騎士の称号と儀仗兵の官職をもらった」

「ああ。そうか。お前が噂の異世界人か。道理で貧しい装備なわけだ。それで? なぜ貴族が馬賊の俺を誘う?」

「強そうだから。それとまあ直感なんだけど君は信頼できそうな気がした」

 それを聞いてフェルナーは笑い声をあげた。

「それだけか?」

「それ以外に理由がいるか? 貧乏人から金も奪わない。無意味な殺しもしない。奴隷商もしない。収入も安定する。君らの趣味に合ってるはずだ」

 呆気にとられたフェルナーは頭を掻きむしった。目の前にいる男が相当な変人であることに気付いた。これまで自分たちを忌み嫌う者たちは何千、何万と見てきた。だが仲間にしようとする者は初めてだった。

「もし俺たちを仲間にしたところで裏切るかもしれんぞ。その時はどうする?」

「うーん。それは困るな…。裏切る時は先に言ってくれ」

 唯夜は困ったように笑った。現在のマリア王女派の兵力は三万二千。対してイリアス王女を擁する貴族たちは七万二千。主たる将軍たちは貴族側についている。これでは勝ち目がない。

 フェルナーは溜め息を吐いた。それから部下たちを見る。

「お前たち、いいか?」

「俺たちは頭にどこまでもついていきます!」

「そろそろ賊にも飽きてきたしな!」

 それを聞いてフェルナーは唯夜の目を見た。

「わかった。お前の部下になるとしよう。長生きさせてくれることを期待しよう」

 唯夜の部隊は三百五十騎にまで増加した。翌朝、彼らは北へ向かい、目的地のレニン城に到着した。砦は貴族派の軍に包囲されていたが唯夜隊が突撃するのに合わせて守備隊も門を開いて突撃してきたため貴族兵は逃げ散った。おかげでさしたる苦もなく入城することができた。そこの指揮官はマリア派の数少ない有力な武将のバルツァー・レッケン・コリント子爵。勇猛果敢な性格で猛将として国内外に知られている。


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