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人材集め

 翌日、唯夜の元に数十人の国籍も性別もまとまりがない人々が集められた。それなりに良い服を着ている者からボロ服を纏っている者まで彼らには一切の共通点がないように見えた。

「よく集まってくれた。感謝する」

 唯夜は彼らに声をかけた。

 彼らは商人たちに声をかけて集めさせた何らかの才がある者たちである。近辺の国家から来てくれたのである。遠方の国々にはまだ彼の布告が届いていない。一人ずつ話をして登用しようと考えている。本当はこのようなことをしている場合ではないのだが有能な人材には一日でも早く働いてほしい実利的な意味と逆賊に仕立てられているという状況から目を逸らしたいという感情的な意味もあった。

 まずは目の前にいた破れて汚れた衣服を纏った男を指す。

「じゃあそこの貴方、名前と特技をどうぞ」

「へ、へえ。カウシャといいます。領主様。私は耳の良さには自信があって人混みの中でも声を聞き分けられるくらいのものですが。それだけです…」

「凄いな。物見とか偵察にいてくれたら助かるな。まずは十騎長の給与でうちの軍に入ってくれないか?」

「私などでよろしければ…。ありがとうございます。ありがとうございます…」

 男は両手を擦り合わせて何度も頭を下げた。唯夜が差し出した手をカウシャはおずおずと握った。まずは馬術を修めるところからだ。馬術を習得できれば偵察として。できなければ諸国に潜ませる密偵として働いてもらうつもりだ。

 それから一人ずつの名前や特技を聞き、役職を与えていった。扱いに困る能力を持つ者もいたが何とかそれらしい仕事を割り振った。残るのは五人の男女。黒くて豊かな口髭を蓄えた背の低い中年の男に話しかけた。

「儂は鳴帝国出身のクニトモ・ゼンヨ。国を追われ、流浪を続けていました。一族郎党と共に鍛冶職人をしています。夜渡祇閣下にお近づきの印として父の最高傑作の剣をお納めさせていただきます」

 ゼンヨは細長い麻袋を唯夜に渡した。中には一振りの剣が入っていた。柄や鞘に装飾はなく質素な造りだ。刀身を鞘から抜いた。目を奪われるほどの美しい刀身だ。刃は幅は広くなく、刃渡りは八十センチほど。武官たちも感嘆の声をあげた。

「良い剣だ。これ本当にくれるのか?」

「もちろんでございます。気に入ってくださいましたら粉骨砕身して夜渡祇殿にお仕えいたします。なので…我が一族にも仕事をいただけませんか」

 確かこの男は三十人ほどの集団を引きつれていたという。

「他の人たちも鉄を打てるのか?」

「ええ。儂より腕のいい者が三人もいます。本当はその者たちに参上させるべきでありましたがどうにも頑固者で領主様に無礼を働いてしまうと思いまして…」

「わかった。後で挨拶に行く。良ければここに腰を下ろして力を貸してほしい。衣食住はもちろん全員が家庭を築いて娯楽を嗜めるだけの給金を出させていただく」

 唯夜は興奮を抑えきれない表情で言った。火縄銃を発明するために必要な腕の良い鍛冶職人をようやく見つけることができた。

「ありがたき幸せ!」

 ゼンヨは唯夜が差し出した手を強く握り、満足げな顔で退室していった。残りは四人。男が二人、女が二人である。まずは気になった少女に声をかける。彼女の両手と両足は鎖で拘束され、纏っている服もカイジャよりも粗末なものだった。奴隷だ。その顔は年ごろの少女とは思えないほど虚ろな目つきをしていた。

 何より目を引くのは透き通るほど白い肌と尖った耳。おそらくエルフという種族だろう。大陸にはこういった異種族が深い森や山に潜んで暮らしている。エルフ族は長命で生命力も強い上に身体能力も高く、何より美形であるという。だから戦闘奴隷として死ぬまで戦わされたり慰み者にされたりなど、奴隷になってしまえばその未来は決して明るくない。彼女は奴隷商人が連れてきた戦闘奴隷で唯夜が買い取ったものだ。奴隷を買うことに抵抗はあったが強い戦士はいくらでも必要だと考え、購入してしまった。

「えっと…君は?」

「セディア。ただのセディアだよ」

 白い髪を揺らして彼女は名乗った。セディアと名乗った若いエルフは唯夜を睨んでいる。クルルは怯えて唯夜の背中に隠れる。セディアの肉食獣のような獰猛な瞳は唯夜をまっすぐ睨んでいる。その態度に兵士たちは警戒する。

「ヘスティア、鎖を外してくれ」

「いいのかい。私を自由にしたら君を殴り殺すかもしれない。君は私を買った。解放したところで恨みは消えない」

 挑発するように唯夜を見た。

「一発くらいは殴られても良い。でも殺されてやるわけにはいかんな」

 ヘスティアはセディアの鎖を外した。

「は、ははっ。本当に外したんだ」

 セディアは乾いた笑いを浮かべて唯夜の方に向かって走り出した。兵士たちが止めに入るが彼女は身軽な動きでそれを躱して唯夜に飛び掛かった。ヘスティアが駆け寄ってくるのを唯夜は手で制する。

彼女の拳は唯夜の頬にめり込んだ。唯夜の体は吹き飛ばされて地面を転がった。口の中が切れて血が出た。起き上がる暇さえ与えず彼女は唯夜に馬乗りになった。

「わざと受けたね。じゃあ二発目ももらってくれ」

 彼女の拳が振り下ろされる。しかし直前で止まった。

「抵抗しないのかい。両手はどうした。動かせるはずだろう」

「確かに俺はお前を買った。そうだ。俺は買った。軽蔑してた奴らになっちまったんだな」

 唯夜は目を閉じた。この世界に来た日、ヘスティアから奴隷制度の存在を教えられた。彼らは同じ人間とは思えないほど残酷な扱いを受ける。老若男女を問わず売り飛ばされ、虐待され、使い物にならなくなれば殺される。唯夜は吐き気を覚えた。怒りを覚えた。人を人とも思わない者たちを軽蔑した。奴隷制を否定したいからアルムら王都の孤児たちに教育を施したのだ。

しかし今や自分がその醜悪な存在になってしまった。力を手に入れるために邪道に足を踏み入れてしまった。奴隷制度の否定者であろうとしていたのに一時のために肯定者に成り果てたのだ。

「でも殺されてはくれないんだね?」

 彼女は問う。その答えは簡単だった。

「ああ。俺はやらなきゃいけないことがある。俺の役割が終わるまで、俺の力を必要とされなくなるまで…死ねない。この命はやれない」

 正面から彼女の目を見る。

「俺はこの国を守る剣だ。いつか折れて朽ち果てるまで戦場で敵を殺し続ける人殺しの道具。まだ敵がいる。ここで折れるわけにはいかないんだ。この国が戦乱の終わりを迎えられたら俺の命をやる。だからそれまで力を貸してくれ」

 セディアは唯夜の瞳を見つめた。

「やめた」

 彼女は唯夜を離した。

「私はセディア。君に力を貸そう。戦いなら任せてほしい」

「ありがとう」

 唯夜は起き上がり、彼女に手を差し出した。セディアは少し戸惑った表情をしたもののゆっくりと彼の手を握った。

「ごめん。もう奴隷を買うようなことはしない。約束する」

「律儀だなあ君は」

 エルフ族の少女は困ったような、呆れたような硬い笑みを浮かべた。


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