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会議

 詳しいことは部下に任せることにして思考を切り替えた。次の脳内での議題は侵略戦争を続ける北の帝国についてだった。政治力や経済では叶わない。軍事力など論外である。だが乱世にあって軍事に気を回さなくては滅びるだけだ。軍事の専門家ではない唯夜は元の世界の武器について考えるだけだ。この世界の技術力で同じ物、もしくは類似した物を再現するとなるとあまり多くはない。

 その時、唯夜は硬直した。仲間たちが彼の異変を察知して声をかける。

「どうかなさいましたか?」

「…俺のいた世界にあったとある武器を思い出したんだ。戦争の歴史を変えた武器だ。俺のいた世界にも剣があった。槍があった。弓があった。重装兵もいた。騎兵もいた。でもそれを歴史の片隅に追いやって歴史の表舞台に立つ武器があった」

 唯夜の手は震えていた。ヘスティアは彼が悩んでいるように見えた。そしてそれは正解であった。彼は悩んでいるのだ。この世界にそんな大量殺戮兵器を齎すべきなのか、ということに。

「その武器の名は?」

「銃だ」

 唯夜はその武器について仲間たちに語った。

「煙幕が張れる上に音も出る。飛距離も弓を超える…。確かにそれがあれば戦争は変わります。同時に世界を更なる戦争の渦に巻き込みかねない…」

「この世界にあるものでも生産できるそうですけど生み出すべきか悩まれますね…」

 そこに一人の男がやってきた。彼は旧イリアス軍の将校オットー・オイゲン。唯夜が捕らえたものの、彼に勧誘されて配下に加わったのだ。

「いえ。生み出すべきです。この世界にある材料で生み出すことができるのであれば我らが作らずともいずれ誰かが作る。別の異世界人が齎す。そうなると我らは後手に回る。使用するかどうかは別として準備をしておいても良いでしょう」

「確かにな。まあでも生産にあたって足りないものがいくつかあるから輸入せにゃならん。情報収集も兼ねて信頼できる商人を選出しておきたいな」

 ヒューベルは各地の情報を集めるのに自分たちが派遣した密偵だけでなく、商人も利用している。もちろん通商をしているがその全てが信用に足る存在かどうかは疑わしいものである。

 オイゲンが続ける。

「実物を見たことがあるわけではありませんが内密にしておく必要はありますね。ですが殿下にはお伝えすべきでは?」

「なんで?」

 唯夜は首を傾げる。正直危険な兵器だ。王都の者に全幅の信頼を置くことができない以上、王都の人間に話したくはない。

「人の目というものは聡いもの。そして人の心とは猜疑に凝るもの。何を隠してるかまではわからずとも何かを隠してることは察知されます。それを貴族につけ込まれ、殿下への逆心を抱いていると讒言されれば閣下のお立場は危ういものとなります」

「確かに…」

 オイゲンの進言は正鵠を射ていた。本人にその気がなくとも怪しい動きをしていれば良からぬ結果をもたらすことに繋がる。貴族共の謀略に巻き込まれることは本意ではないし、マリア王女にとっても良い結果にはならない。内輪揉めで削り合い、貴族たちや帝国を喜ばせる必要はない。

 銃の作成については自ら王都に赴いてマリアだけに伝えることにする。良くも悪くも唯夜はマリア派閥に属する貴族たちを信用していなかった。全員を信用していないわけではなかったが「正統な支配者」だの「正義」だのを主張してマリアを支持する連中には敵と同程度に警戒している。善意から暴走してとんでもないことをしでかすような奴らだ。

 唯夜はオイゲンの発言の正しさを認めて頷いた。

「わかった。ありがとうオイゲン。助かったよ。そうだな、殿下への連絡と報告はこまめにすることにしよう」

「もったいないお言葉」

 オイゲンは一礼した。

 そこに笑い声を響かせたのはアルドゥインだった。彼は唯夜がヒューベルに移った時に妻子と共に来ていたのである。彼は毎日疲れ果てるまで働き、ヒューベル地方の再建と再編、発展に尽くしている。唯夜と違ってやり甲斐を大いに感じているとのことだ。

「閣下は我らの言葉に耳を傾けてくださるからやり甲斐がありますな」

「その口ぶりだと前はそうでもなかったみたいだな」

 アルドゥインは頷いた。オイゲンも口には出さないものの意見を取り入れてくれる主君をありがたく思っていた。

「私はかつてマリア殿下派の官吏として働いていましたが、殿下の支持基盤の騎士たちは頭が固いので幾度となく煮え湯を飲まされましたよ。その点、閣下は自由な裁量を与えてくださいます」

「うん…そうだね…。頭固いね…」

 唯夜は盗賊討伐作戦を思い返した。あの時、アンネ以下数名の騎士を借り受けたのだが正々堂々の勝負を望み、唯夜の策に断固反対していた。時間をかけてなんとか説得したものの、苦々しい記憶として残っている。硬直した思考をしているから負けるのだ。

 貴族も貴族で柔軟な思考回路を持っているのだが全能を自分とその派閥の利益のために用いているためその他のことに気を回さない者が多い。

 経験と進言から中央政府の権力者たちへの警戒と情報収集に力を入れることを決めた。

 それから唯夜は定期的に政府への報告を行うようになった。


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