【スピンオフ/青春編】消えたひょっとこと女の勘、あと正義とか
僕、能見鷹士は三十路を前に一念発起し、中小企業に特化した個人コンサルタントとして起業した。そして何故かいつも探偵業を営む汐入悠希の無茶振りに巻き込まれてしまう。この間も猫探しやら知財のコンサルやらに巻き込まれたばかりだ。
そんな汐入と腐れ縁の始まりは高校生の時分に遡る。東亜細亜大附属第三高等学校(通称アジ三)の一年生汐入と龍ヶ淵高校(ブチ高)の一年生の僕は、龍ヶ淵工業(ブチ工業)の一年生番長千本松くん、二年生の梅屋敷さん、大森さんとひょんなことから知り合い、奇妙な形で仲良くなった。これはその高校時分のお話し。
◇◇◇
僕は今、大森珈琲に来ている。汐入、千本松くん、梅屋敷さん、大森さんもいる。梅屋敷さんから相談があると言って呼び出されたのだ。相談相手は汐入。僕はおまけだ。
梅屋敷さんが切り出す。
「ウチのガッコで事件が起きている。学内で2年の奴がたて続けに二人襲われた。警棒のようなもので足の脛を殴られ、激痛にひるんでいる間に相手は逃走している。2件とも同じ手口で一人でいる時を襲われている」
ふむ、それで?と汐入は話しを先へと促す。
「ああ、青アザ程度で済んでいるが、それで黙っているわけにはいかない。狙いが誰なのかもわからないが、少なくとも仲間内に次に何かあったら犯人を捕らえるぞ、と俺らも警戒して対策をとった。ま、シンプルに襲われたら追いかけるという対策だが、脛を殴られてもダメージが少なくなるようサッカーで使うレガース、所謂、脛を保護するプロテクターだ、それをサッカー部の連中に借りて身に着けておくようにした」
「なるほど。犯人を誘き出す為の対策としては申し分ないな。徒党を組んだりすると相手が警戒して襲ってこなくなるからな」
「ああ、それが功を奏した。三件目の事件が起こった。今回も2年の奴が襲われた。放課後、一人で校舎から正門に向かって歩いている時、突然出てきた奴に警棒で思いっきり脛を殴られた。手口は分かっていたしプロテクターもつけていたが、思ったより激痛だったようだ。直ぐには追跡できなかった」
脛を硬い警棒で叩かれるなんて・・・。僕はその痛みを想像して、一人で身震いをしてしまった。梅屋敷さんが続ける。
「だが、これまでは激痛で声も出せず悶絶するだけだったが、今回は何とか痛みに耐えて、直ぐに仲間を呼ぶことが出来た。プロテクターの効果はあったわけだ。たまたま俺と大森が近くにいたから、2人で逃げる犯人を追いかけた。相手は学校指定のジャージ姿。チラッと振り返った犯人は顔にひょっとこの面を付けていた。ふざけた野郎だ。見たところ犯人は男だろう。同世代だな。走り方が若いしまだ筋肉もぜい肉もついていなかった」
ふむ、ふむ、と汐入は相槌を打つ。千本松くんは腕を組み、眉間に皺を寄せ目を閉じて頷いている。
「犯人は離れの平屋の校舎に逃げ込んだ。メインの校舎から渡り廊下でつながっている別館だ。天文学部や美術部などの文化部の部室がある」
そして―――汐入、ここからだ―――と言って梅屋敷さんは言葉を切った。
「うむ。ここまでの状況は理解できている。続けてくれ」
と汐入が応じる。
「―――その離れの校舎で犯人が消えた」
「消えた?まさか、夢の国の偉大なマジシャンの様に目の前で煙になったわけではないんだろ?」
あ、汐入、ここでそんな冗談を言うんだね。梅屋敷さんは真面目に相談を持ちかけているのに。案の定、梅屋敷さんから
「そんなわけあるか!」
とガチのトーンで突っ込まれる。
「ああ、そうだな。状況を詳しく教えてくれ」
汐入は全く動じず、何事もなかったかの様に話しを進める。こーゆーところは大したもんだ。いや、鈍感なだけなのかも知れない。
「ああ、まず離れの内部を簡単に説明しよう。上から見るとおおよそ正方形だ。中には4つの教室がある」
僕は田という漢字をイメージした。4つのブロックがそれぞれ教室だ。
「入り口は端にある。廊下は入り口から中央部まで繋がり、そこから奥へと校舎の真ん中を横切っている。つまり廊下はちょうどLの形に走っている。」
田の字で言えば入り口は左上の角。廊下は一画目の縦棒の上半分と内側の横線と言うことになるのだろう。
「L字型の廊下には、突き当たりに非常口がある」
なるほど。先ほどの田の字に非常口を追加してみる。左側の真ん中が非常口になるわけだ。
「教室は廊下を隔てて左右2部屋ずつあることになる。4つの教室の出入り口は廊下からの扉のみ。窓はあるが、教室側で乗り越えても外に飛び降りるには結構高さがある。選択肢としては悪手だ。後で説明するが、予想通りそこから外に出た可能性は否定されている。つまり、状況としては犯人が校舎の外に出る為には非常口を使う可能性が極めて高かった」
「ふむ、ふむ。わかるぞ。続けてくれ」
汐入が先に促す。
「だから大森に外から非常口に回るよう指示して、俺は入り口から校舎に入った」
「うむ。挟み撃ちだな。これで犯人を校舎の中に封じ込むことができたわけだ」
「ああ、そうだ。俺は校舎に入り廊下を進むと、角で菊川と鉢合わせした。若い女の先生だ。美術部顧問をしているから廊下の奥の右側にある美術室によく出入りしている」
僕は頭の中で再び田の字を描く。鉢合わせたのは左の縦棒の真ん中。先生は中の横棒の右側から来たわけだ。美術室は田の字の右下のブロックだ。
「俺は菊川に聞いた。ジャージ姿のひょっとことすれ違わなかったか?と。菊川は、え、誰ともすれ違ってないけど、と答えた」
「それはそれで矛盾はないな。先生は奥の教室から出てきたんだろ?廊下の突き当たりの非常口を大森が塞いでいるなら、犯人は先生が出てくる前に手前の教室のどちらかに入ったってことになる」
汐入が見解を述べる。なるほど。それなら矛盾はしない。犯人は田の字の左側の上か下のブロックにいる筈だ。先生とすれ違わずに右上のブロックに入るのはタイミング的に難しいだろう。
「ああ、俺もそう考えた。手前側の左右どちらかの教室に犯人を追い込んでいる。だから、大森には非常口から入ってこい、と指示した。その時、ようやく襲われた当人が追いついて来たから、そいつには入り口を見張ってろと言った。そして俺と大森は左右の教室に同時に突入した!」
さすが、梅屋敷さんだ。落ち着いていて抜け目がない。これでは犯人に脱出する隙はない。
「ところが、だ。俺も大森も教室で犯人を見つけることはできなかった。窓から脱出する手もあるが、全ての窓には鍵がかかっており、その可能性は否定された。脱出後に外から鍵をかけることはできないからな。入り口を張っていた奴も出てきた人はいなかったと言っている」
「うむ。状況は良く分かった。謎はまだ解けないが、この事件の問題点は3つだな。まずは犯人が消えた謎、それから誰が犯人か、動機はなんなのか、だ」
「その通りだ、汐入。ひとつ目については、明日現場を見てくれ。犯人と動機についてはどう考えていけばいい?」
「現場を見ることは了解だ。あとのふたつについては、まず襲われた3人から話しを聞かせてほしい。詳しく状況を聞きたいし、共通点などがあれば犯人の動機が解るかも知れない」
◇◇◇
翌日、汐入のお供で僕もブチ工業にいく。2年F組の教室に来いとのことだ。ブチ工業の教室にお邪魔するのはこれで2度目だ。いつぞやは2年D組にいったっけな。
教室に着くと梅屋敷さんが迎えてくれる。
「おう、汐入、能見、来たか」
梅屋敷さん、ちわっスと僕は挨拶する。汐入はヨッと掌を上げ挨拶した。
「今日話しを聞くのはこの三人だ」
襲われた三人は篠崎、小川、一之江といった。
「お、アジ三女子、可愛いじゃん!ブチ高のきみは彼氏?どこまでの関係?」
む!なんか品がないな。
「脛叩かれただけでこんな可愛こちゃんと話せるなら、もっと早く叩かれてたら良かったな〜」
「俺、一番強く叩かれたぜ。だから一番仲良くしてくれよな。もっとこっちに来いよ」
と他の二人も下品に汐入に絡んでくる。
汐入は、完全にスルーしている。時間割を眺めて、ふーん、工業の時間割ってこんなんなんだ。電気・電子、製図、実習か。なるほどな。国語は少ないんだな、などと一人でブツブツ言っている。
さすがに不愉快だ!僕が一言、物申そうと思った時、
「オイ!汐入に無礼をするな!俺が許さんぞ」
梅屋敷さんが一喝してくれた。ようやく三人は大人しくなり、汐入の聞き込みが始まる。
聞くと皆、2年F組のようだ(ちなみに梅屋敷さんは2年A組、大森さんは2年D組だ)。
犯人について尋ねると印象が分かれた。3件目を追跡した梅屋敷さんは痩せ型だと言っていた。それと同じく3件目の被害者一之江も痩せ型との印象を持った様だ。だが、1、2件目の被害者篠崎、小川はややがっちり系だと言った。
犯人については気になる点はあるか?と問うと、逃走経路に迷いがなく校内をよく知っている奴だと感じた、とのこと。犯人の心当たりは皆一様にないと答える。
他、目ぼしい情報は特に得られなかった。
共通点は2年F組ってことはだけか・・・。犯人の印象が割れているなぁ。ジャージにひょっとこで変装した複数人の犯行かもしれないな、と思考を整理していると、汐入が梅屋敷さんに聞く。
「なぁ、梅屋敷、これから現場に行くが、ついでに美術部員にも話が聞きたい。案内してもらえるか?」
「美術部員か?」
「ああ、現場付近の聞き込みってところだ」
「おう、構わないぞ。では行くか」
◇◇◇
梅屋敷さん案内のもと、汐入と僕は離れの校舎に来た。本校舎からは渡り廊下で繋がっている。入り口はグランドからも入れ、微妙に土足と上履きのゾーンが混ざるが、あまりその辺は気にしていないらしい。入り口から続く廊下は、少し直進したのち左に曲がっている。左に折れたら校舎の中央を貫く様に真っ直ぐに廊下が走っており、その左右に教室がある。
「俺はここから入り廊下を進んだ。大森には外から非常口に回ってもらった」
梅屋敷さんが説明しながら廊下を進む。
「ここの角で菊川にでくわした」
と言って角に立つ。そして角を曲がると左右に2つずつ教室への扉が配置されている。
「菊川は奥の右側の教室から出てきて、誰ともすれ違っていないと言う」
廊下は結構距離がある。犯人は菊川先生とすれ違わずに奥の教室に入るのは確かに無理だと思える。
「だから俺は手前側の左右どちらかの教室に犯人は隠れたと考えた」
「うむ。そうだな。現場を見ても、その考えに特に違和感は生じない」
梅屋敷さんの説明に汐入は同調する。
「で、大森には廊下突き当たりの非常口から入ってきてもらい、遅れて来た一之江を入り口の見張りにつけた。そして大森とこの左右二つの教室に同時に突入した」
僕らはまず右側の教室に入る。外に続く経路は窓しかない。窓を開ければ乗り越えて外に出れそうだが、そうするとどうしても鍵が開いたままになる。鍵が閉まっていたと言う状況から考えて窓から逃げた可能性はないだろう。
汐入はふん、ふん、なるほどな、と頷きながら現場を見ている。左側の教室も状況は同じだ。
「よし、では、美術部を案内してくれ」
わかった、と言って梅屋敷さんは奥の右側の教室の扉を開けた。
「ちょっと邪魔するぜ」
「何ですか?」
部員達が手を止め、こちらを見る。ピンと空気が張り詰める。
「少し話しを聞かせてくれねぇか。二日前のことだ。放課後、誰か人が来なかったか?ちょうど菊川が教室を出て行った頃だ」
間髪入れずに
「いや、特には」
と返ってくる。取り付く島もない。
汐入が割って入る。
「ワタシはアジ三の一年、汐入悠希だ。梅屋敷から頼まれてブチ工業で最近起きている暴行事件について調べている。一昨日の話しを聞かせて欲しい」
あまり歓迎されているムードではないが、汐入が正面切って頼むと渋々ながら応じてくれた。
部員は三人。2年生の森下葵、住吉駆、そして3年生の部長大島一太だ。
「あの時間は何を?」
「石膏像のデッサンを」
と森下葵。
次いで住吉駆は
「僕は風景画に色を入れていました」
と視線を向けた先にある絵は、細身の身体から想像する通りの繊細な色使いをしている。
部長の大島一太は
「次に何を描くか、考え事をしていた」
と、当時を再現するかの様にガッチリとした腕を組み目をつむる。
「三人が襲われた理由に心当たりは?」
「別にありません。わたしは親しくないし」
2年の森下葵が答える。住吉も納得顔で頷いている。
「では、改めて聞くが、あの日、誰か来なかったか?」
一瞬、三人の視線が交錯する。部長の大島が答える。
「あの日は・・・」
すっと視線が左上に動いたのち右上を向いた。
「誰も来ていない」
「ふむ。わかった。では最後に菊川先生について教えてくれて。どんな先生だ?」
森下葵が答える。
「とてもいい先生です。昨年結婚して、最近とても幸せそうで」
オイ、と部長が小声で制する。一瞬、間を置いて
「私たちは皆、先生が大好きです」
と森下葵は答えを閉める。
「うむ。よくわかった。ありがとう。邪魔をしたな。梅屋敷、戻ろう」
どうやら聞き込みはここまでのようだ。
◇◇◇
ブチ工業からの帰路、汐入に話しかける。
「なぁ、汐入どう思う?美術部員、何か隠してるよね?」
「そうだな。今日わかったことは、貴様の言う通り美術部員は何かを隠しているってことと、2年F組に何かあるってことだ」
「F組?確かに襲われた三人は同じクラスだけど、そこ以外になにかあった?」
「ああ、森下葵の校章とクラス章をちらっと見た。彼女も2年F組だ。それからF組の国語の担当教員は菊川先生だ」
「えっ?あ、もしかして時間割か!?」
僕は汐入が時間割を眺めていたことを思い出した。
「そうだ」
「つまりF組と美術部、菊川先生が絡んでいるってこと?」
「ああ。ワタシはそう考えている。F組を経由して皆、繋がっている。犯人があの校舎に逃げたのも偶然ではないだろうな」
「えっ!?それって一体、どう言うこと?」
「森下葵が先生に関する発言をした時、部長が制したな」
と汐入。それが何のヒントなんだろ?疑問に思いつつ
「あれは菊川先生のプライベートに触れたからじゃないの?」
と僕が返す。
「その可能性もあるが、違うニュアンスをワタシは感じた」
「それは何?」
「女の勘」
なんだ?いつもロジカルな汐入らしくない発言だ。会話も噛み合ってない気がするし。
「ちょっと気になることがある。それを確認するために森下葵とサシで話しをしてみる」
汐入にはもう何か見えているのか?
「汐入が言うのなら僕は、異論はないよ。任せるよ」
◇◇◇
翌日、汐入は一人でブチ工業の門の前にいた。アポ無しで森下葵を待っているのだ。しばらく待つと、部活を終えた森下葵が門から出てきた。
「森下葵さん!アジ三の汐入悠希だ」
「あ・・・」
森下葵から迷いを感じた。汐入は畳み掛ける。
「お願いだ。少し話しがしたい。ワタシは美術部員たちが何を護りたいのか多分知っている。キチンとそれを確認した上で、悪事に対処したいと思っている」
森下葵は驚いた表情を見せたが、やがて諦めたような顔になり素直に頷いて汐入に言った。
「わかったわ。じゃあ、ゆっくり話そ」
◇◇◇
部活終わりの時間だ。汐入と森下葵は二人ともお腹が空いていた。ハンバーガーセットをそれぞれ持ち寄り駅ビルのフードコートの席に座った。
「まずはワタシの推理を話そう。違う部分があれば言って欲しい」
「ええ、いいわ」
◇◇◇
汐入は話し始める---
どこから話すのがいいかな。そうだな、まずは菊川先生とF組の馬鹿男子どもからかな。アイツら品がないだろ。ワタシも体感した。きっと先生に嫌がらせをしていたんだろう。それはセクハラ紛いの嫌がらせだと想像している。
森下葵さんはアイツらと同じクラスだからそれを目撃しているね。菊川先生には部活でもお世話になっているからアイツらの嫌がらせを腹立たしく思っていた。だがやんちゃな奴らのことが怖くてこれまでずっと我慢していた。
しかし我慢の限界を超えるきっかけがあった。菊川先生に関する何かで、きっとそれは美術部員が隠そうとしている事だと考えている。それがわかると容易に事件の動機や構図が推定されてしまうからな。だから隠す事にした。いや、隠す理由はそれだけじゃないな。
ワタシの邪推が外れることを恐れずに言うならば、菊川先生に赤ちゃんができたのではないだろうか?普段から先生を見ている森下葵さんはいち早くそれに気がついた。女の勘ってやつだな。まだ安定期に入っていないから、気がついたことは先生にも秘密だ。
それが行動を起こすきっかけとなった。流産でもしたら大変だ、早急に何とかしなくては、と考え、美術部員の住吉、大島に相談した。もちろん彼らの気持ちは同じだ。それでF組の男子に制裁を加えることにした。無差別にはやらずに嫌がらせが顕著な奴を選んだ。嫌がらせをやめろ、という無言のメッセージだ。
具体的な方法は事件の通りだ。犯行はおそらく住吉と大島がひょっとこに変装して行なったんだろう。
1件目、2件目は想定通りに成し遂げた。だが3件目は想定外の事態になった。梅屋敷と大森が追跡してきた。
菊川先生は多分、1件目、2件目の被害者が自分に嫌がらせをしている主犯格であること、そして美術部員達の態度から薄々気がついていたのかもしれない。美術部員たちが自分の為に制裁を加えていると。
そして、3件目、美術室に駆け込んできたひょっとこ姿の住吉を見て、ほとんど確信に近いレベルで察した。咄嗟に一計を案じ、廊下ですれ違った者はいないと梅屋敷に嘘を伝えることにした。それは功を奏し見事に住吉を匿うことに成功した。
これがワタシの推理だ。いかがだろうか?
◇◇◇
「その通りだわ。汐入さんと言ったかしら、アナタって怖いわね。で、どうするつもり?わたしは謝るつもりはないわ」
「後は任せて欲しい。悪い奴らにしっかりと反省してもらう」
◇◇◇
汐入は公園にブチ工業の面々を呼び出した。千本松くん、梅屋敷さん、大森さん、そして2年F組の篠崎さん、小川さん、一之江さん。
「来たか。待っていたぞ。お前らに言いたいことがある」
なんか、汐入は怒っている。襲われた三人は、何だよ、上から目線で、何様だよ、と口々に文句を言っている。それを意に介さず汐入は続ける。
「ブチ工業での暴行事件だがな・・・。これはお前らが悪い!!お前らが菊川先生にセクハラ紛いの嫌がらせをしていた報いだ!」
皆は呆気にとられている。構うことなく更に続ける。
「誰が襲ったとか、消えたひょっとこの謎はもうどうでもいい!この事件の真の問題点はお前らだ!」
もうほぼ怒鳴り声だ。その迫力に気押されて皆、微動だにできない。
「想像してみろ!将来、自分の彼女だとか奥さんだと思って考えてみろ!お前らが菊川先生にした行為を、お前らは許せるのか!?男としても最低だぞ!お前らは!」
襲われた三人はハッと目を見開らいた後、汐入の言葉が突き刺さるのを堪えるように目を閉じてうなだれている。
「梅屋敷!お前もだ!二年の頭、張っているんだろ!こいつらのそーゆー話しは当然、知っていたんだろ!何故、放置した!」
梅屋敷さんは拳を握りしめ、身体を震わせている。
千本松くんが
「汐入、その辺にしておけ」
と、仲裁に入る。少し落ち着きを取り戻した汐入はふーっと深く息を吐く。
「そうだな。少し言い過ぎた。梅屋敷、ごめん」
梅屋敷さんは声を振り絞って言う。
「いや、汐入、お前の言う通りだ。この件は俺の責任だ。明日、こいつらを連れて菊川先生と旦那さんに謝りにいく。もう二度とこんな事は起こさない。美術部にも謝る」
「ああ、わかった。謝って当事者から赦しを得てくれ」
◇◇◇
二日後、アジ三の正門がザワついている。ブチ工業の制服を着た四人が門の前でビシッと直立不動で整列しているのだ。
何?この人達?
どこのヤンキー?
なんなの?怖〜い
元からスキンヘッドだった梅屋敷さんは特に変わりないが、篠崎さん、小川さん、一之江さんの三人は頭を青々と剃り上げている。
ブチ工業の制服を見とめて、汐入が門から出てくる。
「梅屋敷!なんか用か?わざわざ来なくても大森珈琲で会った時で良いじゃないか?」
「いやそうはいかない。ケジメの問題だ。こちらから出向くのがスジだ。菊川先生、旦那さん、美術部の皆に謝った。そして赦してもらえたから報告に来た」
「汐入姐さん、今回はご迷惑をかけました。スミマセンでした!!」
と言って三人が丸めた頭を深々と下げる。
「止してくれ、ワタシに謝る道理はない。それにワタシは姐さんではないぞ」
「いや、姐さん。もう決めたっス。俺ら、汐入姐さんを尊敬するっス」
三人は瞳を輝かせながら汐入の表情をうかがってくる。はぁ〜とため息をついて、ウンザリしながら汐入が呟く。
「やれやれ、もういい。勝手にしてくれ」
「うっす!姐さん、どこまでもついていきまっス!」
(おわり)




