【ラゼ誕+モニ誕2025】選び愛【蝶々姫シリーズ】
世界暦???年。時期的には蝶々姫第三章の少し後です。
ラゼリードの元へ、手紙が届いたのは12月の始めの事だった。
『久しいな。以前、ラゼリードへの誕生日祝いの玉を選んだ店へ一緒に行かないか?
今年はお前の誕生日を忙しくて祝えなかったから、その詫びだ。
代金は全て俺が出すから好きに買っていい。
追伸。エイオンの姿ではなく、どこかの下位貴族令嬢程度の普段着で来い』
「呆れた。また勝手に呼びつけて。もう。下位貴族令嬢の普段着ってどんな格好よ」
ラゼリードははぁ、とため息をつく。
振り回されるのは慣れているから特に呼び出されるのは苦痛ではない。
むしろ今年はスルーされた誕生日を覚えていてくれた事が嬉しいし、誘ってくれた事もとても嬉しい。
なにせ、前回行ったルクラァン東区街にあるあの店は大変品物の質が良かった。
その事を覚えていてくれたのも嬉しい。
「あの店なら信用できるから、モニの誕生日も近い事だしなにか選びましょう。でも衣装がね……ハッ!」
ラゼリードは雷に打たれたように我に返った。側に居るじゃない、貴族令嬢。我がカテュリアの、だけど。
ラゼリードが机の上のベルを鳴らすと、まもなく扉がノックされて侍女頭のユーベール・ディンナーが姿を現した。
ご存知の通り侍従長のヨルデン・ディンナー伯爵の長女である。
ヨルデンは元々ディンナー家の次男坊だったが、長男のサーマンが奥方と子を亡くして意気消沈し、更に例の疫病で生殖機能を失ったので、ヨルデンに爵位が回ってきたという訳だ。
「お呼びでしょうか、ラゼリード様」
「ねえ、ユーベール、ルクラァンのハルモニア陛下に……ゴホン、か、買い物に誘われたのだけど、下位貴族令嬢の普段着ってどんなものを着て行けばいいかしら?」
ラゼリードは頬が赤くなりませんようにと祈って伝えたが、それは叶わなかったようだ。頬が熱い。
「まあ、デートですか!? おめでとうございます!」
ユーベールが嬉しそうに声を上げる。
「そ、そんなんじゃ……あるけど、わざわざ女性の姿で来いと書いてあっただけよ。あと服装指定と」
「ラゼリード様、少しお待ち頂けますか? 父から【暗部】の変装用魔法本を借りてきますわ」
「え? 暗部にそんなものあるの?」
【暗部】とは、ラゼリードが戴冠する前、初めてルクラァンに行った時に巻き込まれた事件で、最終的に当時のルクラァン国王エルダナの直下部隊【暗軍】に手助けされた事で、悔しがったヨルデンが真似て作った組織だ。
ディンナー家の猛者達を集めたもので、諜報活動から汚れ仕事までなんでもこなす一流の軍団だが、普段はラゼリードに仕える侍従長だったり、侍女だったりする。
もれなくユーベールも暗部の一員だ。
結婚前、婚約者に暗器を貰ったと報告し、嬉しそうに微笑んだ彼女をラゼリードは背筋が凍る思いで眺めたのを覚えている。
暗器を貰って喜ぶ方も、贈る方もどうかしているとしか思えない。
「お待たせ致しました」
ユーベールが戻ってきた。手には分厚い魔法本。
ユーベールはその本をどさりとラゼリードの執務机に置くと、頁を繰り始めた。
「ルクラァンの貴族令嬢の普段着なら、これなんてどうです?」
指をさされた頁には襟の高い桃色のケープコート。
ケープの縁には白い毛皮があしらわれていて可愛らしい。
コートの裾にはスリットが入っていて、ルクラァンの伝統的織物の柄のスカートが覗いていた。足元は編み上げブーツ。
「まぁ、可愛いわね。でもどうせなら赤にしましょう。モニの瞳の色だから……」
「赤ですね。では呪文を……」
「その必要は無いわ」
「え」
ラゼリードは着ていた白い長衣を分解し、あっという間にルクラァン風の衣装に組み立て直してしまった。
彼女はいそいそと机の引き出しから青い片眼鏡を取り出すと左目に装着する。
そして普段は服の中の玉を襟から出した。
「じゃあ行ってくるわ。留守を頼むわね」
窓を開けたラゼリードは言い残すと姿を消した。『風の道』に入ったのだろう。
取り残されたユーベールは魔法本を閉じる。
「あーあ、一度くらい魔法本の詠唱をしてみたかったな。でもラゼリード様があんなに嬉しそうなの、久しぶりね」
「僕はアレに会いに行くなんて気に食わないけどね」
「お父様!」
ユーベールが振り向くとステッキを持った壮年のヨルデンが立っていた。壮年といってもふわふわした茶髪に白髪が混じる程度で、その顔はまだまだ若々しい。
「ラゼリード様に必要なのは図鑑で、魔法本ではないんだよ。ユーベール」
ヨルデンはユーベールが両手で抱えてきた分厚い本を人差し指と親指だけで掴んで回収してしまった。
「行くよ、ユーベール」
「はい、お父様」
2人は女王陛下の執務室を後にした。
「モニ!」
2人の待ち合わせ場所といえば、アド市中央区街南の大時計塔である。
ひらりとスカートを翻してやってきたラゼリードに、ハルモニアは見蕩れてしまった。
「驚いた。カテュリア風の下位貴族服で来るかと思ったらこっちに合わせてくれたんだな。それにあの玉まで着けてくれている。嬉しいな」
「と、特別よ。特別に着けたの!」
「その割に肌のぬくもりが残っているが?」
ハルモニアはラゼリードに近寄ると、指先で玉に触れた。熱を感知するだけなら火の精霊のハルモニアなら容易いというのに、わざわざやってのける辺り、彼もラゼリードに対する経験値を詰んだということだろう。
かぁっと頬を赤らめたラゼリードに、ハルモニアは追い討ちで頬に口付ける。
「頬だけ?」
「え」
問いかけたラゼリードはハルモニアの黒いケープコートを掴んだかと思うと強く引き寄せて、自ら彼の熱い唇に口付けた。
どちらからともなく唇を離すと、赤と紫の視線が絡まる。
「店ごと買ってもらうお礼よ」
「店ごと!?」
「冗談よ」
慌てるハルモニアを見て、ラゼリードは鈴を転がすような笑い声を上げた。
2人のデートが始まる。
たどり着いた東区街の宝飾店は硝子の扉に洒落た金色の文字で店名が書いてあり、初めて訪れた時から大して年月が経っていないにも関わらず懐かしさを感じさせる。
「いらっしゃいませ」
店主がニコリと笑った。ラゼリードもニコリと笑みを浮かべる。
「さーて、何を買って貰おうかしら? ねぇ、モニ、それとも選んでくださる?」
「俺が選んでいいのか?」
「勿論。わたくしも選ぶわ」
「店主。この店で最高のパリュールを作りたい」
ハルモニアは一点選ぶと早速カウンターに詰め寄った。
「パリュールで本当に宜しいですか。耳飾りにネックレス、ペンダント、ブローチ、指輪の5点です。宝飾品の数の少ないデミパリュールもお作りできますが」
「パリュールでいい」
そこから原石を出しての真剣な相談が始まる。
「宝石は……」
「いや……この色は……」
そして二刻(4時間)が経過した。
「決まったわ!」
「俺はとっくに決めてたぞ」
疲れた顔のハルモニアがラゼリードに無理に作った笑顔を向けた。
「あらそうなの? じゃあせーの、で見せ合いましょう」
「せーの!」
「俺からは紅玉のパリュールと、この薔薇柘榴石のブレスレットだ。パリュールは後で届けさせるからデザインは楽しみにしておいてくれ」
「わたくしからは薔薇柘榴石のバングルよ!……って、あ、あら?このブレスレットとバングル、まるで対になっているみたい」
2人が出したブレスレットとバングルは繊細な細工の中に鳥の羽根を模していて、それも左右で違うというものだった。
ラゼリードが出したバングルは左に羽根があり、ハルモニアが出したものは右に羽根があるものだ。
「お前……自分の分は? 店ごと買うんじゃなかったのか?」
ハルモニアはキョトンとした顔で彼女を見た。代わりにふくよかな髭の店主が目を白黒させている。
ラゼリードは観念して白状した。
「わたくしは……貴方への誕生日の贈り物が欲しくてここへ来たの。これが気に入って、それでも対になっているものが無くて、誰か他の人が着けていたらと思うと泣きそうになったわ。でもこれを贈りたくて……決めたの。貴方が先に選んだから対になるものが無かったのね。良かった」
「お前……」
ハルモニアは人前にも関わらず、ラゼリードを強く強く抱き締めた。
「ちょっ、苦しいわ! モニ! それに恥ずかしい!」
わちゃわちゃしているこのバカップルを見た店主は、お忍びで来ているどこかのお貴族の仲のいい新婚夫婦だな、と思ったそうな。
その誤解が解けるまであと1年。
赤のコートに白の縁どり、サンタなラぜ子でした!
お読みいただきありがとうございます。
ちなみに今年忙しかったのは実はモニ(キャラ)ではなくて、手首が腱鞘炎で使い物にならなかった作者です(チベットスナギツネ顔)




