自殺寺
そのお寺は自殺の名所。
入った人間は必ず自殺をしてしまう。
来訪者を若い尼が出迎える。
「そんなにも死にたいのですか」
尼の問い。
これは最終確認でもある。
「死にたくありません」
そして、今回の来訪者は『正しい答え』を口にした。
「では、何故この場所に来たのですか」
「そうしなければ、あなたがこの土地を滅ぼすからです」
その言葉を聞いて尼は満足げに笑う。
にんまりと笑った口がだんだんと裂ける。
引き伸ばされたようにして身体が伸びる。
寺の中。
本尊が見守る中、尼は一匹の大蛇となる。
ぽっかりと大口を開けた、この土地の神様。
来訪者は泣きながら問う。
「俺の命でこの土地は何年平和となりますか」
大蛇は答えない。
蛇に人の言葉など話せやしないから。
「あなたはあと何年こんなことを続けるのですか」
*
本尊が見下ろす先に一人の尼がいる。
この場所を自殺寺と名付けた当人だ。
そして、いつだって自殺寺には彼女以外に誰もいない。
彼女は満足気に呟いた。
「慈しみ深い人間が消えたなら、この寺は自然と消えるだろう。あぁ、人間とはなんとも美しく愛おしいものだ」




