プロローグ
拝啓あの頃の君へ。
今俺は君の言うそれになれていますか?
「じゃあ、行ってくるわ」
午前6時半。世間一般的な高校生よりも少し早めに家を出る。
地元のやつとは一緒の高校に行きたくないと言う理由から、
約1時間半ぐらい、電車を乗り継ぎついで都会から離れた学校へと向かう。
俺も健全な高校生だ。無論朝起きるのはつらい。
だが、それが数日と続けばかなり慣れてくる。
午前7時17分、満員電車を抜ければあとはラク、
海沿いに走るローカル鉄道にゆられ、駅への到着を待つまでだ。
午前8時6分、教室に着く。
この時間帯はまだ人は少ない、俺はこの時間に読書をすることが至福だ。
午前8時30分。ホームルームが始まり、こっから授業が6限まで続く。
「お前どこん部活入る?」
昼食時、わざわざ同じ高校についてきた中学校からの友人の坂田が聞いてくる。
「まだ決めてない。」
「おまえのことだから野球即決かと思ってたわ。野球はやめんの?」
こいつの言うとおり、俺は小中で野球を続けてきた。だが、野球部には入らない。
「お前俺の球技スキルの皆無さ知ってるだろ。もうやめたんだ」
俺たちの通ってた中学にはごくわずかな種類の部活しかなかった。
他の部活でも良かったんだが、その頃はまだ野球に対する熱は引いてなかった。
「もったいねぇな。無論俺はバレー部のマネージャーを希望する」
まったく単純なやつだ。こいつは。
「バレー部のマネージャーなんて尻に敷かれるか、キモがられるかのどっちかだぞ。やめとけ」
「は?夢のないこと言ってんじゃねぇよ」
そんなくだらない言い争いがチャイム鳴るまで続いた。
放課後、今日から部活動体験が始まるため、廊下は部活動の勧誘で列を作っている。
生徒数が多いわけじゃないため、ここも種類はそんなに多いわけではなかったが、
少しでも多く人を入れようとする熱気が廊下一面に伝わる。
この学校の部活動の入部は義務だ。
いやでも何かしらには入らなければならない。
なるべく、落ち着いてそうなところがいいな。
であれば、文化部にするべきなのだろうか。
そんなことを考えているうちに、既に手には大量なチラシを抱えていた。
これは早急に決めなければ。
ドンッ。肩がぶつかる。
「すまん。失礼した」
「大丈夫。ごめんね」
恐らく、同じ新入生の女子がそう言った。
その肩には大きなギターケースのようなものを背負っていた。
軽音部だろうか?初日から楽器を持ってくなんてかなり、気合が入っているな。
音楽か。確かに俺は好きで良く聞くし、親が音楽関係の仕事のため、昔から楽器は触っていた。
どんなものか拝見してみるか。
振り返り、先ほどの女子の背中を追ってついていく。
その先には職員室があった。何故職員室に入っていったかわからなかったが、
俺は少し遠くから女子の姿を疑っていた。
「え!ここ軽音部ないんですか?」
何故事前にそういうことを確認せんのだ。
女子は放心状態、話しをしていた教頭も呆れ顔だった。そんな姿を見兼ねた校長が話しかける。
「だったら新しく作ればいいじゃないですか」
確かにこの学校は新入生でも部活動を作ることは出来るが、4人の部員のノルマが必要となるため、
かなり厳しいのである。
「そういうことなら話は早いですね!」
何故そうなる。普通そこで諦めろよ。
女子は申請票を貰い、何かしようとスマホを操作したのち職員室をでた。
そういうことなら、俺に関係はない。他にしよう。
「ねぇ、そこの君。楽器に興味ない?」
捕まった。
「いや、全く興味ない」
「まぁまぁそんなこと言わずにさー。さっきあんなにこっち見てたのに」
バレてた。
「ちょっと協力してくれるよね」
俺は半ば強引に連行され、中庭に連れてかれた。
そこには勧誘を行う人や、下校する人など、人は通るとこだった。
「今から何するんだ?」
「まぁ見てなって」
そう言うと、ギターケースからエレキギターを取り出し、チューニングを始めた。
ここで弾く気なのだろうか。
横で見てると、後ろから二つ結びの女子、小柄な体型の女子がアンプなど、大量な荷物を持って走ってきた。
「お待たせ〜」
「急すぎるの!家から持ってくるの大変だったんだからね。...てか誰こいつ」
「さっきそこで捕まえた私たちの記念すべき一人目のお客さんだよ」
勝手に連れてこられて、勝手に一人目の客にされてしまった次第である。
女子たちはそれぞれ、ギター、ベース、カホンとシンバルを準備した。
それを見つけた民衆たちはなんだ、なんだとわらわら集まってきた。
そして、小柄の女子のカホンの切り出しによって、演奏がはじまった。
俺は不意をつかれたような気分だった。
それは紛うことなきに下手くそだった。
民衆たちは期待はずれと言わんばかりにどんどん立ち去っていった。
去り際に捨て台詞のように「ここでそんなことするなよ」と言う奴もいた。
3分後、気づけば客は俺一人に。立ち去りたい気分だったが、この流れでは流石に気が引けた。
そのまま時間は流れ、演奏は終わりを迎えた。
どうですかと言わんばかりにこいつらはこっちを向いてくる。
「悪いが、これは酷いな」
やっぱりと言いたげな顔で顔を見合わせる。
「お前たち、あいつらを見返したいと思わないか」
「何であんたにそんな事言われなきゃいけないのよ」
「だったら悔しくないのか?」
二つ結びの女子が顔をしかめる。
さっきのやつらの言葉に他人ながらも少しイラッときてしまった。
「俺昔から楽器とか色々やってたから、音楽については一応詳しい。あと足りないんだろ、ボーカル」
「マジ?これで4人集まった!」
そう最初の女子が切り出す。
「マジでこいつ入れんの?」
「私もいいと思う。現状ボーカルもいないわけだし。私もこのままじゃダメだと思う」
「このままだと私達またバカにされちゃうよー」
「う〜ん、もうしょうがないわね!!」
「んじゃ4人ノルマ達成ってことで、みんなここ名前書いちゃって」
最初の女子が那智彩芽、二つ結びの女子が相川日夏、小柄の女子が奈雪柑凛と名前書く。
そして最後俺が高時朔太郎と記入する
「部長誰にする?」と那智がきりだす。
「無論俺だろ」すかさず言う。
「何であんたなのよ」
相川と俺の論争ののち、部長は奈雪に落ち着いた。
こうして、三笘高校軽音部が結成された。




