多分一番安い機能
無事船に帰り着いた俺達は各々支度を始めた。
まず俺は危険物調査用の道具を片手に運搬品全部を確認。
まぁ爺さんの店で購入したものばかりで、基本的に危険物センサー反応しっぱなしだったから手作業で全部確認してから積み込んだ。
メリナは新車のメンテナンスと改造。
まぁ改造といってもシステム方面だからね、一応装備品は増やすっぽいけどそれだけ。
多少時間はかかるかもしれんが、宇宙に出れば関係のない事だ。
もしかしたら耐衝撃設定を書き換えたあの車の中がメリナにとって一番過ごしやすい場所になる可能性もある。
ルディの中に作った部屋も揺れや衝撃には強く、具体的に言うとルディの血液とかの体液でうかんでいる状態だから多少の揺れは気付かないようになっているんだがな。
その手の客室を複数用意しているので依頼人をその部屋の一つに押し込む。
「で、その強化インプラントって脆いもんじゃないよな」
「当然だ。精密だからといって壊れやすいと思うなよ」
「まぁ精密と繊細は違うからなぁ……」
端的に言えばスマホは堕としても壊れないが、ベニヤ板で同じ重さと大きさにすると落としたらぶっ壊れるって話だ。
精密でも強度があるなら問題ない。
「ちなみにどのくらい頑丈だ?」
「ハンマーで殴っても問題ないぞ」
なるほど、大手ゲーム会社が出していた箱型のレトロゲーム機と同じくらいの頑丈性か。
最新機種になると耐久性が落ちていくが、それでも子供がメインの客層になっているだけあって落としたくらいじゃ壊れないようになっているんだよな。
ライバル企業の方は堕としたら確実に壊れるが、据え置き機と携帯機の差だ。
なおレトロゲームの方も据え置き機だがアレは例外的で極端な例とする。
ビルから落としても起動するとかおかしいだろ普通に考えて。
「具体的にどんなものかは聞かない方がいいか。仕事には関係ないし」
「聞きたいなら教えてやろう! この強化インプラントはこの眼球なのだ!」
「いや聞いてないからな」
「義眼として使えるが視力はもちろん、これ一つでネットワークにも接続できる! 更に常時ネットワーク経由で視界内の人間の顔を確認、ナノマシン検知を並行して行い犯罪歴や賞金額の確認もできる! また船外服を着ていれば残り酸素残量などをゲージで表示してくれて、本人が望めば視界の端にインプラント手術を受けた人間の運動能力や体脂肪率、ほかにも関節の動きなどから攻撃力なんかも産出してステータス表示してくれる! また食事を見れば一瞬でカロリー計算もしてくれて、その分の消費に必要な運動量も教えてくれるのだ! どうだ凄いだろう」
「あー、凄い凄い」
耳糞ほじくりながら聞いてたが、まぁ便利そうっちゃ便利そう。
ただ俺にはいらないかな。
いざとなったらノイマンがその辺調べて逐一報告してくれるし、メリナの骨格が金属だからその内側に電子機器通してネットワークに脳内から繋げるようになっている。
あいつ単体でそれなりのスパコン並みの性能もっているからな。
で、ノイマンが手を貸せば量子コンピューター並の性能だって発揮できるわけだ。
ただ長時間続けると脳がオーバーヒート起こすらしいから短時間限定の連携業だな。
「車のメンテ終わりましたー。脱出艇として使えるようにホワイトロマノフの方に積んでおきましたよ」
「おぉ、サンキュ」
「それとルディの本体もホワイトロマノフへの移植が進んでいるみたいです。この調子ならあと数日で機関部の隣の部屋ひとつ使って本隊をコピー、どちらも操縦できるようになるとか」
「そりゃ便利だ。こっちの操舵室も嫌いじゃないが、やっぱ慣れてる席が一番だからな。それにいざという時出撃するならホワイトロマノフだろ」
「ですね。あっちは耐Gが少し弱めですが、ルディ程酔わないですし」
切実な理由だなぁ。
ここ最近吐いたり吐きそうになったりしているメリナは酔い止め強化インプラント手術を受けようか本気で悩んでいるらしい。
ナノマシンでもその辺はできるらしいが、一度体内のナノマシン除去手術をしてから新しく注入する形になるので少し時間がかかるとか。
まぁ正確には除去というより自滅因子を使ってナノマシンを一家射殺し尽くしてから全部排出するらしいんだけどな。
どうやって排出するかは聞かなかった。
メリナが笑顔で無言のままだったので、聞くなという圧だったと思う。
多分トイレでなんだろうなと思ったので黙っておいた。
「おい! 君ならわかるだろう! この強化インプラントの素晴らしさが!」
「音声通信繋げていたので聞いていましたが、そのサイズでそこまでできるのは凄いですよね」
「そうだろうそうだろう!」
「けど一般の人はそこまでの装備は必要ないですし、傭兵なら再生手術だって簡単にできますよね。なにより私自身全身強化インプラントですから比べると性能が中途半端になりそうです。あと常に視界に何か見える状態って想像以上に邪魔なんですよね。飛蚊症みたいで」
「なぁっ!」
「アナさん、想像してみてください。例えば体力とかスタミナって言われる物、肉体疲労とでも言えばいいですか? それがゲージとして視界の一部に浮いているとどう思います?」
言われて想像する。
今こうして話しているメリナの胸元に視線を向けた時、顔の位置がちょうど視界の上端だ。
そこにゲージが表示され……いや、普通に邪魔だな。
胸見てたら顔見えねえ。
腹に視線向けたら胸見えねえ。
最高に邪魔くさいな。
「そらいらねえな。一般人には無用の長物、傭兵にはそこまでする必要のない手術で外部装置でどうにでもできるなら」
「と、言う事です。塩漬けになっていたのもそういう理由があったんでしょうね」
「お、おまえらぁ!」
あ、クライアントがキレた。
まぁ実際の所ぼろくそに言っているけど、いい所がないわけじゃないんだよな。
……えーと、義眼だけに光らせるとかっこいいとか!