治安の悪いコロニーはお約束
さて、諸々の報告とか挨拶を済ませて新たに……と思ったんだが、なんと次の依頼主との待ち合わせがヘパイストスに近い場所だった。
まぁ新型の身体改造アイテムともなればそういう事もあるかとエルザやアルマと道を共にするのだが……。
「ここ、うちの近辺で一番治安悪い場所ですよ?」
「そうなのか? だとしたら待ち合わせにはぴったりだな」
「えぇ……」
ドン引きされたが、傭兵にとっては割と普通の事である。
というかちょっと治安が悪いくらいの方が傭兵としてはやりやすい。
なにせ少しくらい暴れても怒られないからな。
とはいえ事前知識は重要なのでサラッと調べてみれば出るわ出るわ、情報の山。
曰く貴族の御令嬢が近づいて行方不明になり、数年後見るも無残な姿で帰ってきたとかそういうネタがゴロゴロ。
他にも宇宙海賊の出入りが云々、傭兵の出入りが云々、どこそこのお偉いさんが個室で云々とネタになりそうな話が盛沢山だった。
「なるほどなぁ。これは随分意図的というかなんというか……」
情報を見た俺が思わず声を漏らすと通信の向こうのアルマが疑問符を浮かべているのが分かった。
ちらりとメリナに視線を送ると理解したようにうなずいてくれる。
「えっとですね、悪い情報ばかりが目立っているってことです。例えるならネットで炎上した後の書き込みくらい偏った内容になっているので、実情が見えないんですよ」
「そんな事あるんですかね」
「お前らのお膝元ってことは多分この手の身体改造アイテムの売買以外にも臓器売買とか法的にグレー、もしくは真っ黒な事はいくらでもあるだろ。そういうのの隠れ蓑にできて、いざという時は切り捨てられる場所があってもおかしくはない」
「じゃあ僕が知らないのは?」
「子供には刺激が強いからな」
この後子ども扱いした事でひと悶着あったが、実際アルマは子供だから仕方ない。
なにせなぁ……カバーストーリーとはいえ放火魔がいる場合を除けば、火のない所に煙は立たないわけだし。
実際どれが本物かわかったもんじゃねえ。
となれば治安が悪いというのは本当なんだろう。
そんなこんなでアルマ達とは途中でわかれて目的地に向かったのだが……廃棄コロニーみたいな場所だな。
意図的にぼろい見た目にしているような節はあるが、実際に古いコロニーなんだろう。
「おぉっと待ちな嬢ちゃんたげべっ」
入港して数分、目的地まで歩いていた俺達の道を塞ごうとしてきた巨漢モヒカンを殴り飛ばして辿り着いた酒場。
先方には今日到着するよと伝えていたんだが……銃撃戦が始まってた。
「あのボケナスが! ぶっ殺してやる!」
「てめぇが死ねぇ!」
「お前らここは中立だってわかってやってん……あぁ! あのボトル高かったんだぞ死ねぇ!」
何かの恨みを買って襲撃された奴とした奴、そして巻き込まれた奴らがドンパチしているようだ。
コロニーのセキュリティは……あぁ、またかと肩をすくめて立ち去っていった。
仕事しろよお前ら……いや、とはいえ大型ブラスターぶっ放してる中に拳銃みたいなサイズの玩具持ち込んでも焼け石に水か。
「メリナ、先方に連絡」
「えっと、なんて伝えます?」
「ドンパチ収まった頃に集合、抜け出せるなら……そうだな、あの店に来てくれと言ってくれ」
「はーい」
端末でメッセージを送信してもらってからはす向かいにある店に入った。
今ドンパチしてる奴らだが、持ってる装備は妙にきれいだった。
それこそ身なりとは違ってと言う注釈をいれられる程度には。
不思議に思って周囲を見ればなるほど、そこにあったのは獣をメインにしたショップである。
「邪魔するぞ」
「女子供の遊び場じゃねえんだ」
「傭兵だよ」
銀色のバッヂ、一応傭兵には物理的な身分証の代わりにこういうのが用意される。
今まで使う機会は無かったが、偽装は無理で中にはデータ化された個人情報がたんまりと詰まっている代物だ。
銃とか船買う時に使う。
偽装が無理な分こいつを見せれば大抵の相手は信じてくれる。
以前の仕事みたいに身分を偽る時、たまにではあるが上層部が偽の身分証を用意してくれたりもするんだよな。
まぁ傭兵の持ってる小型端末なんてピンキリだから情報改竄だったり、あるいは情報抜かれたりというのが頻発する。
それを防ぐ手立ての一環ではあるんだが、物が小さいから大抵の奴は無くすのだ。
俺は箱に入れてずっと放置してた。
ちなみにこいつは交換しなくてもランクに合わせて色が変わるという代物なので面倒が少なくていい。
「ほう……なるほどな。お前さん古い銃を好むな?」
「わかるか」
「異様に綺麗な手をしているが火薬のにおいが染みついとる。今時火薬式なんぞ使う輩は珍しい」
「そうか。とはいえそろそろ弾切れなんだ。補充できるか」
「ブツを見せてみろ」
ジャケットの下に隠したホルスターから取り出した拳銃をテーブルに置く。
コルト社製のアナコンダって言う銃に似た代物だ。
端的に言うならリボルバーのデカい奴。
「はっ、随分な骨董品じゃ。儂より年上じゃろうに」
「どうだろうな。案外爺さんの方が年上かもしれんぞ」
「代物はそうでも歴史が違うという事だ馬鹿もん」
軽く叱られてしまったが、慣れた手つきで見分している。
弾倉を広げ、弾丸を取り出してぎょろりと飛び出した眼球デバイスで解析している。
「これは無理じゃな」
「早いな」
「うちにはない規格だ。だが互換性のある品ならば用意できる」
「本当か?」
「だがこいつのメンテが面倒になるぞ」
「構わねえよ。ついでにこっちの弾薬もあるか見てくれ。それと弾薬とメンテ用品一式即金で購入するから見積もり頼む。弾薬はあるならそれぞれ200ケースずつくれ」
もう一丁隠していた銃を取り出す。
こっちはコルトM1991、一般的なオートマチックの銃だ。
コルト社好きなんだよね、俺。
「ほう、こいつは随分カスタムされておるな。スライドは継ぎ目が見えないほどに……グリップは質感を損なわず滑らぬように木製、トリガーは軽くハンマーは力強い。いい銃だ」
「だろ? 弾倉も結構力はいってるんだよ」
「ふむ、スプリングが力強い。確かにこいつは並々ならぬこだわりの逸品といえるな。これも互換性のある弾丸なら用意してやれる。メンテナンス用の道具一式も問題ない。だができるのか?」
「やってみせようか」
カチャカチャと目の前で銃を分解してみせる。
続けて簡易的だが内部清掃。
ライフリングとか結構煤がたまるからな。
他にも誇り一つ無いように丁寧に払ったりと結構大変だが、パズルみたいで面白いんだこれが。
「慣れた手つきだ。悪くない」
「船と銃と女は大切にしろってのがいい傭兵の鉄則だ」
「はっ、女のお主からそんな言葉が出るとはな」
あ、そうだった今俺女だ。
「だが気に入った。いいだろう、200ケースの弾丸とメンテナンス用品、最高級の奴らを送ってやる」
「おう、船は72番ハンガーの2号に止めてあるホワイトロマノフって船だ。これIDな」
「確かに」
ちなみに200ケースの弾丸ってのはこの世界では200箱の段ボールという意味になる。
数万発は撃てるかな。
「おま、おまえぇ!」
そんな事を考えていると一人の女児が店に飛び込んできた。
俺を指さして怒っているようだが……誰だこいつ。