次の仕事
祖父が夏風邪ひいて更新できませんでした!
米寿目前だからね、家族の健康第一!
「いやぁ、実りあるテストだった」
「ですねぇ、ちょっと限界出力超えればもっと色々できそうですけど」
「もうやだ……あんなのしんじゃう……」
三者三葉というか、主にメリナだけが大ダメージを受けていたがその肩をポンと叩く。
「メリナ、あれは訓練だ。あんな挙動そうそうしない」
「アナさん……」
「逆に言えばたまにやる」
「アナさん!?」
鳩がジャーマンスープレックスでもくらったような表情を見せるメリナだが、今の所傭兵のトップ層相手でもあんな挙動は必要ないだろう。
まぁそういう連中クラスが徒党を組んできたらわからないが。
「しかしこれは思わぬ拾い物ってやつだな。ちょうど二つ目の仕事で手が欲しかったんだ」
タブレットを叩いて依頼書を確認する。
「そういえば三つ仕事受けてましたね……今回みたいなイレギュラーはもうごめんですよ?」
「イレギュラーの有無はともかく残りは簡単なもんだ。二つ目はただの荷物運びで、三つ目はちょっと癖のある荷物運びだから」
「……詳しく説明してください」
メリナがうろんげというか、凄く不服そうな表情でこちらを見る。
ルディも子機で、ノイマンも俺の肩の上でタブレットを覗き込んでいるが、どちらも目とかライトがちかちかと光っている辺りどっかと通信しているのだろう。
詳しくは聞かんけど。
「まず普通の荷運びだが船団護衛を兼ねたものだった。ホワイトロマノフじゃ運びきれない量だから船団を利用しようと考えてたんだが、母艦が手に入ったからその心配がなくなったな」
傭兵として今後やっていくのに必要なのは圧倒的なパワーか、あるいは協調性だ。
それを確認するための仕事なのだが、幸か不幸か俺は圧倒的パワーを手に入れてしまった。
結果的に船団を使うまでもなく俺達だけで十分こなせる仕事になる。
まぁ荷物はそれなりに頑丈と聞いているので大丈夫だと思うが、無茶なフライトはできないと考えておくべきだ。
それでもルディが防御に専念して、ホワイトロマノフが迎撃に出れば十分だろう。
そんな仕事を今まで放置してたのかと言われそうだが……ぶっちゃけこれ、塩漬け依頼だったんだよな。
報酬に対して罰則が重い類だから手つかずになっていたパターンっていうのもあって、受けてくれるなら順番とか予定はこっちに全部任せます的な内容だったから受けた。
骨拾いから発展したアロアニマ騒動だけど、予定期日をオーバーしながらも無事クリアとなったしな。
おまけに報酬上乗せとなればベルセルクとしても文句はないだろう。
あの国の財源って仲介料、悪い言い方するならピンハネだから報酬が増えればその分懐も潤う。
なお個人的なお礼として傭兵が何かを貰うのはセーフだ。
チップみたいなもんだが、今回はそのチップがでかすぎたからな。
普通母艦買おうとするとコロニーの一等地居住区か、ある程度開拓された新規惑星の入居にかかる費用くらい吹っ飛ぶ。
「なるほど、試作デバイスの運送……あぁ、これサイバースキンの新型ですね」
「サイバースキンっていうとメリナが使ってるような奴か?」
「そのダウングレード版です。私は元々国家所属なので軍用グレードが支給されてましたが、民間に降ろすにあたって色々制限がかかりますからね」
「あぁ……そういう」
要するに人間を機械化するための装備一式をサイバースキンという。
わかりやすく言うならペースメーカーだな。
後は人工心臓とか、人工肝臓とかそういう類。
ある意味ではナノマシン強化もその部類なんだが……。
「俺もネットランニングできるくらいには改造した方がいいのかね」
「どうでしょう。正直デメリットの方が多いですよ」
「と、いうと?」
「遠隔ハッキングされたら最低でも爆発します。軍用グレード同士でないとそこまでいきませんが、民間グレードだと大抵の場合一方的に負けますね。傭兵なら大抵何かしらの理由で軍用グレード使ってますし」
「それは……うん、困るな」
主流なのは手首にケーブルを繋げるパターンで、腕の中に仕込んだチップを介してナノマシン経由で脳みそに情報を伝達する仕組みだ。
逆にナノマシン制御してない奴らにとって、つまりは一般人に需要が高いのはうなじにソケットやケーブルを取り付けるパターンだが……どちらにせよ爆発されたら困る。
「それとアナさんはそもそもそんなの必要ないですよね」
ちらりと視線を向けたのはノイマン、更にはすいっと俺の持っていたタブレットを操作して映し出したアンドロイド。
まだ受領できていないマリアの現在の進捗である。
72%の完成度という所で、そろそろ受け取れるかなという状況。
某配送サイトで言うなら現在配送中くらいの信頼度と言っていいだろう。
「確かにな」
「なにより!」
「うわびっくりした」
「生身のまま、ナノマシンだけで傭兵やってる人って貴重なんです! それも天然美人ともなれば!」
「……天然ではないがな」
「その秘密を知る人がいなければ天然なのです!」
なんだこの熱量……いや、いいんだけどさ。
「あとえっちする時邪魔になるので」
「それが本音かスケベ」
こいつ最近露骨に下ネタぶっこんでくるようになったから人前で口滑らさないか不安になってくる。
「それにネットランニングにせよ、サイバースキンにせよ注意点が多い割にできる事って少ないんですよ。少なくとも今困ってる事ないでしょう?」
「ふむ?」
「えっと、わかりやすく言うならアナさんがタブレットでやってるのって地図を見ているようなものなんです。それがネットサーフィンで、ネットランニングはダイビングかVRゲームです」
「つまり表面上だけを見るか、その深い所や立体の街並みを歩くくらいの違いがあると」
「はい、蹴れど普通の人はそこまで必要ありません。何より危険性が高いので」
「危険?」
「まずネットランニング中は肉体が無防備になります。殺されようと拷問されようとえっちな事されようと気付けません」
三つ目が心配だな。
「それに加えてウォールとかホールがあちこちにあります。一般のファイアウォールくらいならちょっと疲弊するくらいですが、ノイマンみたいなEFとかが作った超強力なウォールに触れると脳を焼かれて死にます」
「こわっ」
「ネット内の危険地帯として認知されてるから近づかなければ大丈夫なんですけどね。ただその手の危険地帯はあちこちにあるので新人ランナーがよく死んでます」
そんな道端でGが死んでるような言い方……。
「あとサイバースキンも万能ではなく、中には拒絶反応起こすものもありますからテストと馴染ませるのに時間がかかります」
「あ、それならいいや」
時間が惜しいわけじゃないが、面倒なのは嫌いだ。
病院嫌いではないが好き好んでいく場所でもないしな。
まぁ半月に一回検査に行くくらいには健康に気を使っていたが、こっちはメディカルポットがあるからあまり気にしないでいい。
健康診断を毎日数分でうけられるようなもんだから。
「というわけで私の講義は終わりですが、三つ目の荷運びって?」
「取材クルーの配送と、ついでに傭兵の私生活の録画だとよ。開拓惑星にホロテレビの取材班を送り届けるのがメイン、サブで俺達の日常を撮影する」
「あー、民間の依頼に見せかけた政治家からの奴ですね」
「プロパガンダなんだろうけど、支払いがいいからな。条件も緩くてこっちも助かるから選んだ」
ちなみにこれは普段の素行が試される。
船内が奇麗汚いはもちろんの事、俺達の日頃の行いと言うのががっつりみられてしまうので注意が必要だ。
主にルディが心配だが……特殊なAIと言う事でごり押せば行けるだろう。
「こうして見ると選んだ仕事はどれも傭兵としての信用にかかわるものなんですね」
「そうだな。こっからランク上げるとなるとここでスルーした協調性やらが重要になってくるんだろうけど……正直あまりこだわりないからどうでもいいかなって」
ぶっちゃけ今の段階で遊んで暮らせるだけの金はある。
なんなら豪遊しても孫の代までなら余裕くらいだ。
ただ隠居するのも面白くないし、性分から身体を動かしていたいというのもある。
だから仕事を続けているんだがな。
「ま、なんにせよマザーにルディの事を伝えてから次の仕事にとりかかろう。あとアルマやエルザにもあいさつしないとな」
「ですね」
さて、マザーやエルザが兵器マニアになってないといいが……。