テストフライト
昨日Wi-Fiの調子悪くて更新できなかったので今日代わりに更新です!
しばしの歓談の後、ようやくルディのボディが完成した。
試験飛行をしたいところだけど、こんな宙域じゃ無理だよなとぼやいた瞬間物凄い振動に襲われたのである。
「おいなんだ!」
「ご安心を、マザーがテストフライトに最適な宙域にワープしているだけです」
「……なんでもありだな。でも下手に人目につくとまずいぞ?」
「それもご安心を。未開惑星ばかりの宙域なので宇宙の様子など確認できませんから」
「……まった、宇宙のどこら辺が未開惑星宙域かとか、宇宙に進出できる文明持ってるかとか、進出は無理でも観測はできるレベルとかそういうのまである程度把握しているのか?」
「んー、僕達はある種のネットワークでつながってますからね。宇宙のあちこちに散らばっているからこそそういうのはよくわかります。ただ流石に広大すぎて全部は無理ですね。せいぜい3割です」
それでも相当な脅威だぞ……今この世界の住民が把握している宙域はおよそ2%、その中で安全な航行が可能な図面があるような宙域なんてその中の更に数%でしかない。
それがマジなら相当なアドバンテージというか……ぶっちゃけ勝ち目がない。
確かに質では劣るがそれなりの武装をした集団が、常に安全圏へとワープできる状況でゲリラ戦仕掛けてきたら確実に負ける。
しかもそんな奴らに俺は技術提供しちまったわけだから……控えめに言って大戦犯だよな。
「あ、ちなみに今ワープした宙域ですが観測すらできない木材と石材で獣を狩っているレベルの文明です」
「原始文明ってところか?」
「それが少し微妙なんですよね……生活様式だけで言えば原始的ですが、戦闘に関しては洗練されていると言いますか。罠もある程度使えますし、農業も畜産業もしています。貨幣制度は一部地域では作られていますが、貝や石に数字を記入する形式なので」
数字が存在するってレベルまで至ってるのか……0の概念を発見している時点で知性って言う点じゃ相当だな。
簡単な情報与えたら百年もしないうちに宇宙に出てくるんじゃねえのか?
「あとは20m級の獣を単独で狩猟できるだけの戦闘力があります」
よし、放置しよう。
戦闘民族に技術を与えたらとんでもない事になる。
下手したら新しい侵略国家の完成だ。
もともと銀河法として未開惑星への介入はご法度だからな。
これ以上危ない橋を渡るつもりは無い。
「それじゃあ試運転ですけど、僕がフルスペック出しても?」
「まずは俺が手本を見せるよ。自分の身体かもしれんが、それ以上に知らないパーツや設計があるだろうからな」
要するにアシストだな。
フォームを教えたら走るのが早くなりましたって言うのと同じで、こちらである程度教えてやれば後は自分でもできるだろう。
「あ、メリナ。これエチケット袋」
「……吐くような事、するんですか? というか私も乗らなきゃダメですか?」
「そりゃ俺達の母艦だからな。ホワイトロマノフの中で過ごすにせよどのみちルディの中で待機する時間の方が長い。そう考えたら慣れておいた方がいいぞ」
少なくとも相当な無茶ができる設定になっている。
何なら俺でも制御不能な飛び方できるようにしているけど、その辺はリミッターつけてるからな。
なおそれを解除した状態の全力機動だと俺も吐く。
ナノマシン強化を受けてなお吐く。
「さて、パイロットシートはいい感じだが……やっぱり普通の船とは勝手が違うか」
ルディに乗り込んで操縦かんを握るが違和感がある。
まぁ初めての船にはつきものだけど、俺が乗ってきた船の中じゃ相当癖が強い機体だからな。
「サブシートもいい塩梅ですけど……逆に不安です。ここまでしっかりしたシートが必要なのかなって」
「必要だから組み込んだ」
「……さいですか」
実際必要だった。
Gをある程度受けても身体をしっかり支えてくれるだけのシートに、いざという時はここで寝てもいいようにリクライニング機能もフットレストもオットマンも完備という状況。
普段はフットレストはペダルになるんだけどな。
「んじゃ、30%からいくか」
軽くエンジンを……エンジンでいいのかな? まぁいいや、エンジン吹かして軽く飛んでみる。
うん、意外と癖がない感じだな。
このくらいなら素人でも扱いやすいと思う。
そのまま60%まで出力を上げるが、これもスムーズに行われた。
悪くない、ここまで来ると少し扱いが難しくなるが、それでもベテランなら余裕で乗りこなすだろう。
「よし100%で最大機動するぞ。メリナ、シートベルト」
「とっくに!」
おぉう、60%の段階でシートベルトがっちりして椅子にしがみついてる。
そんな無茶な挙動はしていないんだがな。
「じゃあエチケット袋忘れるなよ。あと舌を噛むなよ」
そう告げてからフルスロットルで加速、からの160度急転身を数回繰り返す。
普通の機体なら途中でぽっきりと船体が折れるレベルだが、変形機構を上手く利用すればこのくらいの挙動はどうにでもなる。
正面が口のように開くからこそ、半分だけ開いてぐりんと閉じる際の支点を変えてというやり方だから他の船じゃ無理だな。
そしてそのままバレルロールや宙がえりなんかもやってみれば割と旋回範囲も狭いということが分かった。
これはいい意味で狭い。
最小規模で相手の背後を取りやすいってことだからな。
「ヴォロロロロロ……」
あ、メリナが吐いた。
「まぁこんな所だ。ルディ、何かつかめたか?」
「こんな動きができるなんて……あ、システムチェック! えーと……全部位特に異常ありません! えと、メリナさんのバイタルが不安定ですが……」
「大丈夫だろ。酔っただけだ」
「じ、じぬ……」
あーあ、美人さんなのにゲロと鼻水と涙ですっごい顔になってる。
……まぁ今回みたいな操縦が必要な場面は早々ないだろうし、ルディのチェックとマザーの最終チェックが終わり次第次の仕事に行くかな。
それにこの船からならマザーやアルマ達にも通信はできるだろうし。
「つーわけで一度帰投するぞ」
「了解ですキャプテン!」
「せっかくだ、マザー本体に着艦するまでルディが操縦してみろ。俺達の事は気にするな」
「ぢょ、まっ……きゃああああああああああああああ!」
「おーすげー」
ルディによる俺の模倣飛行、並びに独自に思いついたであろう飛び方を披露してくれた。
うむ、こりゃすげえや……メリナがグロッキーになってるけどな。