船メイキング
メイキングというのは基本的に物凄く楽しいものだ。
キャラメイクなんかその筆頭だと思うし、実際アナスタシアのキャラを作るのに3時間くらいかけた俺が言うのだから間違いない。
なんならキャラメイクが凝っているゲームの発売日に有給とって、その一日を費やしてキャラメイクしただけという人もいるだろう。
そこまで行けば極端な例ではあるが、戦艦のメイクなんかそりゃもう楽しい以外の言葉が出てこない。
どんな形状がいいか、どんなものをモチーフにするか、そういったプロット段階ですら100を超える想像が出てくる。
そしてその中から泣く泣くではあるが、実用性に乏しいと判断せざるを得なかった物を消していくのだ。
例えば真っ先に削除した戦艦大和をモチーフにした機体。
海上での戦闘で、なおかつ船相手ならば合理性の塊のような形状をしているが宇宙空間ではそうもいかない。
なにせ水上での戦闘をメインとしている以上甲板、つまりは船の上側にしか砲塔がない上に下方も後方も死角となる。
そりゃ下方後方にも武装を追加できるし、側面にも付けてという事はできるがもはや原形をとどめない事になるので美しくない。
いや、動く要塞というならそれはそれでかっこいいかもしれんけど……俺的には無しだな。
続けて却下したのはステルス戦闘機をモチーフにした凧のような形状の鋭利な船。
砲塔などは内側からせり出る形で収納して、普段は高速移動をと考えたがそもそも大気圏外を飛ぶならそこまでフラットな形にする必要はない。
そもそも形状的に大気圏内に降りる場合の事を考えると断熱圧縮やら大気圧やら空気抵抗の影響からボツにせざるを得なかった。
他にも戦闘機型や、箱型といった複雑な形状やドシンプルな形状も却下していき最後に残った候補は三つである。
「さて、どうしたもんかね」
大まかなフォルムを決めたはいいがそこから先が難しい。
形状ごとに特色はあれど、使える武器兵装の数は決まっている。
シールドを装備するのも前提としているのでその分のスペースも必要だし、ホワイトロマノフを収納する際に今後増える可能性のある船やジャンク品、その他採掘した鉱石なんかの置き場所とガレージが干渉しないようにもしなければいけない。
どのフォルムも自室からブリッジやハンガーに直通で行けるような形状にはしているが、それはブリッジの位置を調節すれば大和型だろうが関係ない話だしな。
「えーと、違いが判らないのですが……」
「外見は似たような形に落ち着いたんだが、機能面の問題でな」
そう、フォルムを三つにと言ったが外見はほとんど同じなのだ。
ブリッジの位置を決め、機能美の面から船体の形状を決めると大体似たような形に落ち着く。
ホワイトロマノフは機能美以外にも配信中に視聴者受けしやすいようかっこつけたため一部腐ってる部位もあるのだが、そういった箇所は基本的に生活スペースか収納スペースになっている。
住み心地のいいかっこいい家ともいえるわけだな。
「まずこの一番だが、こいつはハンガーとガレージをわけてある。利点としてはホワイトロマノフの出撃時に干渉しない事。デメリットは常に一か所からしか着艦も出撃もできないから特定方向への射出が難しい」
つまりは木馬型だ。
「でも逆に言えば最初から出撃していること前提だったりすれば問題ないんですよね。それに着艦の際にはオートメーション化も楽です」
「まぁその通りなんだが、二番目はハンガーとガレージを一体化させつつ着艦可能箇所を三つにした。左右と下部だが、利点はどんな方向でも射出できる事。デメリットは着艦個所を増やしたから内部で船の移動をさせることが必要になるため構造上使えるスペースの減少が一番だ」
こっちは足つきとでも呼ばれるフォルム。
「んー、システム周りも複雑になりそうですね。あ、でもアロアニマなら問題ないのか」
ちなみにアウラアストルムも含めて生きてる船=アロアニマと呼ぶようになった。
そもそもその辺のはゲーム内からそのまま拾ってきたものだからな、区分わけに意味がないので統一する事になった。
「最後にこいつなんだが……メリットデメリットが釣り合いつつもメリナには不評だろうなという船だ」
形状は同じながらに映し出されたホログラムでは大胆に機体が変形していく。
人型になる事は無いが、船体が真っ二つに裂けて巨大砲塔やカタパルトが展開されるようになっている。
もちろん他の場所からも出撃できるようにしており、左右側面と下部に方向転換可能な着艦出撃スペースが用意されている。
武装も限界まで乗せたうえで、変形機構を加えたことでシールド装置の隠蔽が楽になっているうえに変形でその位置を変えられるというのは大きい。
一方で船体そのものの頑丈性は失われている。
シールド抜かれたら大抵の兵器が重症、あるいは致命傷になりかねない。
完全な浪漫機体であり、使えるなら強いを地で行くタイプの船だ。
もちろん俺が使いこなせる前提で組んだのだが、メリナや新米であるアロアニマには荷が重いかもしれん。
完熟訓練をしてもいいのだが、ベルセルクからの依頼があと二件残っている以上そこまで時間もかけられない。
いっそノイマンと、アンドロイドのマリア受領して二人に操舵を任せるのもありなのだが……人間じゃないから無茶な挙動も平然とやりそうで俺達の生命がピンチになる可能性だってある。
とはいえ性能はこいつが一番いんだがな。
「やっぱりシステム面が複雑化しそうです……それにこんなの乗りこなせる気しませんよ?」
「そう思うよな。俺でもぎりぎりのラインを責めたから」
「……アナさんがギリギリって、他の人に操縦桿任せられませんよね」
「アロアニマ、ノイマン、マリアが三身一体となれば不可能じゃないと思うぞ。特にマリアは俺の操縦パターンや思考パターンをトレースしているはずだから操舵面ならワンオペでもどうにかできるはずだ」
「それ、中の人や荷物が凄い事になる前提で話してません?」
「家具は固定しなきゃいけないが、そりゃどれ選んでも同じだ」
「あとこの追加武装、なんですかこれ」
「あぁそれか」
機体の後方左右に装備された飛行翼、その先端に砲塔付きのブースターという珍妙な物をつけている。
こいつは俺が知っている装備の中でもなかなか面白い性能をしているが、使いこなせるのはトップランカーだけだった。
「無線誘導式合体兵装っていう物でな、こいつを切り離して射出。敵の死角から攻撃できるんだ」
「……アナさん使えます?」
「二つ同時は難しいな。三つになるともう無理。一つなら余裕で使える。ちなみに最上位の奴は100個同時に操れるからウィザードなんて異名が付けられてたよ」
そのウィザードすらトップクラスであってトップではないんだけどな……魔境すぎるだろとは思う。
というかトップランカーの機体はブレードとライフルだけって言う滅茶苦茶シンプルな兵装なのにウィザードの無線機全部落とすからな。
上位層はおかしいと言われるが、本当におかしいのはチーターがランク荒らししても微動だにしなかったトップ100の連中だ。
なんならトップ1000の人間は入れ替わりこそあれど面子の変化はなかった。
流石にランキング5桁になると新進気鋭とか色々入ってくるから変動も大きかったが、最終的にチーターがレイドボスみたいな扱いになって対戦の順番待ちができてたな。
初日に対処法バレて、対策されて無敵チート使い始めて即日BANされたけど。
「……化け物過ぎません?」
「その化物がトップ300位くらいだった話する? 一番頭おかしい奴マジでバケモンだったから」
「ちなみにアナさんは?」
「俺は8000番台うろちょろしてたよ。もっと実用的というか、無駄を削ぎ落した機体なら7000番台いけただろうけど」
ホワイトロマノフは見た目も浪漫詰め込んでるからな。
無駄な装飾があるから当たり判定がでかく、脆い部位が出てくるため体力に難あり。
一方で火力と攻撃範囲が広いから敵を範囲内に収めたら俺の勝ちってパターンが多かった。
そのために足回りの強化とか滅茶苦茶頑張ったんだが、そのせいでさらに装甲が薄くなってシールドだけは特級のいい奴用意して回避してというのが基本になっていった。
リアルになった今は紙装甲だと怖いので特殊装甲を生成してチマチマとメンテナンスいれながら交換していった。
ほら、あまり他の連中に触らせたいものじゃないしな。
こっち来て初期の頃にトイレの発注とかしてた頃、船の検査とか諸々終えて機材が一通り使えるタイミングで戦艦用3Dプリンターみたいなの使って装甲板作って付け替えて、前まで使ってたやつはレアメタルとして袖の下として使えるようにしてある。
いかんせん電子クレジットが基本の世界だと金銭は足がつくからな。
貴金属で裏取引は常識になっている。
……まぁ今はそのレアメタルもかすむほどの宝の山に囲まれているんだが。
「それよりメリナ。マザーと交渉のために船に戻ってカタログ集め頼む。それと俺が持ってる偵察機ばらしたのあるだろ、あれそのままこいつらにプレゼントしてやれ」
「いいんですか?」
「使いどころに困ってたし、船の中から船が出てきて更に偵察機ってのはマトリョーシカみたいでな」
「まと……?」
「俺の世界にあった民芸品。今度見せてやる」
確か船内のオブジェで置いてたはず。
偵察機はドローンと違って人が乗るものだからかさばるんだよな。
マリア乗せようか考えてたし、ノイマンに操縦させてもいいかなと思ってたけどアウラアストルム蛾手に入るなら不要だ。
偵察も糞もなくなるほどにこいつらは優秀だし、戦闘力も拡張性もあるなら並の船団じゃ相手にならん。
軍隊でも大隊規模なら何とかできそうなくらいだ。
とはいえその際は俺と母艦が分かれて戦闘する事になるがな。
「ノイマン、マザーとネットワーク繋いでこの玉っころの中から使えそうなレアメタル捜してくれ。その量によっては船の形状を変える事になる」
「りょーかい。他になんかある?」
「お前が記録してるデータで娯楽関係全部教えてやれ」
特に意味のある指示じゃないけど、遊び仲間が増えるのは歓迎だからな。
船旅は今も昔も、いざという時以外は暇なもんだ。