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棚ぼた報酬

『失礼しました。少々取り乱しました』


「いや、なげーよ」


 およそ3時間、マザーはカタログを読み漁っていた。

 俺の端末に突っ込んでたの片っ端から見てたし、船にあった予備パーツとかを試供品として出したら速攻で解析始めた。

 その間俺達はポテチ片手にアナログゲームで時間潰す事になったのである。


 端末を使ってるからアナログかどうかはともかく、内容はババ抜きとか麻雀とかだからね。

 ホログラムを疑似モニターとして使ってそれぞれがその手のゲームで時間を潰してたが最後は昼寝だった。


『人間とは面白いものです。儚い命だと思えば私達では想像もできないようなものを作り出す』


「有限だからこそ次を求めるんだよ。そうやって進化するのが命だ」


『……その言い方だと私達が生命体ではないように聞こえますが』


「失言だった。だが進歩のない命ってのは停滞だと思うぞ。それは退化よりよっぽどたちが悪い」


『……退化も進化の形という事ですか。私とて端末の一つに過ぎませんが大いなる母に相談してみる価値がありますね』


 大いなる母ね……こいつらの親玉ってことはユニオンとかいう謎組織の上位種って事だろ。

 そいつらは本当に停滞しているのか、それともアロアニマ達を使って実験をしているのか……そもそもが得体のしれない存在だから生命体なのかも怪しいが。


「それで、こいつの継承はどうなる」


 床で寝息を立てているアルマだが、その周辺は金属にも関わらずクッションのように柔らかく、寝返りをうつたびにふよふよと動いている。

 ……というか寝相がアクロバティックなんだが。

 そのうちヘッドスピンでも始めるんじゃないかって勢いだ。


『既に進めています。今は継承のための眠りについていますので』


「あ、これただの昼寝じゃなかったのか」


 誰からともなく、船をこぎ始めて寝落ちした俺達だったが……ん?


「なぁ、それ俺達巻き込まれたりしてないよな」


『……継承権はありませんが、私からのせめてものお礼を用意しました』


「おーい、言葉濁すな」


『私の子の一人をあなたへ預けます。未知なる者への感謝と、期待です』


 ……妙な事を言うな。


「順番に話せ。最後のから」


『人類とは面白いと理解した私は子をあなたに預ける事で停滞から進化へと期待します』


「うん、その前」


『アルマとエルザをここへ連れてきてくれた感謝と、このような気持ちを抱かせてくれた感謝です』


「もう一個前」


『あなたは既存の人類ではありませんね。データ上は未開惑星出身という事になっていますが、私の知る人類とは違います。我々とコンタクトを取れる者達とは違う、異質な存在です』


 コンタクトを取れる、つまりは宇宙に進出してアロアニマと遭遇するだけの科学力を持っているかどうかってところか?

 それとは違うってのは……まぁばれてるんだな。


「どういうことですか?」


「……メリナ、起きてたのか」


「寝てても外部音声くらい聞き取れます。それにこの身体の大半は人工物、強制覚醒くらい出来ます」


「そっか。まぁ聞いての通り未開惑星出身ってのは半分正解なんだが、もう半分は違うんだ」


「詳しく聞いても?」


 エイリアンを見るような視線、いや違うなこれ。

 新種の魚とか虫を見る視線に近い。

 異質なものを怖がるとかじゃなくて、純粋に好奇心とかそういうプラスの感情だけで見てるんだ。


「どっから説明するべきか……」


「最初からお願いします」


「長くなるぞ」


「彼女のカタログ閲覧待ちよりは楽しい時間だと思いますよ」


 まぁそうなるよなぁ。


「じゃあ……」


 そこから全てを語った。

 目が覚めたらホワイトロマノフにいたこと。

 初めて戦闘をした事。

 俺が男だったことに、こっちに来てから嘘をつき続けてきた事。

 肉体関係を持ったうえで、こっちは今なんの装備もない。

 半分くらいは殺される覚悟で全てを口にした。


「……つまり、ティーン漫画みたいなゲームの世界に迷い込んだと?」


「そういう事だ」


「で、男性」


「うん」


 チャキッと、メリナが腰から下げてたホルスターの銃が金属に触れて音を鳴らす。

 ……こっわ。


「まぁ今は美人さんですしその辺はどうでもいいです。むしろ女性の扱いに慣れてたことに納得しました」


「……いいのか? 結構重要な事じゃね?」


「好いた人に対して重要なのは今と未来だけです。過去はどうでもいいので」


「その過去で無実の人を殺しててもか?」


「アナさんが意味や理由もなくそんな事する人じゃないと知ってますから」


 参った、これはもうお手上げだ。

 惚れた弱みという言葉があるがそれ以上だ。

 恋愛は惚れた方が負けなんて誰が言ったのか、惚れられた方も相応の愛を受け取れば勝てなくなるもんだ。

 ……まぁ俺もメリナの事は愛しているんだが。


「まったく、強い女だな」


「宇宙を飛び回るのならこのくらい当然です!」


 えっ編と胸を張ってみせる。

 うむ、船外服がぴっちり系スーツだからボディラインが奇麗に見えてなかなか……。


「そういう視線は男性そのものですよね。着替えの時とか視線が露骨ですし」


「マジで?」


「マジです。ぶっちゃけいやらしい視線感じます。まぁ悪い気はしませんが」


 ダメだこの女強すぎる。


「あぁ、それよりお礼にって話でしたけど何を貰えるんですか? えっと……マザーでいいんですかね」


『我が子を預けます。あなた方で言うところのアウラアストルムへと成長した個体です』


「は!? マジで!?」


 思わず声が裏返るほど叫んだ。

 アロアニマの好感度を最高まで上げたうえで、エネルギーを大量に喰わせてようやく進化する巨大戦艦。

 サイズ的に母艦としての運用はもちろん、その火力と自己修復性能から反物質を用いた攻撃ですら核をぶち抜かないとどうにもならんっていうチート機体だぞ?


「えと、前にアナさんがなんか言ってましたよね。凄く強い船だとか、アロアニマの先の船だとか……」


「具体的に言うとホワイトロマノフでも真っ向勝負はもちろん、不意打ち含めた単騎戦は絶対に避けたい相手だ。最低でも同型艦10隻並べて反物質砲と反物質ミサイルの飽和攻撃くらいはしないと勝てない」


 中の人間はともかく、あれをぶっ壊すのはそのくらいの火力が必要になる。

 下手に細胞の欠片残しただけで再生するし、酷い時は周囲のデブリやら機体やら取り込んで即座に復活する。

 当然特攻みたいな事したら爆発前に喰われて強化されるし、ただ飛んでるだけでデブリやゴミ喰って成長していく船だ。

 成熟した状態だとマジでホワイトロマノフダース単位で持ってこないと対処できなくなるし、老齢個体となるとコロニー級戦艦とかを何機も並べてようやく同じ土俵に立った状態だ。


『まだ幼い個体ですが、だからこそあなた方が進化させるにふさわしいと思いますよ』


「それは……いろんな意味で助かる」


 成長するって言うのは性能だけじゃなく、サイズとかもなんだよな。

 最低でも母艦として使えるクラス、だいたい1000~3000m級だ。

 ホワイトロマノフがせいぜい長さ18mとかそのくらいで、建物で言うところの3階相当。

 それが何隻も収まるっていうのに老齢個体だと桁が二つ三つ違って当然となってくる。


『少し早産で小ぶりな子ですが、戦闘力の方は保証します。あなたがくれた情報のおかげで最年少にして最新の個体と呼んでいいでしょう』


「……小ぶり?」


『あなた方の寸法で言うなら800mです』


「……小ぶり?」


「アウラアストルムにしちゃ小さいが……」


 納得した俺はともかく、メリナが目をグルグル回しながら首をかしげている。

 まぁ気持ちはわかる。

 でけぇよな、十分。


『ちなみに本人の許可を得て外観はある程度自由が利きます。ただ要望としてかっこいいのがいい、とのことです』


 目の前に突如ホログラムが浮かび上がる。

 ……ゲームで何度も見た船体の設計画面だ。

 そこにアロアニマならではの外殻や、俺が渡したカタログにあったようなモデルがこれでもかと並んでいる。

 いくつかグレーになっているがこれは嫌だという意思表示だろうか。


『では、自由に組み立ててください。あの子も首を長くして待ってますから』


 用意がいいな糞ッ。

 まぁいい、これは棚ぼた……母艦の有無ってのは傭兵生活が大きく変わる。

 それがアロアニマ……もといアウラアストルムだとすればなおさらだ。

 それこそ母艦の自室でくつろいでたらエマージェンシー、そっから滑り台でホワイトロマノフのあるハンガーまで即座に移動して乗り込むくらいできる。

 なによりこの手の危険宙域への立ち入りが楽になるし、操舵の必要もないとなれば言う事なしだ。


「いいだろう。俺が知る限り最強にかっこいい船にしてやる!」


『たのしみ、だそうです』

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― 新着の感想 ―
大丈夫? そのアウラアストルム、触手スーツ着せようとしてこない?
>「いいだろう。俺が知る限り最強にかっこいい船にしてやる!」 >『たのしみ、だそうです』  …………これ、ロマンに走り過ぎて色物になるオチでは?
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