TASさん式ボス戦
しばらく進むと開けた場所に出た。
出たというか連れてこられたというのが正しいのか?
こう、道中壁が勝手に動いて道になったり、広い部屋だと思っていたらエレベーターだったりしたからな。
なお安全性は配慮されていないみたいで、柵無しのめちゃ狭いエレベーターなんかもあった。
アルマ達がもうちょい広くと要望出したらぐにょって変形したのは気持ち悪かったな。
あと子供に甘いのか柵もできてたけど……これ一般人踏み込んだら容赦なくぶっ殺されるな。
「で、後継者争いの詳細はどうでもいいがお前の兄貴は何がしたいんだ?」
「研究費が欲しいだけですよ。もうちょっというなら研究費という名のお金そのもの」
「アロアニマの研究はどうでもよくて金だけ欲しいってことか?」
「端的に言うなら」
……諸に横領だな。
「グスタフとかいう奴はそれに賛同してるのか?」
「賛同とは少し違いますね。彼は兄さんの欲深い所が気に入っているみたいなので、面白そうなら犯罪も関係なしのトラブルメーカーです」
「スクラップにして生まれ変わらせろよそんなん」
思わず漏れた本音だが、顔をしかめたあたり割とタブーに近い事だったのかもしれん。
「グスタフは耐用年数といいますか、いろいろ破損が酷い状態からの再生だったので次はおそらく……」
「そうか、そりゃ悪い事を言った。つーか治せるからって死んでもいいって事は無いもんな」
俺の言葉に少し意外そうな表情を見せる面々。
……メリナまで酷くね?
命とかどうでもよさそうなノイマンすら驚いてるのはもう失笑しか出ないんだが?
「なんだよ」
「いえ……割とポンポン殺してますよね。宇宙海賊も軍人も」
「それが仕事だし、向こうだって武器持って突撃してくるんだから殺される覚悟くらいあるだろ。一方的にってのは大嫌いだし嫌悪すべき物、唾棄すべきものだが対等な立場の末に死人が出るのは……仕方ないとは言いたくないが、そういう事もあると割り切っている」
じゃなきゃこっちが死にかねないからな。
殺しの正当化なんか糞くらえだが、それでも割り切りは必要だ。
「で、この部屋に案内されたってことは継承か? それとも……」
ガコンと音がして壁がせり上がる。
シャッターのように通路の向こう側が見え始め、革靴に白いスーツが見えた。
「やぁ我が妹よ、ひさしぶ」
なんか言ってたので問答無用で胴体があらわになったタイミングで持っていたブラスターをぶっ放した。
完全に開き切ったソレの向こう側では胸に空いた穴を茫然と見つめて、血を吐く男の姿。
多分あれが兄貴だったんだろう。
隣にアロアニマの分体が飛んでいるが、既にロックオンしてあるので回避運動しても無駄である。
「グスタフっていうんだっけか? 死にたくなけりゃ動くな。回避運動も無意味だ」
「OKOK、俺の相方を殺したのはちょいと腹立つけど勝てない喧嘩をするほど馬鹿じゃねえ。こっから一ミリも動かねえし何もしないから、な?」
「OK」
その返答に了解の言葉を返し、そのままブラスターでぶち抜いた。
これで最悪精神崩壊、最低でも記憶と記録を失うわけだ。
「ちょっ、いや兄さんはどうでもいいですけどグスタフは!」
「あいつの言葉は薄っぺらかった。万が一を考えるとそのくらいは必要経費……おわっ」
四方八方からレーザーポインターで照らされた。
動けば撃つ、さっきまで俺が言っていたような状況だ。
「マザー、彼女の言い分を聞いてください!」
「あー、聞こえてるなら話をしてもいいかな?」
赤い点が身体中に散っていたが、それが額に向かった一本だけ残して消える。
とりあえずブラスターやらなんやらの装備を外して、蹴とばして遠方にやり無害であると主張しておこう。
「まずあの男はどうでもいいだろうけど、ここまで邪魔してきてってのがアウトだ。クライアントの意向を邪魔しつつ命まで取ろうとしたので殺した。仮にクライアントが嘘吐きで俺を騙してる悪人だったとしても依頼は正式な物からの発展だった。だから引き受けたわけだし、敵は殺すしかなかった。ここまでは理解してくれるな?」
レーザーポインターが額から胸部へ移動した。
うん、どういう表現だ?
「次にグスタフっていう奴だが同罪って言いきるのは難しい。あいつも自意識はあったわけだが、操舵は中の人間も関わってくるわけだからな。ただ今回みたいに分体でここまで来たってことは本人の意志あり気だ。そんで降参の意を示していたが、それが信用できなかった。ここまで散々邪魔してきた挙句、相方を殺されても飄々としている。信じろという方が難しい。殺す必要があったかと言われるとこいつの安全確保という意味じゃそうするべきだったし……」
メリナに目配せしてやれば一発で理解してくれたのだろう。
倒れた男の頭部をハンドブラスターでぶち抜いた。
……ちょっと不安だったが、スペックだけなら俺以上の数値を叩きだせるボディのメリナなら機銃掃射くらいはどうにかなると信じての物だった。
まぁ杞憂だったんだが。
「こうして確実にとどめを刺しておきたかった」
「……兄さんはアロアニマとのハーフではありませんが、その遺伝子の一部は持ってますからね。なんで気付いたんですか?」
「いや知らん。ダブルタップは基本だろ?」
ダブルタップ、心臓と頭を撃ち抜くことを言うのだが……まぁ確実に殺しました案件だな。
単純に漫画とかなら起き上がって拍手でもしながらなんかやらかしそうだったから撃ってもらっただけなんだけどな。
「というわけでマザー、もし問題ないのであればあの男は焼却してくれるか? アロアニマにしたところであんだけ我欲が強くて手段を択ばない相手ってのは邪魔だろ?」
再びレーザーポインターが額に移動してきたが……ん? さっきまでとなんか違うな。
『貴方の罪を不問としましょう。その代わり死後あなたには私達の子になっていただきたい』
脳内に直接流れ込んでくるような声だった。
優しい声色だが、滅茶苦茶怖い事要求してくるな。
「それ断ったらどうなる」
『確約でなくともいいのです。その意思があるのであれば私と彼の子を預けるのにふさわしい。エルザと共にこの子を守ってくれるのであればそれでいいのです』
「悪いが無理だ。天寿をまっとうしたいからな。ただこっちから提供できない物がないわけじゃない」
『……聞きましょう』
おそらくマザーであろう相手、どこからどんな風にこっちを見ているかは知らんが腕時計型の端末から映像を出す。
ホログラムってやつだな。
「アロアニマは装備を選り好みする。中には自作する奴もいるだろうし、マザーからの支給品を使う奴もいるだろう。だが外の世界にはもっと高性能な装備が同系列で存在する。防御面に関してもそうだ。実際エルザは俺の手持ち装備で自身を強化した。これらの情報を定期的にこいつら経由であんたにやるよ。なんならベルセルクとの取引の仲介を……あー、毎回ってわけにはいかんから初回くらいはやってもいい」
『人が作った兵器が私達の物を超えていると』
「断言するが、お前達の使っているの数世紀遅れの物だぞ。アロアニマって言う特異な存在だからこそ現役と張り合えている、あるいは積極的な戦闘をしていないから問題ないだけだ。実際エルザは一度不時着までしているんだからその辺は理解してほしいな」
少なくとも兵器としては旧式もいい所だろう。
地球で言うところの20式自動小銃が現役の中で、種子島担いでいるようなもんだ。
……まぁ大戦時は弓とクレイモアで戦果上げた外国人がいたって聞いたが、その手の例外は無視しよう。
日本に限ってもその手のやべー戦果の持ち主って結構な数いるしな。
「結局のところ個人芸。カビの生えた装備で現役バリバリの相手にどうにか互角って状態だ。もちろん渡す相手は選んでもらうからマザーの手間は増えるが、正確に難の無い奴相手で人間に敵意もってない奴ならある程度の装備を用意してやってもいいんじゃないか?」
それこそ現役最強の装備をアロアニマ式に改造した物とか。
今普及しているアロアニマ装備だって火力とかは問題ないんだよ。
排熱とかも同様なんだが、とにかく当たらん。
照準系統がガバガバで、それをでかい脳みそ持ってる船が自力演算でどうにかしている状態だ。
シールドを嫌う連中も機動力が落ちるという理由からだが、現行品だとそこまで重くないし、機体の動きに干渉する事は少ない。
高級品ならその辺の問題もクリアしていることが多いしな。
『いいでしょう。ではまずそのデータをこちらへ』
「ノイマン」
俺の呼びかけに返事もせず送信中の文字がホログラムに流れ……。
『え? なにこれすごっ! うわ、これセクシーだしこっちはキュート! 最近の装備ってこんなにいいの!? しかも性能も申し分ないじゃん!』
マザーのキャラが壊れた。
……あぁ、エルザの母だなこりゃ。