鬼が出る?
「気密よし、酸素供給よし、前髪挟んでない、問題ないな」
「私も行かなきゃダメですか……?」
「ホワイトロマノフの方はこいつらが守ってくれるみたいだし、プログラマーとEFがいれば心強いからな」
メリナのぼやきに淡々と返す。
これから墓場もといリサイクル工場で生身で活動するのだが、実際の所メリナはある程度なら生身でも問題ないと言い張り船外服を拒んでいた。
面倒くさいから無理矢理脱がして着せたが、ノイマンは実体があってないようなものだから不要。
そもそも専用の船外服がない。
今着ている服だってハッキングして適当に見繕った物を纏ってるだけだからな。
データ泥棒? それはそう。
「で、アルマはいいとしてエルザだがどうするんだ? ここに置いていくわけじゃないんだろ?」
「こうするわ」
エルザの声が響くと同時に小さなドローンが船体から切り離された。
「こいつは……」
今俺達の周囲には多数のドローンが飛び交っている。
どれもアロアニマであり、ホワイトロマノフを守ると言わんばかりに船の周りで銃口をむき出しにして飛んでいるのだが……一応無重力空間なんだよなここ。
飛んでいるって言うのは不適切かもしれんが。
「子機か?」
「本体同様のスペック持ってるからある意味では分身よ」
「アロアニマってやべえな……あれ、もしかしてアルマも?」
「似たような事は出来ますが、基本的に人間のDNAがメインなので同じ事は無理です。せいぜいが髪型変えるくらいで」
「それはそれで十分凄いぞ?」
地球で似たような事できる人に会った事あるが、あれはあれで人外みたいな存在だったからな。
俺が知り合ったのは飛行機のハイジャックだったけど、その数日後にエッフェル塔傾けてたっけ。
聞いた話だと生身で。
「あと一応ここ空気有りますから気密とか酸素供給はそこまで気にしなくても大丈夫ですよ」
「そうは言うがいざという時の備えは必要だろ? なんかの拍子に外に放り出されるかもしれんし、どっかの馬鹿が爆破するかもしれん。そう考えると出来る限りの準備はしておきたいからな」
がしゃこんと、両手に持った銃器を見せる。
腰にも装備して、太ももと脇にもホルスター用意して合計7丁の銃を持っているのだ。
ついでにナイフも胸元にホルスターでぶら下げている完全武装状態で、船外服もデブリ対策がされた耐衝撃装甲持ちの物だからちょっとやそっとじゃ死なない。
流石に至近距離での爆発とかだと意識は失うかもしれんがな。
「大袈裟ですね……まぁ兄さんとグスタフがいる以上トラブルの可能性は付きまといますし妥当な判断だと思いますけど」
「アロアニマの親玉の腹の中って時点でトラブルなんだが?」
「そうですか? 僕にとっては実家のような安心感ですけど」
ハーフとはいえこいつもこいつで人間じゃないからなぁ。
そういう意味じゃ正しい使い方しているんだろうけど、鉄の壁が脈打つような場所で安心しろというのは無茶な話だ。
今すぐにでも両手のブラスターぶっ放したいくらいだ。
「まぁそれはさておき、ここ扉とか無いけどどうするんだ?」
「向こうから出迎えてくれます」
アルマの言葉に続いて壁の一部がぐにょんと変形して通路に変わった。
……こうして見ると本当に生き物なんだなという感想と同時に、化け物なんだなとも思わせてくれる。
人間が口をあけるのとはまた違う、例えるなら手のひらに穴を作ってそっから獲物を吸収するような感覚に見えるわ。
「この通路の先に継承の場があります。多分兄さん達とはそこで鉢合わせる事になりますけど……」
「アロアニマの方は殺すなって言うんだろ。こんな玩具じゃ殺せないと思うけどな」
「そうでもないわよ? この分身体は私達の全データが入ってて、むしろこっちが本体みたいになってるからその玩具でも十分致命的なの」
「まじか、コアみたいなものか?」
「コアは別に存在するけど、このボディ壊されたら記憶も記録も全部吹っ飛ぶし最悪精神が崩壊するわね」
……なるほど、ゲーム内だとアロアニマを母艦として使うには二種類の方法があった。
特定のクエストをクリアして、一定時間ごとにエネルギーを食われるタイプの船を手に入れる方法。
もう一つは野良アニマを倒して運よく捕獲する方法。
後者はエネルギー吸収をしない代わりに性能が一つ落ちるものだったが、使い勝手は悪くないものだった。
ある程度改造もできたというのもあるけど、スペックガチャだったからな。
あれは……言うなれば今のドローン形態である精神コアみたいなのを破壊した扱いだったのかもしれん。
まぁ謎解きはこのくらいでいいとしてだ。
「うかつには撃てないってことか……けど向こうは撃ってくるよな」
「むしろ積極的にエルザを狙うと思います」
「だよなぁ……しょうがねえ、2人は中央で俺が先頭、メリナは後方を担当。ノイマンは2人の頭上から警戒を続けてくれ」
「了解です」
「りょーかい!」
さてさて、通路を進んでいるがこの先には何が待ち構えているやら。
鬼や蛇なら可愛いもんだろうけどな……。