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エマージェンシー! コードイエロー発令!

「スラスター極小ブラックホールに接触! 急速な加重により船体全体が軋んでます!」


「スラスター切り離し急げ! くっそ、大赤字だ」


 パーツの切り離しはよくある事だが、事今回に至ってはメインスラスターがぶっ壊れたわけだ。

 推力に影響が出るのはもちろん、同じものを用意しようとするとオーダーメイドになるから滅茶苦茶金かかる。

 なにより信用できる整備士がいる場所でこっそりと、というのが重要だ。

 如何せん、こいつは政治家連中も飛びつく機密の塊みたいな機体だからな。


「……船内危険度レベル安定地まで低下。けどスラスターを一つ失った事で今後の操舵に影響が……出てないですね?」


「んー、このくらいなら問題ないように設計してるしな。最悪どっかのスラスターがぶっ壊れて偏った推進方法になったとしても真っ直ぐ飛ばす事はできるぞ」


 主にサブスラスターで軸を固定するわけだが、ちょっと数値ずれただけでコマみたいに回転したり、最悪無重力空間のボールよろしく軸関係なしの大回転ぶっ放す事になるからな。

 そうなったらもう姿勢制御とか言ってられん、自然に止まる事も無いから諦めて自爆しかないだろうな。

 まぁそんな状況になるようなのは敵のど真ん中と決まってるから死ぬまで撃ち続ける事になるが……。


「あーくっそ、この後の事考えるとクライアントから金毟るわけにもいかねえし……自腹かぁ」


「今更オーダーメイドの一つや二つで困るような薄い財布じゃないですよね」


「そりゃそうなんだが、こういうのは経費で何とかなんねえのか? 一応俺個人事業主的な扱いだろ?」


 傭兵ギルド所属の傭兵、肩書だけで言うなら派遣社員と言った所だが、もうちょいアレな言い方するならアルバイトの方が近いかもしれん。

 バックレ上等、裏切り上等なお仕事だしな。

 何なら闇バイトとかそっち系でもあるから。


「税金のシステム上限度がありますからね。それにこれ、仕事中に仕事道具が壊れましたといえなくもないですけど……半分は事故ですから。保険も降りないんじゃないですかね」


「まじかぁ……任意保険はいってたよな」


「あれはそもそも被弾前提の保険ですし、そこまで高額なリターンは来ないはずです」


「……抜けちまうか?」


「そうすると今度は別の方面で大変な目にあいますよ」


 ……泣きそう。

 まぁね、こっちの世界の船ってほとんど扱い車と同じだからね。

 それが宇宙空間を縦横無尽に飛び回っているわけで、うっかり事故起こしたら確実に相手か自分が死ぬわけよ。

 その時に任意保険とか自賠責入ってないと天文学的な金額請求されることもあるから。

 むしろそっちが本命といってもいい。


「大丈夫ですか?」


 アルマからの通信で頭を切り替える。

 後の金より目の前の仕事だ。


「一応は問題ない。戦闘もできるだろうけど……こりゃなんだ?」


 まるで惑星のような、しかし機械と生肉で構成されたような球体が眼前にある。

 不規則に取り込まれたようなアロアニマの集合体とでも呼ぶべきか?

 宇宙空間だからか腐ったりはしていないようだが、できるなら触れたくない物体だ。


「私達の墓場とでもいうべき場所かしら。アロアニマは死ぬとここに転送されるの。それと同時にここで新しく産み出される。だからアロアニマの母数が減る事は無く、けれど増やすにも人の脳みそが必要になる。そういう生き物なのよ」


「……廃棄工場にして生産工場ってことか。リサイクルとはエコだねぇ」


「そうでもないわ。破損が著しいと再生産した際に性能が落ちたり、性格に難のあるのができたりするの。そういう難のある奴は大抵野良になって、宇宙怪獣扱いされるようになるわ」


「あー、野良アニマか。そういや昔何回か相手したな」


 アロアニマ系列の機体の入手法の一つに野良の機体を倒すというのがあるが、それ以上に美味しいレア素材を落としてくれるからよく乱獲されてた。

 確かにあいつら撃墜した時爆散じゃなくて消えるような、ワープみたいなエフェクト出してたな。

 特殊演出だと思っていたがこういう裏クエストがあったのかもしれんと考えると……実体験じゃなくゲームの方やりたくなってきた。

 もう一度キャラメイクして、船を作って、探検して……でもアレ時間が溶けるからなぁ。

 うん、余裕ができたら俺の記憶から情報コピーして再現ゲームでも作ってみるか。


「そんで、ここでどんな継承の義を行うんだ?」


「大したことはしないわ。ほら、スキャンが来るから抵抗しないでね」


 エルザの言う通り、船体スキャンと生体スキャンをされているという情報がモニターに映る。

 普段この手の情報が来るのは犯罪者や賞金首を疑われた時くらいだし、その気になれば抵抗もできるんだが……職質拒否みたいなもんで逆に怪しがられるんだよな。


「特に問題なさそうね。ハッチが開くからそこに入って頂戴」


「ハッチぃ?」


 あの肉と金属塊にか?

 と思っていたらレーダーが妙な物を捕らえた。


「おい、今座標を送ったんだがなんかいたぞ」


「あれは……兄さんの船です! アロアニマのグスタフ、訳アリのアロアニマの一体」


「訳アリ……なんにせよ敵だが、落とさない方がいいんだな?」


「できれば」


「しょうがない、向こうが触手服着ていないなら殺さないように立ち回れるが、そうじゃないならぶっ殺すしかないと思ってくれよ」


「あ、兄さんは別に死んでもいいです。グスタフだけ生きてれば。後次触手服って言ったら……」


 通信の向こうでチャキッという音がしたのでマイクを指で擦る。


「おっとぉ、通信状況が良くないのかなぁ」


 そのままぶちっと切った。

 ふぅ、あぶねえあぶねえ。


「というか兄が死ぬのはどうでもいいのか……こいつもだいぶ人間離れした精神性してやがるな」


「後継者争いしている時点でそのくらいの覚悟してもらってないと困りますが……あそこまで冷淡だと逆に怖いですね」


「だな」


 うん、やっぱり敵に回すのはやめておこう。

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