こんなの戦いじゃないわ!
「ひぃやっほーぅ!」
「あばばばばばば……」
「スペクトル急変動進路上の戦艦撃沈ついでに護衛艦7隻蒸発右舷だと思ってたら左舷で常にローリングとドリフトぶちかましながらとかどういう操縦しているのさ! ほらデータ更新!」
「おせーぞー、そのデータに乗ってるアロアニマはこっちの曲芸に驚いて初動遅れてるから無視。他の連中の動きを常にチェック」
「うがー!」
アルマたちを安全圏に放置して突撃した俺達。
といっても操舵は基本的に俺がやるし、砲術士も俺。
普段ならメリナに電子戦やらを任せているが本人がGに振り回されてゲロぶちまけてるので、周囲の警戒とかレーダー探査はノイマンに任せたのだが……うん、全部おれがやった方が早いわこれ。
まだ慣れてないとはいえラグが3秒以上ってのは宇宙じゃ命取りだからな。
「あーついでにメリナの代わりにジャミングとスモークを指定したタイミングで射出頼む。ジャミングは範囲じゃなくてピン付けした機体だけでいい。それとジャミング代わりに対シールド用ランチャーをアロアニマにぶち込むから弾薬装填頼む」
「忙しすぎるよ!」
「戦場だとこのくらい普通だぞ。むしろ平和なくらいだ」
なにせ相手が混乱してまともな攻撃が飛んでこない。
今俺が敵のど真ん中飛んでいるってのも理由だが、同士討ちを恐れてでかい花火を打ち上げられない状況だな。
主砲も魚雷も使えない、ミサイルも不可となればそりゃ対空機銃くらいしかなくなってくるわけだが、たまーに副砲ぶっ放してくる軽巡洋艦クラスや駆逐艦クラスがいる程度。
戦艦は本当に置物状態だな、あいつらの副砲は並の巡洋艦の主砲クラスの威力あるから。
ちなみに対シールド用ランチャーってのは文字通りなんだが、帯電した弾丸を当ててシールドを飽和させるって代物だ。
まぁ単発だしホーミング性能とか無いから回避は容易なんだが、アロアニマみたいな避ける前提でシールドすかすかの相手にぶち込むとスタンさせることができる。
シールドが飽和して船体がむき出しになった相手にも有効で捕獲の際には重要な武器だな。
まぁ今まで使うタイミングが無かったんだが、この世界の兵器ってのは口径さえ合えばだいたい使えるようになっている。
こいつは規格上この船の副砲に合うものを用意しているが、実はこれ結構なデカさあるからその分ダメージもデカい。
機銃用とか主砲用とかあるけど、流石に戦艦用の主砲サイズはない。
というかそのサイズぶち込んだら吹っ飛ぶから意味がないんだよな。
一番厄介なのはクラスターミサイル形式で爆弾の代わりにこいつが仕込まれているパターンだが、単発でも結構な金額なので普通は使わない。
ましてや海賊が手に入れられるような代物じゃない。
……と、油断するのが悪い癖だな。
「しかし……こいつら随分な下手くそだな」
「そりゃあの距離から戦艦ぶち抜かれたら驚くし、かと思ったら懐で大暴れしてくるような相手はマニュアルに無いと思うよ」
「戦場は生物だからマニュアルなんて開戦前くらいしか意味ないんだがなぁ」
「普通は……こんな……乱戦……ありえないですぅ……」
「おう、いいから水飲め。まだこの後やってもらう事あるから今のうちに休んでろ」
「む、無茶な……」
グロッキーなメリナ。
用意しててよかったエチケット袋。
いや、いざという時の事を考えて色々用意していたんだがここまで派手に踊る事になるとは考えてなくてな。
メリナも俺の操舵に慣れてきたとか自信満々だったからちょっと本気出してみた。
これでも曲芸飛行の部門だとトップ100に入ったこともあるから、それなりにヤバい動きもできるんだが……まぁ船のチューニングを合わせていない分もうちょい下がるか。
なんにせよこれからもうちょっと暴れて、危険宙域とやらに突入するわけだから今は復活とエルザの短距離ワープチャージ待ちみたいな状況なんだが……。
「シートベルトあってよかったなぁ」
「無かったら死んでまうぷっ……」
「飛べないとそうなるよねえ」
全方向へGが常に変動しているジェットコースターだから飛べても意味がないというか、むしろ空中にいる分あちこち叩きつけられそうなものを……。
「というかそんな余裕あるならもうちょい演算頑張ってくれ。それと飛ぶのに必要な演算能力も回してほしいんだが」
「やだ、どこかにしがみついてたらこうなるし」
びしっとノイマンが指差した先ではがっくんがっくんとヘドバン決めてるメリナ。
気絶したわけじゃなさそうだが目が死んだ魚みたいになってる。
出すもん出して、もはや胃液も出ないという事かな。
っと、だったらちょうどいいな。
「よし、そろそろ曲芸は終わりだ。ノイマン、装填は」
「できてるよー」
「じゃあピン付けした船にジャミング、それとイエローサインでピン付けしたアロアニマに向けて撃ってくれ」
「……無茶言わないでくれるかな? こんな常に方角変わるような状況で撃てるわけないじゃん」
マジか、曲芸飛行は飛びながらどんだけ当てられるかも重要なんだが……。
「しゃーねーな、ジャミングだけ頼むわ。射撃はこっちでやるから。あーあー、アルマ、エルザ、こちらが合図したら潰した戦艦の向こう側に短距離ワープしてくれ。生き残りのいる残骸が邪魔で動けないだろうから」
アロアニマを気にしなければ反物質砲で全員消し炭にできた。
焦点を絞ってアロアニマのいる区画を避ける事も出来たんだが、反物質って対象と対消滅するから残骸すら残らねえんだよな。
そうするとぽっかり穴が開くので逃げやすいんだが、一方で相手も追いかけやすいし包囲しやすいって弱点が出てくる。
だから適度に残骸を残すように加減する必要があったわけだが……。
「あ、はい」
「え、えぇ……戦わなくてよかったわね」
「生身ならともかく船じゃ……うん、無理」
内緒話するなら無線を切れと言いたいところだが……おん?
「ノイマン、なんかメッセージ来たが再生してくれ。ついでにどの船から来たか教えてくれ」
「おっけー。あ、船はもう特定済みだからマーカー付けておくね」
ふむ、敵性母艦生命反応多数……なんだ普通の船か。
「こちらはヘパイストス所属の次期当主である。貴君の働きに硝酸を送ると共にこちらに着くのであれば相応の待遇を約束しよう」
……ふざけてるのかな?
こっちが勝ってるってのになんでクライアント裏切らなきゃいけないんだ?
というかそんな事したら傭兵として終わるわボケ。
「ノイマン、3番砲塔にアレ装填」
「え、でもアレって……」
「いいからやれ、今砲塔開けるから」
そのまま対シールド用ランチャーをぶっぱなす。
これで砲塔が空になったし、アロアニマ一隻気絶させることができた。
そして装填された弾丸を目標の船に向けて撃つ。
普通ならシールドに阻まれてしまうはずのそれが、そのまま素通りして船体に突き刺さったという表示が出た。
シールドを抜く方法ってのはいくつかあるが、今回はその技術を無駄遣いして作ったお遊び装備の一つ。
ベルセルクでの新技術開発の際に冗談で言ったら割と真面目に検討された代物だ。
使い捨ての弾薬だが技術の塊で、本来なら内側に殺戮ドローンや殺人ナノマシンを散布するような代物。
あるいは普通に爆発して隔壁に穴をあけるようなもんだが、今回は違う。
俺が打ちこんだのは敵艦の情報伝達システムに介入してAVを流す代物だ。
今回は特別に真冬の夜の淫夢というゲイポルノを流すように設定した悪ふざけの産物を用意したのだが……ベルセルクだと案外「これ敵の混乱狙えるんじゃね?」「シリアスな戦闘中に魔法少女アニメのOP流れるとかいいんじゃないか?」「AV見せるのもありだよな」と謎に盛り上がった。
まぁ最終的には「敵艦に無理矢理映像を送り込める」という点に着目されて正式に試験開始となったんだが、その際に何発かジョーク用に造られたのを貰ったのである。
相手に映像情報を来るってのはつまり、捕虜とかそういうのがどうなっているか教える事もできるからな。
内通をするならマップデータとかも送れるし、割と使い道が多いぞと研究を止めるかどうかの段階まで行ったほどだったが……結局表面上研究中止の水面下でといういつもの流れだった。
「いやー、破廉恥攻撃は古今東西どんな強者にも通じるんだよなぁ」
「……人間の考える事、わからなくなってきたわ」
「あとでネット繋げる環境になったら悪魔について調べて見るといいぞ。たぶん人間が想像できる一番邪悪な化物とか書かれているが、人間の本質が繁栄された存在だと思ってる」
「……知りたいような知りたくないような」
「知識は武器だからな!」
俺の断言にノイマンは数秒沈黙して、眼をちかちかと光らせていた。
……なんの通信してるのお前。
なおメリナは少しだけマシになったけど、まだ気分悪そうだった。
「ほい、突撃再開」
「あぁあああああああああぁあぁぁぁぁ……」
もうちょい荒らしておくかと曲芸再開したら断末魔みたいな声が響いたわ。