戦端
「んー? 何かが飛んできてるわよ?」
その後どうにかこうにか、エルザの修理と装備換装を終えて宇宙に出た俺達。
もちろんアルマはエルザに乗り込んでいるのだが、リアルタイム通信で顔を合わせながらなのでさっきまでとあまり変わりはない。
惑星を出て即座にワープ、目的地近郊に辿り着いたはいいがエルザからの通信でレーダーとセンサーを全開にしたが……妙な電波が飛んでいる事しかわからん。
何かの情報を送信している機器だというのはわかるが。
「映像を回してくれるか」
「りょーかい」
光学映像……というよりはエルザの肉眼だな。
そこから得られた情報を絞り込んで、デジタル補正して、更に拡大と補正をしていけばその姿があらわになった。
「ナイトウィスパー……無人偵察機だな」
「あのー、それって軍用ドローンですよね?」
「そうだ。型落ち品だが軍でも傭兵でも愛好家は多い名機……って言うと語弊があるな。使い勝手のいい装備ってところだ」
メリナの言葉に肯定する。
使い勝手はいいんだが……問題も抱えているんだよなぁ。
「えっと、僕そういうの疎いんですがどういう物ですか?」
「ステルス偵察ドローンって言う分類の武装なんだが、ステルス性能がそこら辺の民間船レベルよりちょっと上程度の物だ」
「……ステルス?」
「センサーとかじゃまず引っかからない。今は短距離戦闘用レーダーで電波受信をかけているからどうにか確認できたが、エルザがいなけりゃこっちの情報が筒抜けになってた」
「でもステルス性は低いって……」
「機体だけなら高いステルス性があるんだよ。ただ電波垂れ流してるから探そうと思えば探せるってだけなんだ。あとサイズが人間大だから見つけるのに手間がかかるし、数が多いから対処も意味がない」
情報送信を常にしているからぶっ壊した段階でどこにいるのか筒抜けになるからな。
それにこいつらの除法取得能力もサイズに比例して限度があるから、そこまで脅威というわけではない。
もちろん武装なんかも持っていないし、サイズがサイズだからシールドに当たれば一瞬で蒸発するような代物だ。
一般的な船……例えば俺のホワイトロマノフはサイズだけなら一軒家レベルで、この世界じゃ軽巡洋艦として扱われる。
母艦とか戦艦って言われるようなものになってくると六本木のビル並のサイズになるがそれは余談だな。
要するに使い捨てなんだよ。
シールドなくてもそんなサイズの物に宇宙速度でぶつかれば爆散は免れない。
その分技術者たちが割り切ってドローンの帰還機能や操縦機能を全部カットして文字通り使い捨てにした事で値段を抑えた。
ミサイル1発分の値段で1ダース買えるような安価な代物だからこそ、型落ちになった今でも生産ラインは稼動している。
「んー、ってことは情報抜かれっぱなしですか?」
「壊しても壊さなくても俺達がどこにいるかって情報だけは筒抜けになると思っておいた方がいいな。もちろんジャミングしても同様だが、対処法がないわけじゃない」
「じゃあ」
「使わないぞ。正直センサーに引っかかってるだけでも数千はあるし、こいつらを避けて通るのは難しい」
目をごまかす程度は難しくないが、そこから離脱となるとまず不可能だ。
周辺宙域の情報を常に送信しているような奴らだ。
それにこの数となればノイマンでも対処は無理というか、こいつら結構アナログな仕様だからデジタル特化のノイマンにはきつい。
情報を電波として送信しているが、性能が低すぎてネットワーク構築とかせず各自が勝手に情報送信しているだけだから……トランシーバーにちかいのかな。
「対処法は使わず、かといってこのまま突っ切るのも問題じゃないんですか?」
「そうでもないぞ。こいつらが発信しているデータを辿れば敵がどこにいるかわかる。その解析はうちにプロがいるからな」
ちらりとノイマンを見るとピシッと敬礼してみせた。
そして数秒でその位置を割り出したのだが……マジか。
「目的地周辺を封鎖するように敵さんが待ち構えている。予想の範囲内だが、数が多いな……それに最悪のケースとして考えていたが混成部隊だ。お前どんだけ嫌われてるんだ?」
「あー、まぁ僕が後継者候補になった理由が理由ですから……重要機密ですし、話すつもりはありませんけど」
「そうか、まぁクライアントのその辺の事情は聞くつもりは無いから安心しろ」
「はい。それよりどうやって対処するんです?」
「それなんだよなぁ……」
驚いたことに敵の中には、これまた型落ちだが戦艦や母艦がいる。
それが意味するところは大火力兵装と戦闘機による飽和攻撃が可能な、火力と物量で押しつぶすタイプのやり方をしてくる相手だ。
これは軍のやり方とも、傭兵のやり方とも違う。
海賊の手口だ。
失念していたというか、その可能性を無視していた俺の落ち度と言われればそれまでなんだが……技術国家連合が宇宙海賊を引き入れるってのは流石に想定できんって。
それにアロアニマだが……こいつらは少し動きというか展開の仕方が妙だ。
一か所に留まっているが、どうにもやる気がなさそうに見える。
奴らの性能ならばらけて広範囲で情報収取が一番なはずなんだがな。
「なぁ、エルザ以外のアロアニマはアルマが後継者として上に立つのは反対なのか?」
「いいえ? 基本的にみんな賛成よ。ただ立場上逆らえない相手もいるって言うだけでね」
じゃなければ不時着じゃなく撃沈されてたわ、なんて軽い調子で答える。
言われてみればその通りなんだが……腑に落ちないな。
「そもそも私達との共存を考えるようなのはヘパイストスでも少数派なの。多数派は監視と管理と研究が目的で、ナノマシンの投与とかで私達の命を握っていると言ってもいいわ。私の場合アルマの先代がそういうの嫌って秘匿していたからそんな処置されなかったけどね。流石に他の駒ではかばいきれなかったんでしょ」
なるほど、しかしこれで活路は見えたかもしれん。
アロアニマたちは積極的に行動しない可能性が高い。
となれば宇宙海賊艦隊を潰す必要もなく、突破口を開けば目的地にたどり着くのは容易いだろう。
戦艦や母艦は潰しておきたいが巡洋艦サイズは無視していい。
だったら話は早い。
「アルマ、エリザ」
「はい」
「なーに?」
「メリナ、ノイマン」
「はい!」
「あいさー」
「吶喊する。敵艦隊中央、敵母艦と護衛に回っている戦艦を撃破後開いた穴に突撃して目的宙域に突入する」
アロアニマの送ってくる情報、それを精査できるような能力がある船と、玉砕覚悟で危険宙域を飛べる戦闘機、こちらの範囲外から狙撃できる戦艦さえ潰してしまえば多少は楽になるだろう。
流石にばらけた位置にいるがこの船とエルザが狙撃していけば数を減らす事は可能だ。
「全機戦闘態勢、システムオールウエポンフリー、シールドリチャージャー準備、目標宙域に突入次第エルザの進路に合わせて航行する。先導を任せるぞ」
「わかったわ。ただ最初の数発だけしか戦闘には参加できないと思ってね」
「問題ない。火力に絞ればこいつは戦艦以上だ。壊滅は無理でも敵陣をボロボロにする程度はできる」
「あの……アロアニマはできれば……」
「データをくれ。まとまった布陣になっているが他の場所にいる可能性もあるからな。それとできるだけ撃墜はしないつもりだが戦場だ。殺さずを確約はできない」
「……わかりました」
逡巡の後アルマは今後の事を考えたのだろう。
自分が上に立った場合と、他の兄弟が上に立った場合、その際にアロアニマがどんな扱いを受けるか考えて犠牲を覚悟したのだ。
言い方は悪いが、宇宙で戦うだけの覚悟を身につけた戦士になったってことだな。
「カウント10で突撃する。閣員準備はいいな」
俺の言葉に各々が返事を返してきた。
さて……久しぶりに本気を出す必要があるかもしれんな。