作戦会議
「で、作戦なんだが……ぶっちゃけた話、そんな大層なもんは無いな」
「乙女にあんな声出させておいてそれですか?」
「知らんよ、エロ衣装来てるのが悪い」
チャキッと触手服からはえた銃口が眉間に押し当てられる。
はははっ、そんなおどし……いや目のハイライトがねえ!
こいつマジだ!
「待て落ち着け、今俺を殺したらお前も死ぬことになるぞ」
「乙女の純情は宇宙より重い」
「わかった! 悪かった! だから落ち着け!」
「まったく、次はありませんよ?」
「おーけー、そっち方面のネタでいじるのはもうやめる」
とりあえずアルマに対してエロネタふるのはやめておこう。
命がいくつあっても足りないからな。
「改めて話を戻すが、アロアニマが向こうにもいるなら対処は容易い。逆にいなくても対処は余裕だ」
「はぁ、だとして何が問題なんですか? 作戦くらいすぐに思いつきそうですが」
「問題はアロアニマと普通の船の混成部隊だ」
懇切丁寧にアルマに状況を教える。
まずアロアニマのみの場合、これは純粋に同機種として扱われるエルザがいるから察知は容易だ。
もちろん向こうもこちらを察知してくるが、アロアニマの弱点として生命体であるという事。
つまりは一般的に出回っている……まぁ地球の物と比べたらそりゃ並外れて高い演算能力を持っているが、この世界における、まぁ宇宙空間での演算能力となるとせいぜいが市販品。
それも宇宙船用ではなく家庭用の中でもちょっとお高い部類程度だ。
うん、この世界のゲーミングPC程度と思ってもらえればいい。
というのを説明したところでアルマは理解したようだ。
「つまりこちらの陽動とかそう言うのに簡単に引っかかると?」
「簡単に引っかかるが準備は簡単じゃないと思っておけ。少なくともメリナが過労死するレベルだ」
「私ですか!?」
「ノイマンがいるからそこまで大変じゃないぞ」
メリナの驚愕の声と、俺の返事にホッとしたようなため息がスピーカーから聞こえてくる。
周辺警戒と、修理中のエリザノイマンコンビの監視は必要だからな。
まだコックピットでモニターとにらめっこだ。
「有体に言えばがちがちに肉体改造した人間が過労死するような事をしなきゃならん。とはいえ内容は教えない方がいいだろうから黙っておく」
「なぜです?」
「俺達の切り札になりえるから」
「なるほど、納得しました」
話が早くて助かる。
いざという時はお前に使うぞという脅しも兼ねているが、それ以上に戦術ってばれたら途端に意味なくなるからな。
「さて次だが」
アロアニマがいない、つまりは普通の船だけで攻めてきた場合。
これに関してはもう何も考える必要はない。
ホワイトロマノフとエルザで長距離狙撃しつつ近づいてきた相手を落とすだけだ。
中距離はこっちの担当になるだろうけど、遠近は双方が対処可能だ。
仮にベルセルクに援助を求めていた場合こうなるだろうなというパターンだが、この手の依頼になってくるとそうそう大物は出てこない。
国からの依頼となれば話は違うだろうが、今回は跡目争いだ。
その手伝いというリスキーな仕事を引き受けるのは名を上げたい奴ら、中堅でくすぶっている銅か銀ランクってところだろう。
その程度なら、よほどのイレギュラーがいなければ師団規模までなら対処できる。
俺が、というよりホワイトロマノフに俺とメリナとノイマンが乗っているという状況。
ゲーム内じゃ基礎中の基礎だったが、シールドすれすれの回避とかができる俺の技量はこっちじゃずば抜けているらしい。
そりゃ命は一つしかないから練習できないよな。
まぁシミュレーターがあるが、あれはどうやっても実機とは違うし。
で、そこにサポート要員のノイマンがいれば俺もエネルギー配分とか気にせず思う存分ぶん回せる。
そしてメリナが電子戦とレーダー確認を行ってくれるが、そこもノイマンのサポートが入るわけだから隙は無い。
極寒の宇宙空間に合わせて機体の温度を下げるような装備、例えばビーム砲の冷却システムの逆流とかを利用した戦い方や、ステルスシップなんて言われるレーダー反射を極端におさえた代わりに一撃離脱を目的とした機体がいたとしても周辺環境との違いから察知しやすい。
つーかそもそも傭兵が使う船じゃないし、そんな冷却システム必要な砲台積んでるような船はいないだろうけどな。
そういう武器ってめっちゃ強い代わりに滅茶苦茶高いんだよ。
それに冷却システムの分重量を取るから身軽な傭兵向きじゃない。
ステルスシップなんかもってのほかで、船団とか組んでる連中でようやく持ち出すようなもんだが調べた限りそのクラスは金以上のランカーしかいないようだ。
そのランカーが参戦するには今回は理由が弱いからまぁ除外してもいいだろう。
「ごり押しですか?」
「ごり押しで何とかなるんだよ。この船とアロアニマが同行するってのがそれだけヤバいってのはすぐにわかる」
最後のパターン、最悪にして一番ありえそうなのがアロアニマと一般的な船の混成部隊。
そもそも装備全般はもちろん内装にすら選り好みするアロアニマの長所ってなにかというと、弱点の裏返しで生命体であるという事。
生き物だからこそ普通の船じゃできないような挙動ができるし、レーダーとかだけじゃなく視力も使っているからステルスとかを見抜きやすい。
一方で演算能力超えるような行動には弱いんだが、それをホワイトロマノフ、あるいは他の船が補った場合どうなるか。
相互に情報共有しつつ随時敵の動きを察知して攻撃する。
宇宙での戦闘はジャミングありきだが、それをものともしない船がアロアニマだ。
ホワイトロマノフはそれをCPUの能力で無理やり突破しているだけで影響は受けている。
つまりアロアニマと戦闘艦の組み合わせってのはある意味で反則みたいなもんだ。
「じゃあ数で負けてる僕たちは……」
「だから一番厄介で、一番ありえるパターンなんだよ。向こうもアロアニマの研究してるならそのくらい気付くだろうしな」
「……嫌味ですか?」
「戦闘職と技術職は別物だろ。比較検証は技術職の仕事かもしれんが、いちいちトップが立ち会ってという事もないだろうしな」
「むぅ……」
「とはいえ付け入るスキはある」
「本当ですか!?」
「あぁ、さっき言ったがこの船だってジャミングを無理やり突破しているだけで多少なりとも影響は受けているんだ。例えばレーダー反応だが、コンマ数秒程度だが遅れが出る」
これ、一瞬じゃねえかと思うけど光速とか亜光速での戦闘だととんでもない誤差になるんだよ。
レーダー反応目がけて撃ちました、外れて当然と言われるくらいには。
「そのコンマ数秒を船乗りは感覚で、あるいは経験で補う。けど情報共有でその誤差が無くなったらどうなる」
宇宙空間での戦闘に置いて時間の桁は変わってくる。
秒は分、分は時間と言ったレベルだ。
マジでそのくらいの感覚でいないとすぐに死ぬからな。
少なくとも銀ランクが出てくればそのくらいの感覚は持ち合わせているだろうし、5年くらい同じ船に乗ってれば経験から偏差射撃が基本になる。
「……誤差の分、間違った方向へ撃ってしまう?」
「そうだ。そして致命的な事にこれを修正しようとしたら今までの経験や感覚を捨てなきゃいけない。そうすると今度は素人射撃で、真っ直ぐこっちをぶち抜こうとする馬鹿正直な射撃しかできなくなる」
「近距離の場合はどうなんです? ブレード当てるのならそこまで難しくないと思いますが」
「その距離に入らせないってのがまずあるとして、仮にそこまで近づいてきたとしても相手は射撃に徹する」
「どうして」
「今までの経験とかが一切役に立たない状態で相手のすぐ側を通り抜けなきゃいけないブレードなんか普通使えない。それはもう特攻と変わらんよ」
「……仮に、それをやってきたとしたら?」
「だからこそその距離に入れないのが前提なんだ。それにやってきたとしてこの船のシールドは並の船の体当たりじゃ貫けない」
そりゃ相当シールドにもダメージ入るが、2機くらいなら耐えられる。
伊達に宇宙空間とか言う小石が銃弾並みの速度ですっ飛んでくる環境を鼻歌交じりに移動できる乗り物じゃないしな。
大抵のデブリなんかは対処できるから質量はそこまで問題じゃない。
問題なのは相手も、弱くてもシールドを展開していた場合だ。
宇宙船のシールド同士が干渉して一瞬飽和状態になったりしたら船体の装甲でダメージを受け止める必要が出てくるわけだが、この船ならそこまででかい穴は開かないだろう。
とはいえ相手の船が爆発したり、やけくそ射撃してきた場合が怖い。
そういう意味で2機が限度だ。
それ以上となると装甲貫通して内部のどっかしらにダメージ受ける。
まぁジェネレーターとかの重要区画は平気だろうけど、通路が一部閉鎖とか、装備保管庫やらが吹っ飛んで悲しい気持ちになる。
「で、エルザの場合見てから回避余裕どころかカウンター決められるだろうから問題ない。だから近接戦で警戒すべきはアロアニマだけと考えていい」
「逆に遠距離戦では一般の船の火力に気をつけるべきと……」
「そういう事だ。その上で作戦を立てるとして何があるよ。向こうは防衛線、こっちはその防衛網を突っ切って、ついでに追いかけてくるであろう猟犬を振り切りながら目的地へ到達するってのが今回の仕事だ」
「むむむ……」
アルマが難しそうに考え始める。
見た目だけなら少年なんだが、こうして見ると髪の艶とかまつ毛とか、顔のパーツからでも女の子だなーって感じがするな。
「欺瞞工作は時間がない、囮作戦はそもそも連絡自体が危ないから却下、援助はない、ならやる事は一つだろ?」
「えっと……もしかしてなんですけど」
「おう、中央突破」
古今東西、少数が目的地にたどり着くため使う手段として一番最初に提案されて、最後の手段になるものだ。
ふふふ、俺の薩摩魂見せてやろうじゃねえか!
……まぁ生まれは群馬なんだけどな。