エンゲージ!
「あ! 救助の方ですね! 助けてください!」
船を降りてすぐに船外服のヘルメットから声が聞こえた。
どうやら救助相手のようだが……。
「助けろとはどういう意味でか確認を取っていいか。音声は録音しているが、船の修繕なのか、それ以外の意味があるのかでこちらの対応も変わるぞ」
「それは……」
「口にしにくい事か?」
何か裏があるのか、と勘繰ってしまうのも致し方のない事だと思うけどね。
アロアニマに乗っているという時点で既にヤバい案件なんで慎重に事を進める。
「えと、とりあえず船内で話す事はできませんか? こちらの船でも、そちらの船でも」
「ふむ……」
どうしたもんかな。
アロアニマは基本的に内部構造も改造は不可能。
つまるところ防犯設備の類も少ないのだが、文字通り生物の体内に入るわけだ。
それが理由で防犯設備がいらないなんてパターンもある。
一方でこちらの船にあげるというのは、情報漏洩のリスクが……いや、まぁいいか。
いざとなったら宇宙遊泳させればいいわけだし。
「こちらの船に乗ってもらおう。その間修理はさせるがいいか?」
「はい、それは問題ないです」
ドローンに乗り移っているノイマンに視線を送ると同時に修理ドローン一行が動き始めた。
同時にアロアニマのハッチが開いて中から人が出てくる。
……んん? いや、まぁ気になるけどそれは後でいいか?
「こっちだ。妙な真似はするなよ?」
「武器は持ってません。体内のナノマシンも今は生存性重視にしているので戦闘は不向きです」
「それはそちらの自称でしかないから信用しろというのは無理だ」
「……そう、ですよね」
「とはいえ、今回のクライアントであることに違いはない。最低限の礼節は持って対応すると約束しよう。ただし妙な動きを見せればすぐに取り押さえるし、必要なら即座に殺す。いいな?」
「は、はい!」
うーむ、驚くほど素直。
普通ここまで言われたら腹を立てると思うんだけどなぁ。
「メリナ、客室までクライアントを連れて行く。収音マイクは常にクライアントとアロアニマに、映像も逐一チェックをいれつつハッキング方面も監視を怠るな」
「了解」
通信をしながら艦内に入ると同時に殺菌してから空気を流し込む。
続けて強い風をふかしてからもう一度空気を抜き、それを何度か繰り返してから空気が入ったというサインのランプが光りメットを取る。
いや、惑星の環境にもよるんだが砂が危ないんだよ。
地球でも月面着陸の際に注意されるらしいんだが、砂が鋭利なガラスを砕いたようになってたりすることがあるから肺に入って内臓傷つけたり、花粉症みたいな症状を慢性的に引き起こす事になる。
一応この世界ではその辺医療ポッドでどうにかできるし、最悪の場合外科治療でなんとかできる。
ある程度までならナノマシンがどうにかしてくれることもあるけど、最初から対策できるならと万全の準備をしておいた。
たまーに放射線量がやばい環境の砂とか、毒性を含んでいるとかあるしな。
「僕もメット外していいですか?」
「あぁ、構わない」
クライアントがそう聞いてきたので注視しながらその動きを見る。
俺のは一般的なぴっちりスーツ+フルフェイスヘルメットみたいな感じの、まぁロボットアニメの主人公が使ってるような感じだけどこいつのは違った。
片手で首元を操作したと思うとバシュッという音と共に首から上の部分が蛇腹状に後方に開いた。
便利だな、いざという時咄嗟に着用できるし、片手で操作できるから武器持ったままでも簡単に外せるのは利点だ。
「えと、自己紹介した方がいいですか?」
「あー、データは貰ってるが詳しくは知らないからな。とはいえ立ち話をさせるつもりは無いから客室で聞く」
「わかりました」
まぁ善意じゃない。
立ち話って一番攻撃しやすい姿勢ってことになるからな。
だから互いに座った状態でってのが一番安全なのだよ。
というわけで、客室に到着すると同時に俺はヘルメットをソファーに置いて、クライアントは対面に座った。
「さて、じゃあまずは自己紹介から。そっから先は詳しく話を聞かせてもらえるかな?」
「あ、はい。僕は工技連の次期当主候補のアルマ・ヘパイストスです」
「……ちょっとたんま。メリナ?」
「声紋、画像検索、生体認証、ナノマシン傾向から間違いないですね。工学技術連合国家ヘパイストス、その当主のお子さんです。ですが……」
「あー、その先は分かってるからいい。むやみにクライアントの事情を知りたくない。ってことで待たせたな。えっと、ヘパイストスって確か連合国家だったよな。その当主ってのはどういう意味だ?」
連合国家というのは基本的に統治制だ。
複数の国家が自国を統治したうえで、他の国へのけん制に手を組んで俺達みんなで一つの国として扱ってもらうぞと言っているような状態である。
一般的な意味合いがどうなのかはともかく、この宇宙ではそういう仕組みとなっているのだ。
「えっと、外の人に理解してもらえるか怪しいんですけど……僕たちは各種部門に分かれて色々な技術の研究をしているんです。国家は建前で、連合を名乗るためにお飾りのトップを用意しているだけで」
「ふむふむ」
「基本的にはヘパイストスで発言権を得るには相応の技術開発なんかを行うことが前提とされていて、僕の父はあの船の専門家でした」
「でしたってことは……」
「あ、いえ、生きてますよ。ただ単に研究を一通り終えて燃え尽き症候群なだけです。今はリゾート惑星で隠居生活しています」
「あ、そうなんだ」
「はい、ただその研究を引き継いだ僕という存在は……」
あ、はい、お約束ね。
かなり発言権を持った人が後継者に丸投げして隠居、その人を今更どうにかしたところで意味はない。
というかリゾートってのは金持ちが来る場所だからな、セキュリティもしっかりしているし、この世界じゃナノマシンで色々決まってくる。
適当な鉄砲玉は使えず、本人が乗り込んでも犯罪は筒抜けになるとなれば……まぁ後継者を消すのが手っ取り早いわけだ。
一つ誤算があったとすれば……。
「あんたの乗っていた船が特別だったから助かったが、何度も死にかけてるんだろ?」
「はい、彼女がいなければ僕は死んでました」
「彼女、ね。その口ぶりだとあの船が何なのかわかっているのか?」
「えと、古い呼び方でアロアニマといって、生物なんですよね。それでユニークな性能をしている……というくらいは」
「半分正解だ。それ以上の事は知らないのか?」
「あの……機密で……」
「そうか、なら無理には聞かないが……はっきり言ってあの船、結構なじゃじゃ馬だと思うぞ」
外から見た感想だがね、とにかく船としてとがりすぎている。
ホワイトロマノフは器用貧乏な船だが、高性能故に万能と見まがう性能をしている。
遠中近電子物理どの戦闘においてもそつなくこなせる。
さすがに尖らせたトップ層には負けるが、使いこなしているかどうかという話で言うなら並大抵の相手が勝てるようにはカスタマイズしていない。
だが一方であの船は中距離での戦闘を完全に捨てた構成をしている。
なんていえばいいんだ?
FPSで言うところのスナイパーライフルとナイフしか持っていないような状態。
ついでに速度特化で紙装甲。
まともな砲撃喰らえば一撃で大破、最悪爆散するだろうなって感じだ。
一応シールドはそれなりっぽいけれど、単騎で生き残るのは無茶としか言いようがない。
白い死神と恐れられたシモ・ヘイヘだってサブマシンガンとスナイパーライフル装備だったのにな……。
「黙って聞いてればあんた、随分ないいようね!」
「外部からハッキング! 嘘、十分注意してたのに……システム一部乗っ取られました! ですが航行は問題ありません! 今すぐに脱出しましょう!」
「待てメリナ、クライアントの一人だ。この程度の無礼は許してやれ。先に銃口向けたのはこっちだし、悪し様に言ったのも俺だからな。だがこれ以上は許容しないぞ」
なぁ、アロアニマ?
育て親である祖母が息を引き取りしばらくダウンしておりました。
今後も連載中、何かのきっかけで更新できない場合はTwitterにてご報告させていただくと思います。
長らくお休みいただきご迷惑をおかけいたしました。
四十九日は4月6日で更新日とは関係ないので更新は続けさせていただきます。
後はお休みいただいていた間に思いついた新作の公開なども続けていけたらと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。
……ところで今年の花粉酷くないですか?