アロアニマ
「おいおい……マジかよ」
骨拾いを依頼され、その現場に直行した俺は硬直した。
宇宙で油断するとか命取りなのは重々承知だが、それでもこれは驚かずにはいられなかった。
「アナスタシアさん?」
「通信開け、先方に救助に来たと伝えろ。受諾信号や何かしらの反応を見せたら着陸、武装展開される可能性もあるが……こっちもウエポンシステムはオールフリーだ」
「了解。なにかあるんですね?」
「ある。ありすぎるといっていい」
ウエポンシステムオールフリー、それはいつでもお前を撃てるぞという意味であり、多少なりともセンサーが動いていればすぐにばれる。
つまりは最大限の警戒であると相手に伝えているのだ。
一方でこれを挑発と受け止める奴もいるから、安易にやるとマジで殺し合いになるので注意が必要だが……今回はどうだろうか。
「先方、信号弾射出。色は……グリーン、ブルー、グリーン」
「敵意無しか」
宇宙空間では視認しにくい色だが、大気圏内だと光学カメラの補正が無くてもよくわかる。
寒色系の色を三発というのは完全降伏を意味する。
もちろんそれを罠にすることもあるけれど、こちらのセンサーは相手の機体のシステムが一切動いていないと証明していた。
逆に言うと水とか食料関係はもちろん、空気すら危ういという状況だというのもわかる。
降り立ったのはベルセルク本星から近い惑星であり、酸素濃度が高い事が特徴だ。
テラフォーミングの途中であり、まだ完全に人間の生存には適していない土地だが空気が無い惑星やガス惑星なんかよりは余程まし、と言った所でありベルセルク破壊作戦の巻き添えで船体にダメージを受けてここに不時着したらしい。
「俺が出る。メリナは常に機体とシステムのチェックを続けてくれ。ノイマン、修理用ドローンでついてきてくれ」
「戦闘用じゃなくていいの?」
「そっちは自前でどうにでもなる。それより問題なのはあの船の方だ」
「そういえば随分と警戒してますね。どんな船なんですか?」
「アロアニマ、俺が知っている限り敵対したら一番面倒な船だ」
「アナスタシアさんの母星の船ですか?」
「いや違う。外来種というべきだ」
「外来種……」
不思議そうに首をかしげているメリナだが、今回救助することになったアロアニマという船はゲームでは珍しく性能が良く手に入りやすいのに愛好家が少ないという問題児だった。
というか性能は当然として見た目もいいんだが……カスタマイズが不可能なのである。
一部の好事家なんかは種類別に分けてコレクションしていたが、それは本当に暇を持て余した連中がやるエンドコンテンツみたいなもんだ。
そしてもう一つ問題がある。
「アロアニマってのは俺のいた惑星の古い言葉で生命を育むという意味だ。外来種って言った通り、あの船は生物なんだよ」
「船が……生物……?」
「どゆことなのさ」
「ノイマンのようなエフ、メリナのような義体、マリアのようなアンドロイド、俺のようなナノマシンが入っているだけの生身、どれもが自我を持っていて生物として認知されているのは言うまでもないな」
まぁ一部じゃエフとアンドロイドは別らしいが……ちなみにマリアの受け取りはまだである。
今回みたいな状況にこそいてほしい存在だったんだがなぁ……修理ついでにデータの引っこ抜きと、各パーツの強化アイデアをなんとなしにポロッと口にしてみたら技術者連中が寄ってたかってマリアで実験始めようとしてな。
別途報酬は用意するし試験運用も頼まれたんだが間に合わなかった。
今回は人命優先だから仕方ないがな。
「あの船も知的生命体が宿っている……と言えばいいのか? いや、正確には知的生命体が自分専用にボディを用意した結果あの形になったというか……あーくそっ! 難しいな!」
「あ、アクセスできた。でもこれって……」
ノイマンが顔をしかめる。
同時に表示された情報にメリナも表情をゆがめた。
「わかるか? あれは船の形をした生き物だ。コアパーツを見ればわかる通りな」
宇宙船を構成するパーツはいくつか存在する。
まず重要なのはジェネレーター、動力炉であり心臓そのもの。
こいつが無ければただのスクラップだ。
次に装甲だが、これは鎧と同じでアロアニマにとっては何でもいい。
ようするに外付けパーツとして唯一カスタムできるポイントだったんだが、それも当人の機嫌と好みで勝手にパージされることもある。
そしてCPU、頭脳だが……あの船は文字通り生物の脳みそを使っている。
誰が作ったのか、誰がそんなものを用意したのか、全てが謎のままであり忌避された船と言ってもいい。
何よりゲーム内の敵対NPCが使っていた船という曰く付きで、名の通り使い続けるとプレイヤー自身のスタミナを吸収していくという特性がある。
これが尽きるとプレイヤーは休眠状態になり、一定時間ログイン不可というとんでもないペナルティを受ける。
ただメリットとしては、この休眠状態中に船の強化が行われ、プレイヤーに対する好感度が上がり徐々に意思疎通が可能になっていくという点があった。
好感度が最高に達するとアロアニマが進化してアウラアストルムという無類の強さを誇る巨大戦艦になり、その艦内では常にアロアニマが生産され続けるようになるのだが……計算上5000時間ほど遊んで進化するかどうかと言った所だ。
当然アウラアストルムなんか持ってるプレイヤーは極少数、育て上げた奴も限られており、そして破壊されると暴走して宇宙怪獣となり暴れだす。
敵対もしたくなければ味方にも欲しくない、そんな糞みたいな船なわけだ。
「随分と趣味の悪い事を……」
「あれ? でもこの脳、人間のとは違うよね。既存の動物と照らし合わせても同系統の物がないよ」
「それも外来種たる由縁だ。あの船を解析した連中曰く、ユニオンと呼ばれる人類の管理者を名乗る連中が用意した物らしい。同系統ではなくとも人間と類似点や共通点は多いはずだ」
「あ、本当だ。前頭葉の発達傾向が似てる。それに小脳の部分にも名残があるし……レビー小体なんかも形状はそっくり」
「逆に言えばそれしかわかっていないんだ。2人ともユニオンに関する情報は持っているか?」
「いえ……ただ正体不明の機影が目撃されるという話はそこかしこで聞きます。とはいえ宇宙は広いですし、どこの国家も敵を抱えていますから」
「そうか……今度その目撃談が多い所を教えてくれ。ノイマンもこいつのシステムを後で解析頼む。特徴的な周波数を常に発していると思うから、修理しながらな」
「了解しました」
「おっけー」
「さて、そんじゃあ行くか」
骨拾いというにはあまりにも面倒くさい仕事になったなぁと思いながらパイロットスーツを着用する。
船外服とは違う、戦闘に耐えられるだけの強度とジェットパック、人間用サイズのシールドなどを兼ね備えた動きやすい装備だ。
武装は最低限にして敵意の少なさを見せる。
……まぁ問題があるとすれば、女アバターだとぴっちりスーツだからスタイルがもろにばれるんだよな。
誰が考えたか、ハイレグに見えるよう透過素材を使ったエロスーツなんかもあるし俺も死蔵しているわけだが……メリナの視線が鋭くなってきた。
うん、あのスーツは見つからないようにしよう。
家庭の事情でR指定の方更新できてません!
まだしばらく書くからちょっと待ってね?
あと更新が止まるようなことがあればTwitter(現X)にて報告させていただきます。