エフ
「電子の妖精ってなんぞや?」
あれこれ一段落ついて、とりあえず惑星ベルセルクの崩壊は阻止された。
暴れまわっていたアンドロイド達も一時活動を休止、その後再起動してレプリカントを攻撃し始め、殲滅が終わったかと思えば養成所にある運動場でコアをパージして完全停止したのである。
そのままの流れで所長やら傭兵やらが各地にある、惑星への攻撃用兵器とかを回収しつつ、俺が捕まえた犯人とその護衛達、あとは客に紛れていた帝国の人間なんかも捕まえた。
おかげで俺達は一時の猶予というか、休息時間を貰う事が出来たのだが……。
「なんて言えばいいんですかね。レプリカントに近いんですけど、もっと曖昧な存在と言いますか……」
「曖昧?」
「はい、レプリカントは肉体を持っているといいますか、生成治療と同じ要領で肉体を作っています。つまりは滅茶苦茶強い洗脳済みの人間と変わらないんです」
生成治療というのはメリナのように肉体の大半を破損した人間が使う治療法の一種だ。
新しく体を作って、そこに無事な臓器と脳味噌を移植するという大胆な方法だが一定以上の年齢になると代謝などの問題で脳や内臓の神経接続が上手くいかないらしく、不老不死には至らない。
改善策を捜して試してのトライ&エラー連発らしいが、ことごとく失敗しているという。
……まぁそんだけ高齢者の実験体がいるという事でもあり、その手の実験体は死刑囚であるというのがまた闇が深いんだが。
「一方で電子の妖精、通称エレクトリカルフェアリー、EFと書いてエフなんて略されたりしますけど彼女たちは肉体を構成していないんです」
「……幽霊みたいなもんか?」
「ある意味では近いです。肉体を持たない代わりに近くにある電子機器を依り代として、電磁波で肉体を形成、ネットワークそのものに意識の本体を置いてコピーを作り続ける独自の進化を遂げたAIです」
「それ、いろいろ問題あるんじゃないか?」
SFで言うところの人類抹殺計画とか考えそうなタイプだ。
特にコピー造り続けるって辺り、どこかでエラー個体が生まれる可能性だってある。
「実際帝国と連合、レッドカラーズやベルセルクといった主要銀河国家全要人が集まり垣根を超えて壮絶な議論が行われました。結果的に帝国とレッドカラーズを除いた銀河国家はその存在を容認、共存の道を選びました」
「それまた」
レッドカラーズはわかる。
あいつら国家名乗っているけど結局のところ根幹は宇宙海賊だから。
なんというか、手に負えない物は手を出さないってやつらなんだよ。
反物質の産出星系ってこともあって国家という形を取れているだけで、実際の所は烏合の衆。
下の奴らに強力な武器が渡らないように厳しい監視体制がとられているらしい。
それを潜り抜けられるエフなんてのは相性最悪だろう。
一方の帝国は合理主義の塊だから、使えるものは何でも使う。
なのにエフの存在を認めなかった理由がよくわからない。
ついでに商業国家やら連合やらはそういった不穏分子を嫌うところがあるから、容認した理由がわからない。
「まず最初のエフ、マザーと呼ばれる存在ですね。彼女が善良というか、極端なまでに平等だったことが原因です」
「平等……あぁ、少しわかった」
極端な平等というのは、なんともわかりやすい言葉だ。
地球じゃ男女平等を掲げる声が多かったが、こうして女の身体になってみるとよくわかる。
実現は無理だ。
なにせ身体の構造が違いすぎる。
同じ生物であっても、その構造の違いから同じ働きをするのは難しい。
それこそメリナみたいな、PCの専門家とか、俺みたいに船を使った個人戦ならともかく群れとして人間を見た場合その差は顕著になる。
じゃあ、それらの垣根を超えて極端な平等というなら何が出てくるか。
答えは簡単で、平等に無価値であるという事。
傲慢な考えだとは思うが、そもそも思考のルーチンからして人間と違うならそれは当然だ。
肉食動物と草食動物が会話が可能になったとして「これからは俺達じゃなくて草を食え」と言ったところで「無茶言うなボケ」と返されるのがおちだ。
「つまり、帝国はその極端なまでの平等、皇帝も平民も等しく無価値という意見に反発。レッドカラーズは言うまでも無し。他国家は逆に対等に接してくれるならまぁいいかと容認したのか?」
「もう少し複雑です。拒否した二つはその通りなんですが、マザーやその子機となるコピー達が私達に牙を向いたら、例えこのホワイトロマノフでも一瞬で爆散します。外部からの攻撃ではなく自爆で」
「……自分たちをデリートしない代わりに、向こうもこちらを攻撃しない。休戦協定か」
「はい、代わりにマザーはスタンドアローンの端末に幽閉されることを許諾。一方で子機を使い、人間社会を知る事を私達は容認。そして最後にマザーの消滅に伴い全てのエフが死滅するコードを埋め込むことで合意に達しました」
「なるほどなぁ……で、それがなんであんな所にいたんだ? つか何ができるんよ」
「あそこにいた理由は不明ですが、調べたらあのガラス瓶はエフ捕獲用のスタンドアローン端末のようなものでした。何ができるかと言えばネットワークに繋がっているならなんでも、とお答えしますね」
なんかファンタジー小説で言うところの妖精捕獲用のアイテムみたいだな。
しかしネットワークに繋がっているならなんでもってのは、マザー抜きでも恐ろしいな。
「ちなみに彼女たちにも人権がありますので、法も適用されます。そしてその法に反した場合は死刑オンリーですね」
あぁ、うん、銀行口座とかいじったら即座にデリートか。
例外はなく、罪の大小も関係なくとなれば……まぁ無茶はしないだろう。
「つまりメリナ以上のハッカーでもあるが、枷もデカいと」
「はい。まぁハッキングは違法じゃないんですし、宇宙戦においてはクラッキングも発砲と同じ行為としてみなされるので海賊行為を行わなければ問題ないですね」
「でもそれも改竄できるよな」
「エフのコードには足跡と呼ばれるものが付随しています。これを取り除こうとするとデリートされる仕組みになっているので、基本的に彼女たちの痕跡は絶対に残るんですよ。その痕跡を消そうにも、また別の痕跡が生まれるので抜け道はないです」
……なんか平然と語ってるけど、それどっかで抜け道できる奴じゃん。
「まぁ理解はしたよ。受け入れるかどうかはともかくとして。で、こいつどうするの?」
「まぁ貰えるなら貰っておいていいんじゃないですかね」
今回の任務、超危険な場面が何度もあったため特別報酬の一つにさっきまでどや顔してハッキングしてたエフの所有権が俺に与えられた。
人権はあるが、基本的に人間との共存を望むという事もありアンドロイド同様こうして人と行動することも多いらしい。
というかアンドロイドの発想がエフの発生から躍進したといってもいいらしく、人工知能の技術向上に一役買ったとかなんとか。
今じゃエフ専用のボディもあるらしいのでそれも追加注文しておくか……せっかくだし最高級品を頼もう。
マリアも、さっきまでの戦闘でボディに傷を負ってメンテナンスというか修理が必要らしいし時間もかかるだろう。
それまでの間少し大人しくしているか。
えふっえふっ(笑い声)
えー本日誕生日です。
というわけでお待たせしました!
ノクターンにてメリナ×アナスタシア同時刻公開です!
うん、同時刻公開だからまだリンク張れないんだ。
後で張るから許して?
https://novel18.syosetu.com/n3485jz/
ちなみに連載形式にして、5話くらい続けます。
その続きはウェブで! もといファンボックスでという形ですが、ちゃんと区切りのいい所まで書くからね!