酷い運営もいたもんだ
「で、そんな包帯グルグルに巻いた状態で操船テストとか正気ですか?」
「このくらいならよくあることだし、実際怪我して船に乗ることも珍しくないだろ。腕怪我しててまともに動かせないから見逃してて言って聞く敵がいるかよ」
試合でぼっこぼこにぶん殴られて顔の形変わったり、腕が折れても実況はしてたからね。
流石にパフォーマンスは落ちるができなくはないのだ。
ゲーム通りに動かせるなら、という前提はあるがそれを知っておきたいというのが本音である。
「そんな正論は求めてません。本当の実力を知りたいから怪我を治してから、あるいは治療用ナノマシンなり治療ポッドなりを使ってからでもいいじゃないですかって言っているんですよ」
ぶっちゃけ包帯を使って治療する意味はない。
なにせこの程度の怪我なら物の数秒で治せるだけの技術力がこの世界にはある。
だけどあえてそれを断って、船に積んでた医療キットを持ってきてもらって手当てをしたのだ。
うん、まさか包帯とかも骨董品扱いとは思わなかったよ。
科学の力ってすげー。
「はぁ、じゃあ適当なのから始めますね」
ゲーセンにあるコックピットタイプのマシンみたいなのに入ると中は何もなかった。
だがしばらくするとホワイトロマノフのシートと同じものが出現、続いてせり上がるようにして操縦桿やペダル、各種計器類にスイッチなどが出てきた。
「あの船がこちらでスタンダードなコックピットと同タイプの物で助かりました。ただやはり何点か違いは見受けられますので、そこも解析対象ですね」
「お手柔らかにな。ちゃんとパーツ揃って元通りの形で返してくれよ?」
「えぇ、それは約束します。ネジの一本でも盗んだ輩は宇宙遊泳の旅ですね」
それ、生身だよな?
もろに死刑宣告じゃねえか、マジで人の命安いなこの世界……。
「では、どうぞ」
合図と共にペダルを踏みこみ操縦桿を手に目的地に突っ込む。
同時にレーダーに反応、数は3だが展開の仕方が少し妙だ。
敵射程と思われる範囲のギリギリ外側からビーム砲で牽制射撃を加えるもこちらに近寄る気配はなく、むしろ逃げようとしているようにも見える。
なるほど、釣り野伏か。
「罠は正面から食いちぎるのも楽しいんだよな」
ペダルを踏んで急加速、同時に怪しいと思った地点に向けて副砲をばらまきつつ敵機とすれ違いざまに船に設置してあるブレードを展開してシールドごと相手を切り裂いた。
これで1機。
「つぎぃ!」
こちらに攻撃しようとする二機の射角をはずれるように動きながらチャージ中の主砲をぶっ放す。
ブレードは奥の手の一つだがこいつで切りつけると大体相手の硬さとかわかるから便利なんだよね。
なので必要最低限のチャージ、エネルギー消費で撃破。
さて、残るは……。
「みーつけた!」
熱源センサーの反応は三つだった。
しかし敵の動きや配置に悪意があったので罠に気づけた。
伏兵、追いかけた俺を囲んで叩くつもりだったんだろうけどそうはいかない、エネルギーをセンサー系に集中させ人工物を探し出した。
デブリでも構わない、さっきの副砲バラマキで怪しそうなポイントに弾をぶち込んでいる。
結果的にまともな形を残しているのはシールドで守られ、装甲でダメージを受け止め、そして最小限の被害でこちらを狙っていた残党だ。
「マルチロックでぇ!」
主砲副砲、その他撃てる物は怪しい個所全てにぶち込んだ。
流石にミサイルは高いから使わないけど、実弾は大した値段じゃないからな。
そして数秒と経たずに爆炎が見えたと思うと映像が途切れコックピット型の球体の中に戻っていた。
ふむ、とりあえず簡単なうちに使えるもの全部試しておこうと思ったが問題なし。
腕の痛みがあっても戦闘に支障はないか。
「あの、えぇ? どうなってるんですか?」
「なにがです?」
「敵を切り裂いたあの攻撃に、わかっていたような伏兵への攻撃、最小限のチャージとか諸々ですよ!」
「えーと、順番に説明しますとね」
今の戦闘を軽く説明したところでメリナだけでなくついてきたおっさん、そして傭兵ギルドの関係者さんも頭を抱え始めた。
なんかおかしいことしたか?
「あのですね、対艦ブレードというのは確かにありますがあそこまでの威力はありません。せいぜいがシールドを剝がした後に使うような武器です」
「ん?」
たしかに安価なブレードならそんなもんだ。
物理的な破壊力と熱量で装甲をぶった切る代物、しかし高級品になればシールドごと相手を切り裂くのも簡単にできる。
「それで相手のおおよその頑丈さをはかるというのはまだいいです。けどなんであんなポンポン主砲副砲その他諸々撃てるんですか! しかも全弾、敵機かデブリに命中させる精度! 普通あり得ません!」
「ありえないって言われてもな。そこはほれ、技術力の方向性の違いとかじゃね?」
「どんな魔境ですかその未開拓惑星!」
どんなと言われてもなぁ……異種格闘技戦になったら必殺の一撃でプロレスするようなところだっただけで死ななければ安いが基本だったから何とも言えん。
俺の周りだけ殺伐としていた可能性もあるけどな。
「そもそも近接武器が当たるような距離に飛び込むというのは特攻と変わりありません! 怖くないんですか!?」
「そりゃ怖いが喧嘩も同じだろ? 相手の懐に入らなきゃ負ける、巨体に押しつぶされる可能性もあるがやらなきゃいけない時はやるだろ」
「明らかにそんなシチュエーションじゃなかったですよね!」
「いや、簡単なうちに試しておこうかなと。これからもっときついシミュレーションはじまるんだろ?」
「……あのですね、傭兵にはランクがあります」
「察するに強さよりも依頼の達成率や丁寧な仕事ができるかどうかってところかな?」
「えぇ、基本的には5段階。錆鉄、鋼鉄、銅、銀、金の五段階です。例外的にギルドに認められ連合国半数以上の後押しによって規則の枠から外れたプラチナというランクもありますがそれは忘れてください」
規則の枠からってことはある程度の自由が許されるってことでいいのかな?
流石に犯罪行為はアウトとしても入港の際に面倒な手続きのいくつかが省略される程度の優遇措置とか。
「今のは最も死亡率の高い銅等級への昇格テストシミュレーションです」
「つまり相手が悪辣な事しかけてくるから対処しなさいって内容?」
何が適当だよ、めっちゃ厄介なシミュレーションじゃねえか!
「そうです! 普通はいつも通りに突っ込んで倒してやったぜと調子に乗ってるところを伏兵に撃たれてドカンですよ!」
「でも勘のいい奴やランクが低くても場数踏んでる奴ならあのくらい見破れるだろ」
「その根拠は?」
「敵の配置、それから牽制射撃に対して逃げの姿勢とっているのにワープで逃げようとはしなかった、明らかに誘ってるだろ」
「それを! 知るための! これなんですよ!」
そうは言うけど……この手のやり方って宇宙海賊の十八番だからなぁ。
整備不良の武器を使い続ければいずれ自爆する、じゃあ直さなきゃとなった時にパーツが無ければどうにもならない。
だったらどうしようかってなると自由貿易が許されてる商人による闇市か、さもなくば適当な傭兵からぶんどるのが手っ取り早い。
ゲーム時代は初心者がよく引っかかって爆散していたわけだが、対処法としてはマルチロックミサイルでまとめてドカンが一番楽だったはずだ。
「そりゃまあ戦闘には慣れてるぞ? 地元での話だがこれでもそれなりに腕が立つと有名だった」
本当にそれなりなんだけどね。
動画再生回数は多いが、実力で言えば上の中。
上澄みと言われるがその中でも下の方という微妙な立ち位置だ。
上の上となってくるともうわけわからんからね、俺の動画が人気だったの見せプだけじゃなく丁寧に解説して各種武装やスキルビルドなんかのアドバイスもしていたからだと自負している。
「貴方でそれなりって……」
「経験としては宇宙怪獣って言えばいいのか? 無機質な生命体なのかなんなのかわからんあれ」
「機械も有機体も関係なく同化して飲み込んでしまう存在の事であれば結晶体と称しています」
「うん、あれの軍勢相手に戦えるメンバーの一人だった。5万くらい倒したところで機体にガタが来て離脱したけど」
オンライン要素もあって、その際にちょちょいと参戦したはいいが割と序盤に一度離脱して、予備の機体で再度出撃したが大した戦果にならず悔しかったの覚えてる。
敵の総数は100万くらいの超大規模戦闘で多くのプレイヤーが参戦、そのうち8割が撃墜されて愛機を失ったというある意味歴史に名を残したイベントだ。
トップが敵の半数削ったって記録はいまだに抜かれてないだろうし、どう考えても頭おかしいがチートとかいっさい使ってないんだよなあれ……。
「参考にならないと思いますが、どうやってですか?」
「大体はさっきと同じ。すれ違いざまにブレード展開してぶった切って、敵の中央でマルチロックして……その時はミサイルも惜しみなくぶっ放した。反応弾もぶっぱなしたが流石に途中で弾ギレしてな」
「それで?」
「仕方ないからブレードだけで戦った。対単騎用の武器じゃ数は稼げないが囮にはなれるから飛び回ってたがエンジンフル回転させてたせいであちこち異常が出て離脱することになったけどな」
「……本当に参考にならないですね」
「うちのエースがその半数潰したうえで発生源ぶっ殺して、その上で無傷で生還したって話する?」
「あの、冗談ですよね?」
「マジな話だよ。こっちの手勢は5割が全損3割が生きてはいるが再出撃できる機体は無し、あいつの活躍が無かったら俺もあの機体もここには存在しなかった」
まぁあの段階で死んでたとしてもゲーム的にはリスポーンしただけだと思うけど、機体は失われてただろう。
ホワイトロマノフはある意味テセウスの船、最初に名付けた初期機体を改造し続けた結果今のとんでも兵器になったのだから。
「……あなたは離脱したといいましたが、3割側の人ですか?」
「ん? あぁ、ホワイトロマノフ……てのが私の船の名前だけどアレはスラスターぶっ壊されて姿勢制御で精いっぱいになったから逃げかえって、修理中に余ってた予備の船で再出撃した。予備と言っても持ってたパーツの寄せ集めにやっすいブレード3本装備しただけの賑やかしだけど囮にはなれたよ」
「本気で言っているならあなた達の頭はどうかしています……」
「いやいや、真面目な話考えてみてくれ。コロニーが一個潰されるのと、ここしかないって母星が潰されるのは重みが違うだろ? そりゃ死に物狂いで敵を殲滅しようとするさ」
大規模イベントの時はそういう設定が用意されてたからね、母星の体力ゲージが無くなる前に敵を殲滅しろという内容だったけど。
たとえ今後のゲームプレイに差し支えるようなことはなるとしてもゲーマーの根性というかなんというか。
いや、どっちかというと狂気か?
みんながみんなエースパイロットの気分で飛び出していって戦果を挙げて帰ってきた。
高得点でイベントを終えれば相応の報酬も貰えたから初心者も飛び出していってたけどな。
宇宙での戦闘が苦手というやつは地上でパワーアーマーやらやべー武器やらで母星を汚染する敵の排除に専念してたし、彼らの活躍が無ければ俺達の奮戦虚しく敵は殲滅できたが母星も死にましたって末路だっただろう。
そっちにも異常者がいて両手にガトリング持って敵陣に突っ込んでいく奴とかいたらしいが。
「逃げ場がなく、次の安住の地を探す時間もなければそのための船を用意する時間もない、そういう状況だったんですか?」
「そうだな。少なくとも人口の99%を失う事になっていたと思う。宇宙を航行できるような船を持っているのはその戦闘に参加した俺達以外だと国のお偉いさん、あとは大手旅行会社くらいだろ」
「それは……なるほど、理解しました」
「似ている話をするなら拠点を1個しか持っていない宇宙海賊の巣にジャミングしながら総攻撃仕掛けた場合全力で反撃してくるだろ? アレと同じと思えばいい」
「あぁ、わかりやすいですね」
「俺等が宇宙海賊側っていうのが微妙な気分だけどな。まぁそんな感じで切羽詰まってたわけで、殲滅戦争みたいなもんだったわけだ。結果的に頭のおかしいエース達の奮戦で被害は最小限、流石に人死にも出たがそこは行政が考える部分で、問題を上げるとすれば生きてはいるが船を失った連中への保証が最低ランクの船を支給されるくらいだったことだな」
「さすがに無尽蔵に、とはいきませんからね。それに船の登録から改造してましたと水増し請求する人もいるでしょうしその扱いは妥当かと」
「それで廃業することになる奴は俺の周りにはいなかったが、その船売り払って隠居生活始めたやつもいたと思う」
正しく言うならゲームをアンインストールして二度とやらないと決めたやつ。
ゲーム会社としては「せっかくだからどでかいイベントやりたいよね!」と言い始めて、プレイヤーも乗り気だった。
しかし蓋を開けてみれば馬鹿じゃねえのという数の敵、防衛戦に加えて地上での対処といったひたすらリアルなあれこれを求められた。
例えばこっちの防衛線を抜けて地球にダイレクトアタック決めた結晶体をパワーアーマー部隊が囲んで叩く、ここまでなら普通のゲームでもあることだがその先が面倒でな。
居住区を失ったNPCのために物資を集めたり、ストレス緩和のためにお使いしたり、怪我人の手当てをしたりと。
交渉スキル持ちや治療スキル持ちが大活躍していたわけだが、結果的にゲームの醍醐味はそこじゃないだろという事で離れたプレイヤーもいた。
宇宙でドンパチやってたプレイヤーもまさかイベントで失った船はそのままロストするとは思っておらず無茶な事をしてドカン、運営の対応にぶちぎれて引退という流れである。
一時期SNSでは大いに荒れたし、俺の動画も滅茶苦茶荒れた。
同時にトッププレイヤーの正体はゲーム会社側の人間じゃないか、お助けNPCじゃないかと騒がれたがそのプレイヤーが名乗り出て、他ゲームでも有名な人だったために事なきを得た。
何故プロゲーマーにならないのか、という問いに対してまだ学生だから勉学を優先したい、将来的には会社に勤めながらというのも考えてはいると学生らしからぬきちんとした将来設計をしている人だった。
……ぶっちゃけ、社会人になってゲームのおかげでスポンサーついたという明日もまともに見えてなかった俺よりしっかりしてて悲しくなったね。
「しかしその規模となると周辺への被害はどうなったんですか?」
「近隣惑星や衛星なんかの一部が同化され、そこから無尽蔵に生み出されるようになる寸前で食い止めた。そりゃもうありったけの反応弾ぶち込んで惑星ぶっ壊したしな」
「その補填は……」
「功績に応じていくら支払うって内容だったから赤字垂れ流したやつもいた。まぁそこまでやらなきゃ全滅してたわけだから致し方なし、名声を得て仕事は増えたらしいけどな」
「なるほど……」
「一応言っておくが私の知ってる範疇だと名声で動く傭兵はいないぞ? 広い宇宙ともなればなおさら、名前が売れたとしてそれは宇宙海賊の恨みを買うと同義であって顧客が増えるとは限らないんだ。そいつは運がよかっただけだよ」
そして大半のイベント参加者は運が悪かった。
なんならゲーム会社もオンライン要素のあるゲームを作ることは多かったが、大掛かりなイベントというのは初めてで加減がわからず他企業への相談もできなかったので運が悪かった。
みんなが運悪く、そして一部が美味しいとこ取りしていっただけである。
世の中と同じような流れだな、成功者の所にほとんどの物を手に入れ、おこぼれを下の奴らが奪い合い、そしてそのおこぼれすら届かない所にある奴らは淘汰されていく。
なんとも悲しい話だ。
「む……」
「傭兵が欲するのは金か、より良い装備、名声は二の次どころか三の次かね。中にはいい女あてがわれた方がいいってやつもいるだろうけど」
「それをあなたが言いますか?」
「あぁ、男はどうしても殴り合いの相手って感じがしてな。好みのタイプとしては同性と答えよう」
ついっとメリナの顎を持ち上げると軽くはたき落とされた。
むぅ、なかなか手ごわい。
「で、次のシミュレーションはどんな状況だ?」
「せっかくなので今の話を再現してみましょうか。単騎で」
「え?」
「大丈夫です、爆散しても死なないしシミュレーターなので母星も無事、船だって傷一つつかず済みますから」
「ちょ、まっやめろぉ!」
俺の懇願の声もむなしくカプセルは閉じられた。
にっこり手を振りながら、しかし爆笑をこらえるように肩を震わせているメリナがやけに鮮明に目に残っていた……やってやろうじゃねえかこの野郎!
なおここで出てくる一撃必殺プロレスや頭のおかしいエースはスターシステムにより他作品からも参上です