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試験

 聴取があらかた終わった、というかほぼお姉さんの独断で終わらせたらそのまま傭兵ギルドへと連れていかれた。

 ただ連れていかれたといっても街中を歩いたわけではなく、取り調べ室がそのまま動いて傭兵ギルドの地下へと連れてこられたのだ。

 これもセキュリティの一環で教育プログラムとやらが完了するまで俺は街を出歩くことはできないらしい。

 その代わりにこの部屋が乗り物代わりとしていきたい場所、もちろん制限はあるがそう言ったところへと運んでくれるらしい。

 ちなみに本来ならば特設居住区という俺みたいなナノマシンを持たない人間を隔離しておく場所に用意した部屋に案内するのが先らしいが特例らしい。

 お偉いさんと相談してもいいといったが、これを独断で実行できるだけのひととは聞いてないぞおっさん……。


「じゃあまずはなにから始めますか?」


「任せるよ。テストみたいなもんだろ? そっちが決めた方がいいだろうしな」


「では早速ですが肉弾戦で」


 おっとぉ、このお姉さんかなり脳みそマッスルだぞ?

 あれはキックボクサーだったかな、業界の鼻つまみ者とされていたバトルジャンキーにして相手をいたぶり壊すのが大好きというやつがいた。

 まだぺーぺーで、ろくなマッチングもさせてもらえなかった時にどうにかセッティングしてもらった試合だ。

 右腕へし折られたが代わりに相手の両足と鼻を潰してやったのを覚えている。

 そいつと同じ、戦いたくて仕方がないという気配が凄いのだ。


「こちらへどうぞ」


「着替えはどうするんだ?」


「肉弾戦なんて不慮の事故に巻き込まれて拳一つで戦うって状況ですよ? 普段着に決まってるじゃないですか」


「私はそうかもしれんよ。だからこの格好でも文句はない。ただあんたはどうなんだ?」


 俺の格好はブラウスとスラックスという割と動きやすい格好ではある。

 しかしお姉さんはスーツ、それもタイトスカートにハイヒールだ。

 どう考えても殴り合いをするには向いていない。


「あまり侮ってもらっては困りますね。私はこれでも星系軍で佐官なんですよ。強化ナノマシンを投与した状態ですら厳しいと感じるトレーニングを日々こなしているのです」


「じゃあ手加減は不要?」


「えぇ、この奇麗な顔を潰すつもりで来てください」


 実際整った顔立ちではあると思うが自分で言うか……?

 ウルフカットの髪形も相まってスポーツ少女と言わんばかりの美貌ではあるが、流石に女性の顔面を叩き潰すのは抵抗があるぞ。

 まぁ試合だというならやるけどさ。


「ではお先にどうぞ」


「襲われる想定なのに私から行くのはどうなんだ?」


「む、それもそうですね……では一撃で終わらないでくださいね?」


 そう言うや否や、お姉さんの姿が消えたと錯覚した。

 拳法の達人とやり合った時、独特な歩法でその手の錯覚を引き起こす相手はいた。

 しかしこれは純粋な速度だ。


「ふっ」


 下から打ち上げるようにして飛んできた拳を上体を逸らして躱す。

 たしかに速いが動きが直線的で助かった。


「はぁ!」


 続けざまに回し蹴り、スカートの奥の白い布地が目の毒だがそれどころじゃねえ!

 当たったら首が捥げかねない一撃を一歩下がって回避、片足というバランスを崩しやすい今がチャンスとそのまま足払いを仕掛ける。


「甘いですね!」


 が、ステップとも思えるような軽いジャンプで躱されると同時に伸ばした足を踏みつけようと足を振り下ろしてくる。

 どこまで本気なんだよこの人!


「おらぁ!」


 当然の反応だが足を引いて躱しつつ、今度は鳩尾目がけてヤクザキックを狙う。

 相手もそうしてほしかったように思えたというのが率直な感想だ。

 不思議な話だが格闘技というのは殴り合いであると同時に対話でもある。

 相手が何を求めるのか、何を狙っているのかというのは言葉にしなくても伝わってくる。

 だからだろうか、その挑発とも思える誘いに乗ってしまった。


「それを待ってました!」


 パシンッと軽い音が響き、足の裏を掴まれた。

 マジかよ……それこそ悶絶させるような威力でぶち込んだのに片手で受け止められるとか。


「ほいっ」


「いっ!」


 足首を回された、合気道と同じで相手の関節をきめることで力に頼らず投げたのだ。

 ……いや? これ力任せに捻じ切ろうとした結果俺が咄嗟に飛んで投げられたって言った方がいいのか?

 どちらにせよ危うく靱帯を痛めるところだった。


「おや、今のをいなしますか。じゃあこれならどうですか?」


 開いていた方の手で足首も掴まれ、そのまま持ち上げられる。

 嘘だろおい、プロレスラーでもそんなことしないぞ!


「どりゃあ!」


 人を投げるという行為はそれなりに技術がいる。

 柔道にせよ合気道にせよ、プロレスの力任せに見えるそれにせよ技術の集大成だ。

 だがこのお姉さんは腕力だけで俺の足を握って地面に叩きつけようとしているのだ。


「くそっ!」


 受け身をとりながら悪態をつく。

 ダメージは軽減できるが皆無ではない、このままだといずれボロ雑巾になるまで振り回されて大怪我をすることになるだろう。

 ならもう腹を決めるしかない。


「ハッ!」


 再び身体を持ち上げられると同時に掴まれている側の膝を曲げる事で高さを調整、そのまま立ち上がる要領で鳩尾、喉元、水月、陣中、一度頭を飛び越えてかかとで延髄と蹴りを見舞う。

 うちの流派でも実戦では禁止されている、文字通りの殺人術だ。

 本当なら両足を使い相手の身体を駆け上がるようにして使う技だが応用編である。

 手加減なんかする余裕もなく全力でぶち込んだ。


「いったぁ」


「いや今のは死んでおけよ人として!」


 だというのにお姉さんは痛がるだけだ。

 一瞬やべっ、殺しちゃったら俺どうなるんだろ、って心配したのに!


「あの程度なら鍛え抜いたこの身体の前では大したことありませんよ。それよりも随分と凶悪な技を使うのですね」


「あんたが言うか? 人間を棒きれみたいに振り回すとかゴリラか?」


「はっはっはっ、あのようなか弱い動物と同列にしないでください。しかしこのくらいにしておいた方がいいでしょう。後に差し支えるでしょうし」


「だな、私もテストがあるしあんたも職務がある。ほどほどで手打ちにしておこうか」


「メリナです」


「ん?」


「私はメリナと言います。あんた、ではありませんよアナスタシアさん?」


「そういや自己紹介とかすっ飛ばしてたな。アナでいいよ、っと、お偉いさんなら敬語を使った方がよろしいでしょうか」


「今更でしょう。それにその口のきき方はあれのせいでもあるのでしょう?」


 ビっとおっさんを指さしたメリナ、まぁ実際その通りではある。

 ペーシング、ラーニング、メゾットと呼び名は多々あるが相手の、あるいは相手の望む通りの言動で危機感を薄れさせる手法だ。

 プロレスラーの睨み合いとかそういうの込みでやってるところあるからね、実際は凄く礼儀正しい人もいるからビビる。


「まぁ実際その通りでな。ついでに言えば礼儀正しい傭兵なんてのは舐められるのが相場と決まっているだろ?」


「それはそうですね。実際軍と共同で仕事をする時も荒っぽい方が多いです」


「だよなぁ、そういう性格じゃなきゃ人殺し稼業なんて揶揄されるような仕事やってられねえもん」


「ではあなたは?」


「ん?」


「ここまでの会話でわかった範囲内ですが、貴方は素晴らしい洞察力を持っています。護身に関しても先程の戦いぶりから並の相手では叶わないでしょう。公的な仕事を紹介することもできるかと思いますが」


「できるとして、それが性に合っているかどうかは別物でしょう。それにナノマシン投与の形跡がなかった女一人がふらりと船に乗ってコロニーに来る、自称未開惑星出身者でどこか信用できないとなればさぞかし窮屈な職場になるだろうなというのも想像に難くない。だったら一人気ままに、好きなように生きて適当に死ぬ人生の方が気楽なんでね」


「それは……そうですが」


「ついでに、その紹介っていうのもほぼコネによるごり押しだろ? 腫れ者扱いされるのがオチだ」


「むぅ……」


 まず間違いなく彼女は俺の後ろ盾になってくれるだろう。

 ただ当然打算もあってのこと、何を考えているかまではわからんがこちらも動きにくくなるような状況は避けたい。

 それに普通に稼ぐよりも手っ取り早く、大金を手に入れる方法があるというならそちらを選んでしまうのが人間のサガである。

 しかもそれが性分に合っていると来れば選ばない理由はない。

 安全ではないが稼げる、実に俺向きである。


「ちなみに無理だと思うが軍もパス、上の命令は絶対なんて場所で本領発揮なんてできんわ」


「これ以上説得しても聞いてくれそうにありませんね。じゃあ次は射撃でもしますか?」


「あいよ、銃は借り物かい? それとも船に積んでた自前の物でいいのかい?」


「両方試してもらいます。ただ弾薬なのですが……」


「ん? あぁ、そうか」


 火薬銃は既に骨董品扱い、実弾銃はレールガンなどの部類が基本で一般的に普及しているのはレーザーガンである。

 となれば、弾薬の補給は今後難しいという事だ。


「マガジン一つ分くらいなら問題ないはずだ。今後使い続けるかどうかもレンタル品見て決めればいいし、高性能品が欲しけりゃ自分で探す。ハンドガンサイズのレールガンなんかあったら欲しいもんだがな」


「無くはないですが……はっきり言ってジョークグッズに近いですよ? 反動が大きすぎてまともに扱えるのは今後護衛になるような、バイオニクスサイバネティクス両方の強化を行っている人くらいです。しかもビームガンよりも精密なので壊れやすく弾もかさばるので」


「そこは試してからだな」


 そういうネタ武器こそ俺の本領発揮でもあるのでね。

 見せプの鬼と言われた俺だ、やってできない事もあるまいて。

 ……そう思っていた時期が俺にもありました。


「手首がぁ……」


 ハンドレールガンぶっ放した結果反動で手首痛めた……。


「だから言ったのに……」


 ちなみにビームガンと火薬式銃はサイズ問わず満点たたき出してギルドの人が驚いてた。

 レールガンも当たったんだけど……リアルでこのネタ武器使うのは無理だわ。


starFieldたのちい!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので~」よりも厳密でシビアな取り調べですね(笑) あちらの場合、神聖帝国がナノマシン無し設定だからこちらのように強制できない点もありますけど。 どちら…
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