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犯人みーつけた

 それからはしばらく義体、ドルグの名義で仕事を続けた。

 メリナの注文したアンドロイドの完成を待ちつつ、相手が尻尾を出すのを待っていたのだ。

 そしてついにその時が来た。


「内部チェックオールグリーン、右スラスター異常無し、左スラスター異常無し、オールウエポン異常無し……か」


 貸し与えられたダンゴムシの中で天を仰ぐ。

 オールグリーン、それは異常無しを意味する言葉だがそれが異常である状況もある。

 比較的初心者が使うダンゴムシは汎用性が高く、装甲が厚い事もあり生存能力にもたけている。

 一方で俺の注文した設計ではイエローサイン、つまるところ支障はないけれど異常は出るような設計になっている。

 もちろん通常稼働時はなんの問題も無いように、そしてそう見えるように偽装していた。

 だが特定条件下ではイエローサインが出る仕組みになっている。

 エンジンを立ち上げて24時間が経過すると必ずイエローになる仕組みだ。

 本来なら動力の、つまりエンジンの出力不足によるシグナルだが今まではそこまで苦戦するような仕事はしてこなかった。

 仮に動力低下中であろうとも問題ない仕事を選んできたというのもあるが、こちらはそれなりに損傷して適度に修繕してもらうという設定だった。


 そんな中で、システム面のチェックという事で長時間船に籠ってという作業を何度か繰り返していたがここにきて異常が発生した。


「釣れたぞ」


 たった一言メッセージを送信する。

 それだけで所長はすぐに動いてくれたのだろう。

 ハンガーにいた全員を拘束し、銃を片手に尋問を始めてくれた。

 もちろん俺も指をくわえて見ているつもりは無い。


「さてさて、まぬけ諸君。今までが上手く行っていたからといって今後もというのはさすがに見通しが甘いと言わざるを得ない。そもそも上手く行っているように見せかけられていただけなんだからな」


 俺も俺とてドルグの姿のまま尋問に立会い、そして挑発してみせた。

 怪しい人物は片っ端から粉をかけていたのだが、単独犯ではないことは所長も知っていたし、そもそもグループでやらなければ船のパーツをすり替えるというのは不可能だ。

 だからこそ多くの伝手を持っておきたいという理由で色々な整備士に点検を頼んだのだが、今回は当たりをひいたらしい。


「誰に頼まれたかとか、そういうのを教えてくれるなら悪いようにはしないけどどうする? 最悪の場合でも僻地への出向くらいになるだけだ」


 ある意味では栄転といえるだろう。

 僻地というのは地球上で言うような仕事が全くない場所ではない。

 宇宙では開拓最前線や、未開拓地域、あるいは戦場の最前線という扱いになる。

 それだけに監視の目は厳しいが仕事量、ひいては入って来る金銭も相当なものになるわけだ。

 チップは命だけど、死ぬくらいで済むなら安いものだろう。

 中には自らの肉体をサイバネティクス強化で宇宙空間においての生存も可能にしてから向かうような猛者もいる。

 それだけ稼ぎがいいともいえるが、同時に命の保証なんかこれっぽっちもない弱肉強食と連帯責任による連鎖的な死がお隣さんな世界ともいえる。


「あぁ、ちなみに誰がバックにいるか吐かなくてもいいぞ。その場合は脳味噌こねくり回して情報引っ張り出すだけだから」


 肉体強化とナノマシン技術の負の側面というか、偶発的に手に入れたあまりよろしくない技術がある。

 脳に電極ぶっさして、後遺症とか考えずに情報引っ張り出す技術というのが確立されているのだ。

 黙秘権はあるが、強制情報開示権もあるというわけだ。


「素直に自白してくれたら……ん?」


 そこまで口にした瞬間だった。

 違和感、そうとしか言いようのない物が襲ってきた。

 それに従ってその正体の胸部と頭部にブラスターをおみまいする。

 もとより防壁ごと相手を吹っ飛ばすために作られたような武器だ。

 人間ならどんな強化をしていようと当たった部位は消し炭になる。

 実際違和感のあった人物の胸には大きな穴が空き、頭部は消し飛んだのだが……。


「間一髪か?」


「の、ようだな」


 小型爆弾の類だろう。

 普通の爆弾にブラスターぶち込めば誘爆するが、体内に仕込んで周囲一帯を吹き飛ばせる威力をとなれば話は変わってくる。

 例えば反物質爆弾なんかは起爆用の装置が無ければ爆弾としての効果は発揮しないため誘爆はしない。

 同じようにプラズマグレネードの類に関しても精密機械の塊みたいな爆弾だから一瞬で消し炭にしてしまえば、爆発こそ抑えられずとも威力を最低限にすることはできる。

 むしろこの手の爆弾は鉛玉でぶち抜いた方が危険で、ブラスターなどの高威力武器で消し飛ばした方が被害は少ない。

 今回なんの爆発も起こらなかったところを見ると反物質だろうか。


「身元は洗えるか?」


「もう終わっている。だがこいつは……」


 歯切れが悪い。

 よほどのことがあるのか、あるいはそもそも『何も無い』のか。


「所長さんは何かにお気づきみたいだが、口にする前に答えた方がいいぞ? 相手はあんたら諸共俺達を殺すつもりで爆弾を仕掛けていた。今なら保護を受けられるかもしれんが、何も言わないならここに放置していく」


 実質的な死刑宣告。

 非協力的だしそれも仕方ないよね。

 口封じに来るか、あるいは放置されるか、まぁ遠隔でもこのハンガーの空気を抜くだけでこいつらは死ぬ。

 それをしなかったという事は、逆に言うならできなかったと考えてもいい。

 可能ならとっととやっているだろう。

 なにせこちらの逃げ道はどこをゴミパーツに替えられたかわからないダンゴムシ一機、難癖付ければ簡単に排除できるだろう。


「は、話すから助けてくれ!」

「俺もだ!」

「子供が生まれたばかりなんだ!」


 保身となると手のひらもよく回るなぁ。

 そりゃみんな金は大好きだけど、死んだらあの世には持っていけないしな。


「利口な判断だ。ここは任せていいか所長」


「構わんが貴様はどうするつもりだ」


「荷物の到着が遅れてご立腹な副官がいてな。昨晩もストレス発散に付き合わされて腰が痛むんだよ。その原因と、カーテンの裏でニヤついている奴の仮面を引っぺがしてもらおうかと思ってな」


「できるのか?」


「内部にいれば引っこ抜けない情報は無いと豪語していたからな。今も暇つぶしとストレス解消におたくのデータ閲覧してるんじゃないかね」


「……聞かなかったことにしておこう」


「そうしてもらえると助かるよ。互いにな」


 そう言って義体から抜け出す。

 すっごい渋い顔してたけど、まぁ機密情報簡単に抜けるよと言われたらそんな表情にもなるわな。


「メリナ、仕事だ。大至急29番ハンガーにいる連中と繋がりのある人間で、ここ最近羽振りがいい奴を捜してくれ。訓練所の教官を中心に頼む」


「随分急ですね。けどこういう時こそ私の出番! もちろんボーナスはもらえますよね?」


「相手は訓練所の所長様だぜ? 義体もアンドロイドボディも融通してくれたリッチマンだ。思う存分吹っ掛けてやればいいさ」


「その言葉を待ってました! 連合もセキュリティガバガバでしたけどベルセルクはもっと穴だらけですからね。ファイアウォールとか言ってる癖にただの火柱で抜け道ばかり、ちょちょいのちょいで……見つけました! 教官歴15年のベテラン、外部との通信を頻繁にしていて羽振りがいい。何人も整備士を紹介していて訓練所でも大人しい立場の人です」


「名前と素性はわかるか?」


「登録データは所長さんの端末に転送済みです。けど改竄のあとが残ってますね、かなり雑ですけど。名前はルイス・ローメン。写真は当てにしない方がいいです。多分なんらかの手術で外見を変えられるようにしてありますねこれ。手術歴が身体強化のみとなっていますけどそれにしては優秀な戦歴ですから」


「草ってやつか」


 ネットスラングで笑いを意味する言葉ではない。

 古くはスパイ、その中でも世代を重ねて周囲に信頼されるように情報を抜き出す人間の事を言う。

 ただ改竄のあとがあるってことは1世で、まだやばい情報は抜かれていないと見るべきだろうか。


「現在地は?」


「ナノマシンチェックをしていますがジャミングされてますね。けど弱い!」


 カタカタとホログラムキーを叩いて楽し気に仕事をこなしてくれる。

 頼もしい反面、俺が逃げ出した時とか怖いなこれ……そんな予定ないけどさ。


「……08番ハンガーの船に乗ったみたいです。帝国行きの客船ですがどうしますか?」


「出港を遅らせることは?」


「無理ですね。10分あればできたんですけど、もう出港まで数分もありません」


「わかった」


 コックピットシートに座りエンジンを立ち上げる。

 全チェック省略、出撃要請も省略。

 ホワイトロマノフのハンガーには誰も立ち入れないようにしているから人的被害を気にする必要はない。


「副砲で門をこじ開けるぞ」


「あいあいさー!」


 さて、ゲームではやっていなかったけど海賊プレイといくか。

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