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裏仕事

 傭兵ギルドで購入した情報を精査すると真っ黒だった。

 一見問題ないが購入履歴は消せない。

 電子マネーでのやり取りが当たり前になった弊害というべきか、この手の情報が軽く抜かれるんだよな。

 一方で不自然な収入こそなかったものの、家財整理という名目で何度か資産扱いできそうな代物が売られている。

 正直なところ証拠として扱うことはできない。

 ただこの教官たちが犯人なのは間違いない。

 問題は実行犯がどこに潜んでいるかわからないという事だ。


 というわけで、所長に頼んで用意してもらった義体と追加で要求した船の出番である。

 義体の扱い方は簡単だったからすぐに分かったが、問題は船の方だった。

 初心者が使うには少し上等な、俺が試験でも使ったダンゴムシと言われるタイプの船。

 フルカスタムしたならともかくほぼプレーン、バニラと言われるタイプのなんのカスタムもしていない機体だから滅茶苦茶扱いにくい。

 まぁ船は高価だから文句は言えないので自腹を切ってカスタムをしてもらい、エンジン回りと武装、それとスラスターの強化を施した。

 結果俺の財布が随分軽くなってしまった……というわけではない。


 いわゆるつけ払いだな。

 俺の財布から妙な支出が出ると怪しまれるし、購入履歴から何を買ったかバレるとまずいという建前で所長に出させた。

 どうせ最後には自分の所に戻ってくる船だと言い聞かせて、所有権は全て所長名義にしようとも持ち掛けたのだがそれは怪しまれるからと却下された。

 結果的に事が終わり次第俺が支払いをして、ぶっちゃけいらない船だからその場で売却手続きを行うという方針になったのである。

 凄い無駄遣いだけど報酬を期待するしかあるまい。


 ともあれこの船を使い新人を装った養成所卒業生という名目で討伐依頼に出撃することにした。

 義体を用いての戦闘であり、俺は部屋で悠々自適に過ごせるのだが多少の問題はある。

 主にリンクと言われる手法で作り物の肉体を操作するのだが、今回用意してもらったのは養成所出身という事もあり年若い少年の身体だ。

 自慢じゃないがアドバイザーやらなんやら使って滅茶苦茶美人に仕立てたアナスタシアのスタイルは最高である。

 すらりと伸びた手脚だけでも芸術品に匹敵するといっても過言じゃないね。

 上背も結構なもんなので少年と比べると随分感覚が変わってくるのだ。

 慣れれば義体を操りながら俺も隣を歩いてとか、何なら模擬戦もできるくらいには使いこなせるらしいが今の俺はそこまで慣れていない。

 船を動かすのにも四苦八苦しながら初心者用のリンク装置を使っている。


 所長が使っていたのはアクセサリー型らしいが、俺が今回使うのはVRシミュレーターと同じコクーンと呼ばれるタイプのカプセル型ベッドみたいなものだ。

 名目上は不評だったシミュレーターをチェックするという事にして部屋に籠っている。

 VRさながらの操作性から優れた技術であることは認めるが、あまりいい気はしないな。


「お、敵発見!」


 今回は養成所出身者が一人前の傭兵としてやっていけるかというミッションを受けた。

 内容はオート操縦の機体数機を相手に戦闘を行うという物。

 難易度はお任せにしたのだが……。


「ちょっ! これ明らかに難易度おかしいだろ!」


 無数に飛び交う弾丸とビーム、時々ミサイル。

 普通に殺す気満々の攻撃だ。

 まさかとは思うが教官共が何かしかけたか? と思ったけどたぶん普通に所長が高難易度にしたんだろう。

 ギルドからは俺の情報を聞いてきたやつがいるという連絡はない。

 つまりまだ暗躍はバレていないと見ていい。

 あるいは暗躍していても関係ないと考えているかだ。

 どちらにせよこちらを舐めている前提の話で、あまり相手を過小評価したくはないんだけど……相手のやり方が雑過ぎてな。

 少なくともそれらしい証拠を残しすぎというか、金稼ぎにしても現物で貰った資産はそのままにしておけばいいのにと思わないでもない。

 情報を見た限り借金があるわけでもなかったし。


「おら! そこだぁ!」


 弾幕を掻い潜りながら第一目標の敵に蹴りを喰らわせる。

 脚がついているダンゴムシならではの戦法だけど、その衝撃で細く短い脚はぽっきり折れてしまう。

 シールド越しの蹴りだから大したダメージも与えられなかったけど目的は別にある。

 さっきまで俺がいた場所目がけて大量の弾丸が飛来し、第一目標を蜂の巣にした。

 こっちの攻撃力が足りないなら相手の力を利用すればいいのだ。


「はい次」


 デブリを足場に飛び回りながら二機目を狙う。

 飛んで跳ねて……宇宙空間での戦闘じゃないなぁとは思うけど後でこのデータを加工して生徒に見せてやりたいな。

 こういう戦法もあるって教材にはなるだろう。

 そのためにも生き残って帰るべきなんだが……よしっ、上手く罠にはまってくれた。

 二機目の機体にしこたまミサイルをぶち込んでどうにか撃破したところで三機目、最後の敵を相手にする状況になったが着地したデブリを蹴り飛ばす。

 するとあら不思議、さっきまで足場にしていたデブリにぶつかりピンボールのようにデブリが飛んで行き最後の機体に直撃した。

 いくら対デブリ用シールドといってもネジとか小石サイズの物をはじくのが基本的な用途だ。

 戦闘中であろうとミサイル一発受け止めるのが精いっぱい、そのミサイルだって着弾した瞬間に爆発する類のものしか持っていないからシールドを貫くことは不可能。

 だが一軒家よりでかい船を上回るサイズの、それこそ小さなビルくらいのサイズのデブリに正面からぶつかればどうなるか。


 爆発四散。

 その四文字で全てを表せる。


「っし、どうにか勝てた……」


 ため息をつきながらベルセルク本星に戻る。

 道中怪しい動きをしている船は無く、レーダーに映る範囲の船は全てトランスポーターを発信していた。

 調べれば大半が非戦闘艦。

 ほとんど遊覧船だな、こりゃ。


 傭兵国家を名乗るだけあって領土内は滅茶苦茶クリーンな状態なのだ。

 賞金首になっているような船は基本的に存在しない。

 基本的には、だけどな。


「本星、こちら養成所出身ドルグ。試験を終えて帰還した。多少のダメージがあるので修理とメンテナンスも頼みたいのでドックに案内頼む」


「こちらベルセルク本星、了解した。72番ドックに案内する。ガイドビーコンはいるか」


「念のため頼む。被弾こそないが機体バランスが崩れているからな」


「了解だ。無事の帰還を喜ばしく思うよ。今後の活躍に期待する」


 通信を終えて一息つく。

 怪しまれた様子は無かったし、養成所の優等生君を演じることはできただろう。

 ビーコンに従って船を着陸させて、そのまま船を降りて状況を説明。


「ってな感じで脚がぶっ壊れた。それと被弾こそしていないけどあちこちぶつけたからシールドと装甲のチェックを頼みたいんだ」


「わかった。他に何か注文はあるか?」


「所長が今回の修繕費は持ってくれるって言ってたからフルメンテナンスしてほしいな。一回の戦闘でどれくらいパーツにダメージはいるか今のうちに知っておきたいんだ」


「はははっ、いい度胸してるな。どやされても知らねえぞ?」


「優等生だったからな。多少の無茶はお説教だけで済むさ」


「ドルグだったか? おめえさん大物になるよ。全メンテだな、任せておきな!」


「宜しくお願い致しますって答えるべきかな。えーと、ニコルさん?」


「かたっ苦しい口調はやめとけよ。傭兵は舐められたらしまいだからな。ちょっとくらい横柄な方がいい。さっきまでだってそうだっただろ?」


「そうか。じゃあ頼んだ」


「おう、任せろ!」


 さて、ニコルという男にメンテを頼んだわけだが……どこまで動くかね。

 今回動けばそれでよし、ダメならしばらく義体を使って活動することになるんだが……それはそれで面倒くさいな。

 何かしら動きを見せてくれることを祈るしかあるまい。


「アナスタシアさーん、アンドロイドボディのモデリングと設定終わりましたよー。見ますかー?」


「おう! 見る見る! 最強のアンドロイドにしたんだろうな?」


「そりゃもう、あらゆる意味で最強ですよ!」


 いやぁ、一仕事した後にはこういうお楽しみって言うのがお約束だよな。

 さてさて、どんなボディになったのやら。

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