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交渉

 その後すぐに部屋を出た俺達だが、別行動をとることにした。

 もとよりメリナは俺に準ずる程度には強いから心配はいらない。

 いざとなれば連合が力業で居場所を見つける事もできるし、ベルセルク相手に強気に出る事もできる。

 更にはやろうと思えば、俺を敵に回すのを覚悟したうえで自爆させることだってできるだろう。

 そういう意味で心配はいらない。

 とはいえ荒事の前面に押し出すつもりは無いので裏方作業だ。


 彼女の得意分野の一つであるデスクワーク。

 それも特にお気に入りであろう生成系のお仕事だ。

 残念ながら俺はキャラメイクというのが非常に下手くそである。

 クリーチャーとかは大得意なのだが、人間で美形を作るというのは非常に難しい。

 故にあらゆるゲームでは初期アバターで挑むことが多く、装備は実用性重視のためまとまりのないものになる事が多かった。

 だがメリナはその辺も得意らしく、VRシミュレーターなどでゲームをする時は滅茶苦茶凝った造りのキャラを用意してきたりしたのである。

 その分野を任せた。


 船でお荷物になっているAIコアを移植するためのボディ、それに最適なアンドロイドのモデリングを頼んだ。

 あらゆる面で最高級品をとオーダーを出したのである。

 戦闘力はもちろんの事、俺達のサポートも船の操舵も、日常生活における細かなあれこれも大抵は任せられるようにしてある。

 戦闘力だけ見れば人間を数値化できるなら俺達より数段強い造りになるはずだが、そこは学習させていかなければ宝の持ち腐れになるという点だけ注意が必要だな。


「さて、と」


 傭兵ギルド、どこにでもあってお手軽にベルセルク国籍を取得できる場所。

 一方で命の保証はなく、傭兵として仕事を重ねても生涯本星に足を踏み入れることができないまま死んでいく奴も多い荒くれ共の集まり。

 当然だがそのギルドの本拠点は本星に置かれており、あらゆるデータがここに集積されている。

 今回のお目当てはそれだ。


「どーも、シルバーのアナスタシアです。遅ればせながら挨拶に来ました」


「確認します……はい、アナスタシアさんですね? 前回の荷物運搬と現在の教員のお仕事に関しての報酬の確認でしょうか」


「そうです。といっても荷物運搬の方がメインですかね。運んだ荷物がどうなってるかも、今の立場上、気になるので」


「なるほど……奥へどうぞ」


「はいよ」


 受付のお姉さんはさすがといった様子だ。

 こちらの意図を組んでくれて、さらには姉妹の護送を荷物運搬と言い換えている。

 厄介者を連れてきたと周囲に知らせたくない、そして同時に周囲からは厄介者と認識されている程度には暴れているという事なのだろう。


「例の姉妹ですが、評判は最低です。一方で戦闘能力だけ見れば大したもの、知識も同様ですが指揮能力は壊滅的です。現在養成所で派閥を作っているようですが、方向性の違いから二つに分かれたようです」


「そんな事してたのか……まぁいい。本題はそいつらじゃない。というかここに連れてきてもらうための方便だしな」


 俺の言葉にお姉さんの表情が険しくなる。

 そっと両手を上げて無害アピールをするが、その間にお姉さんは懐に手を入れていた。

 何かあれば即座に俺を殺す何かを作動させる気なのだろう。

 あるいは普通に銃でも抜くか?


「見ての通り敵意は無い。とりあえず調べてほしい事があってな、3000万出そう」


「そのまま動かず、はっきりと喋ってくださいね」


「OK、盗聴とかされてるのは理解した。その上で言うが、どうにも養成所の教員共が悪事を働いているらしくてな? 犯罪すれすれとはいえ、限りなく黒に近いグレーだ。放置しても問題は無いが病巣となりつつあると思ってくれ」


「そいつらを蹴落とす情報が欲しいと?」


「いんや? そんなもんはいくらでも作れる。欲しいのはそいつらの経歴と、所有資産とその変動、あとはそうだな……たぶんだけど面白い買い物をしたと思うからその流れを探ってほしい」


「………………」


 お姉さんが無言でこちらを見ているが、特に気にするほどの視線じゃない。

 内容が内容だけに戸惑っているといった様子だが、その実態は別にある。

 イヤリングのように見える耳飾りだが、恐らくは通信装置。

 上が何か指示を出しているのだろう。


「わかりました。しかしそれだけの情報に3000万とは随分と稼いでいる様子で。あまり公言されない方がよろしいかと」


「わかっている。とりあえず前金全払いで。その代わり多少のおまけはしてくれよ」


「おまけ、とは?」


「俺を探るやつが出てくるだろうから教えてくれ。誰がとかはどうでもいいが、探ってきたやつが来たら連絡くれればいいさ」


「……ギルドの立場をわきまえているようですね。いいでしょう、その程度であればおまけも許容します」


「助かるよ」


 ギルドには不文律という物がある。

 あらゆる情報の売り買いができるが、誰がその情報を買ったかというのは非公開情報となる。

 一応金を積めばその情報も手に入れられるけれど、それは必要ない。


 今回の一件、大体目星は付いている。

 所長曰く船のパーツを盗んでいるのは内部犯、つまりは本星に腰を据えていられる人物という事になる。

 一方で俺がこっちの世界に来る前から発生していた長期犯罪でもありながらここに至るまで捜査が開始されなかった。

 その証拠に未だに堂々と船のパーツを盗んで売りさばいている奴がいる。

 しかも継続的にとなればどこかで捜査の手が入ったとは考えにくい。

 この辺はニュースを精査すれば大体わかる範疇だ。


 つまりは事件も佳境、今が一番美味しい所であり儲け時となっている。

 じゃあ今そんな凄いパーツ欲しがるのは誰かといえば二つの派閥が出てくる。

 宇宙海賊国家レッドカラーズと帝国だ。


 先の戦闘で俺がめたくそにいじめたからな。

 それなりの打撃を受けたことで宇宙船パーツの需要は右肩上がり。

 ただ調子に乗りすぎて後始末が間に合わなくなっていたと見るべきだ。


 もとより犯罪が公になったのは証言者がいたからであり、物的証拠があってこそ。

 普通破壊された宇宙船のパーツに粗悪品があってもなにもおかしいと思う事は無い。

 しかし不調でどこかのコロニーに立ち寄って調べて貰ったらゴミパーツが入ってましたとなれば、疑いの目はその直前に立ち寄った場所になる。


 おそらくは俺がこっちに来る前の犯罪は奇麗にもみ消されていて、追いかけてようやく怪しい情報が手に入ったという所だろう。

 さもなければあの所長が一発逆転に手を伸ばしたか。

 あの手の人間はここぞという時にギャンブラー気質が出るからな。

 とはいえ、勝っても負けても被害は最小限に済むようになっているとは思うが、両方の可能性を視野に入れておくべきだ。


 なんにせよデータを見ればメリナなら大体の情報は引っこ抜けるだろう。

 そこから先の荒事は俺の出番になるわけだが……あの義体人形の出番だな。

 貰った情報を基に先手必勝といくか。

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