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「で、なんです? あの人形。銀河法違反じゃないんですかね」


「法律なんぞいくらでも抜け道はあるものだ。状況判断はなかなかだったが周囲への警戒がおざなりだったな」


「そりゃまあ最初から高いセキュリティ能力見せつけられてましたからね。伏兵の可能性は低いと思ってましたし、いたとしても狙撃手くらいかなと油断してました」


「悪くないが内部犯というのはいつの世もあるものだ。古い歴史書を読めば独裁者の死は必ず身近な誰かによる暗殺と決まっている。巨大な国家も金で雇われただけの何も知らない人間に崩壊させられることもある。人々を苦しめてきた問題がマスメディアの誤報から解決することもあれば、無知な民を扇動することもあるのだ」


「含蓄のある言葉ですね」


「最近経験したのではないかね?」


 あー、あの偉そうな姉妹を陥れた奴の事かな?

 まぁそっちは金に眼がくらんだ馬鹿がやらかしたことだけど、そういう内部腐敗も国家が消える原因といえるか。

 俺の場合は所属が傭兵ギルド、つまりはベルセルクという事になっているから問題ないけど連合が消えたらメリナの立場は少し危ういな。

 一応自爆装置とか強制終了システムみたいなのは生きているみたいだし、それが誰かの手に渡るとなったら……うん、まぁそれは本当にどうにかしておいた方がいい問題だろうな。

 生殺与奪権を他者が持っているというのはメリナにとっても、仲間である俺にとっても良くない状況だ。


「人はいかようにもコントロールできるし、その方法は多岐にわたるというのであればその通りですね」


「それを理解しているならばいい。さて、本題だが……二つある」


「聞きましょう」


「一つ目だがこの養成所をどう見る」


「糞の山。ここを出たとして傭兵として名を上げることはもちろん、まともに生き残れるとも思えませんね」


「ほう? 理由を聞いても?」


「いくつかありますが、教官と生徒の価値観や時代の違いが大きいです。一昔前の、もう役に立たない知識ばかりを教えて新しい情報は自分で調べるしかない。かといって教官が無駄に権力と発言権を持ちすぎているため生徒は委縮して自主的な活動が難しい。下手な前知識持っていない素人に簡単なレクチャーして船持たせて送り出した方がましです」


「うむ、耳の痛い話だ」


 そうは言うが所長は面白そうに聞いている。

 一方でメリナは緊張からか出されたお茶の入ったカップを握ったまま硬直している。


「それに加えて養成所そのものの閉鎖性が問題です。外から来た人間……と言うと語弊がありますね。外部から招かれた者は徹底的に見下し、排除しようとしている節があります。恐らくは今の地位を脅かされないようにしたい教官関連中の入れ知恵でしょう。初日で銃を向けられたりグレネードぶん投げられそうになったりと散々でした。ただそのくらいの反骨心と警戒心は評価します。それで逃げ出すような教官はいらないでしょう?」


「その通りだ。問題は今の地位に固執している教官たちが首謀者でありながら、無駄に知恵が回るせいで排除が困難であるという事だな。おかげで外部から貴様を呼ぶにもなかなか難儀したものだ」


「はっ、そりゃあんたの職務怠慢が原因でしょう。そんな奴らをのさばらせている時点で役職降りたらどうです?」


 挑発してみる。

 が、所長はもちろん護衛としてそばに立っているアンドロイドたちも動かない。

 見た目は普通の人間だがボトムアップ型AIという、要するに人間と同様に学習して進化していくタイプのAIを搭載している。

 SF映画とかで人類滅ぼそうとするのは大体この手のタイプだな。

 2000年代頃に作られてた対話用AIとかはトップダウン型と言われて、もともと持っている情報と命令以外のことはできないものだ。

 ゲームで例えるならボトムアップはプレイヤーで、トップダウンはNPCだ。


 ちなみに文書や楽曲、イラストなどを作り出す生成AIはそもそもAIじゃない。

 そういうプログラムであり、AIとして確立されたのは法整備が追い付いてから何十年かして独自に学習して新しい作品を作れるようになってからだ。

 その際にAIによる著作権問題の第二次大論争が勃発したらしいが俺の生まれる前だな。


 そういや俺の船で荷物になってる人工知能どうしよう……ボディさえ用意できればいいんだが、この際最高級品でも用意するか?

 俺とメリナがいる時点である程度の戦闘はできるんだが、生身で宇宙空間に出て戦えるというのはでかいからな。

 それにパーツの状態で余らせてる戦闘機をそのままにするのも勿体ないし、かといって俺やメリナが乗るには危険すぎる代物だ。

 ……いっちょ吹っ掛けてみるか。


「もし二つ目の相談がそんな教官共をどうにかしたいというのなら協力はしますよ。ただ確実に排除できるとは言えませんし、継続するならそれはあんたの仕事だ。そして対価も貰わなきゃいけない。その辺りは理解していますか?」


「ふむ、挑発して様子を伺いつつ要求を突きつける。荒っぽい交渉だな? だが気に入った。傭兵とはそういう存在でなければいけない。故にそれを三つ目の話としよう」


「……二つ目は別の話という事で?」


「うむ、未開惑星出身であり身元を連合によって調べ上げられナノマシンの痕跡も無かったという記録。一方で相応の腕前を誇る貴様は今回の一件に無関係だと思い仕事を頼もうと思ってな」


「……内部犯ってそういうことですか?」


「そうだ。わかりやすいだろう?」


 要するにだ、この養成所。

 あるいはベルセルク本星で何かしらのトラブルが発生している。

 それも内部からの手引きなり、工作なりがあっての物だ。

 さっきのをパフォーマンスとしてその解決を手伝えと言いたいのだろう。


「詳しく聞きましょう」


「教官をしながら連続窃盗事件の解決を手伝ってほしい。これはベルセルク本星における最重要ミッションであり、失敗は許されない。盗まれているのは傭兵や生徒が使う機体のパーツ、粗悪品と入れ替えられておりアラートなどは作動していなかった」


「メリナ」


「大丈夫です。ホワイトロマノフは常に私の方でモニターしているので」


「こちらでも貴様らの船は常に歩哨を立てて見張らせている。何も知らない外部教官として事件解決の糸口、犯人確保、あるいは何かしらの情報を掴んでほしい。それに応じて金銭は用意しよう」


 条件があいまいな仕事は受けるな、とさっき生徒たちに教えたばかりなんだが……これは受けた方がいいタイプの仕事だな。

 既に俺達の母艦が人質になっているに等しい。

 それをむげに断ればどうなるかわかったものではない。

 ……こういうのも生徒に教えるべきだろうけれど、問題の犯人をどうにかしてからの方がよさそうだ。


「降参です。その仕事引き受けますよ。ついでに仕事と金に齧りついて離れない教官の追い出しも受けますが、こちらが指定した通りのアンドロイドボディをいくつか用意していただきたい。それからさっきの人形、別の物でも構わないんで貸してもらいたい」


「銀河法がどうのと言っていなかったか?」


「抜け道はあるんでしょう? もとよりあれは廃棄することを義務付けられているだけで貸し借りに関する法整備は進んでいないので私は無罪ですよ」


「なるほどな。いいだろう、アンドロイドに関しても義体に関しても好きな物を用意させよう」


「好きな物……? まさか作っているんですか?」


「貴様の言葉を借りるならば生きた人間を人形にすることは禁じられているが、人体を構成する物質を揃えて内部骨格を強化し、こちらの意思で動かせる人形を作ることは禁じられていないのでな」


 つまりは人間を基にした物ではなく、最初から作り物で意識も何もない、文字通りの人形というわけだ。

 それは確かに法では禁止されていないが……それ悪用すると戦争で自爆兵器とかスパイとか大量に用意できるから遠からず違法になりそうだな。


「……食えない人だな、あんた」


「所長という立場を与えられているのだ。そう簡単には食われんよ」


 にやりと、ようやく笑みを見せた所長だったが目は笑っていなかった。

 多分俺も同じ顔をしていただろう。

 ともあれ、まずするべきはホワイトロマノフのチェックだな。

 それから警戒レベルを上げつつ、メリナに情報を抜いてもらおう。

 俺は……傭兵といえば行くところは決まっている。

 この世界で中立を貫き、最も公正に、どこよりも公平に、金で大抵の物を用意してくれる傭兵ギルドだ。

 俺自身が餌となって食いかかってきた魚を締め上げてやるとしよう。

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