引き渡し
「キャプテンアナスタシアとクルーのメリナさん、それと搬送予定だった荷物の引き取りを確認しました。どうぞベルセルク本星をお楽しみください」
「ありがと。と言ってもお仕事だからさほど楽しむ時間は無いだろうけどね」
「はははっ、問題ありません。依頼内容はこちらも存じていますが、時間的猶予は相応にあると思いますよ。それにベルセルク本星は輸出業も盛んですから美味しいお酒なども手に入ります。娯楽には事欠かないでしょう。なによりあなた方は依頼を終えても滞在を許可されていますからね。必要ならば船の改造パーツを見てもいいかもしれません」
「そうか、じゃあ荷物を頼むぞ」
そう言って例の姉妹を丁寧に、それはもう身動き一つとれず余計な事をいっさい言えない簀巻きにして引き渡す。
先方も連合から話は聞いているのだろう。
何事も無かったかのように簀巻き姉妹を台車に乗せて運んで行った。
傭兵国家ベルセルク本星、空中から光学映像を見た限り自然豊かな土地に見えた。
おそらくは訓練に使用するため、居住区以外はあまり手を加えていないのだろう。
一方で居住区とそれに隣する商業区なんかは物凄い発展と賑わいを見せていた。
傭兵が中心であり、一定以上のランクか国に認められた者ならいつでも足を運べる惑星というのもあってここまで発展したのだろう。
他の、例えば連合の所有する人類居住可能惑星なんかは入るまでに結構面倒な審査が必要らしいからな。
そっちも傭兵のランクである程度パスできるらしいが、シルバー程度じゃ門前払いに遇うとかなんとか。
「しかしよく連合もこっちの要望取り入れてくれたな」
「それだけ鼻つまみ者だったんでしょうね。後釜のアルマ艦長が上手く回しているのもあって地位だけでまともに活動できないあの二人は上層部の膿を出した後では扱いに困っていたのでしょう」
道中あまりに五月蠅かった姉妹、その対応として連合にクレームを入れたところ今後荷物扱いで構わないという話になった。
客室内での自由を許していたが、わがままが行きすぎたらいつでも気絶させて荷物として扱ってもらって構わない、報酬額は変わらないという条件を引き出したのだ。
というか普通にクレーム一本でそこまで話を進めてくれた。
内部腐敗が減ったからか少しとはいえ風通しが良くなったらしい。
あるいは最初から想定していたかだけど、なんか裏でたくらんでたのかもしれない。
例えば面倒な客でも大切に扱うか、それとも依頼を破棄して客を捨てるか、あるいはこうして対処を求めてくるかを見ていたのかなとも思う。
多分だけど傭兵によってピンキリなんじゃないかな。
ゲーム時代も富豪の依頼人乗せて事故に見せかけて殺して所持品ガッポガッポとかもあったから。
まぁばれたら当然海賊の仲間入りだけど。
「ま、細かい事はいいがお兄さんや。このデータをギルドに届けてもらう事は可能かな? 今日から始まるっていう先生のお仕事のために組んだ練習用のデータなんだ。指導を受けるならこれをやって、その成績見てからってことにしたいんだよね」
「おう、いいぞ。……にしても多いな」
記録メモリ一つにつき宇宙船での戦闘と地上用の戦闘用シミュレーションが一つずつ入っている。
それが100個くらい。
作ってから休んで没にしたのも含めればこの三倍はあるが、とりあえずまともに戦闘能力向上に直結する物だけ選んで持ってきた。
いやはや、この時代の記録媒体ってのは面白い物でなぁ。
見た目は水晶のペンダントなんだがとんでもない容量のデータが保存できる。
機械的ななにかではなく、そういう物質があるらしい。
それを捜して小惑星を爆破して回るような採掘家もいるらしく、産出量は安定していないながらも供給は万全という危うい状態だとか。
小粒サイズでそれなのだから手のひらサイズとか、人の顔サイズが出てくればドカンと儲かるらしい。
今じゃ金を出せば買えるが、一昔前まではそれなりに名の知れた奴やお偉いさんのドッグタグの役割も兼ねていたとか……無駄遣いここに極まれりだな。
「先方には私から連絡を入れておきますね」
「悪いな、疲れてるだろうに」
「いえいえ、厄介な荷物の引き渡しが終わってすっきりしてますよ」
ニコニコと語るメリナ、ほぼサイボーグな彼女の表情から何かを読み取るのは難しいが今回ははっきりとわかる。
内心ガッツポーズしてるなお前。
「ってなわけで、中身の精査やらなんやらは先方に任せるが難易度は記載してあるから送り届けてくれるだけでいいぞ」
「あいよ。荷物が袋一つ分増えたところで大した手間じゃねえ。任せな」
「助かる。これはチップだ」
「お、すまねえな。この手の風習になれてないやつも多くて港はトラブルが多いんだ」
「だろうな」
基本的にドックを任される人間はそれなりに強い。
トラブルが起きやすい場所というのもあるが、全身サイボーグ化していて宇宙空間でも活動できるようにしているというのもある。
また現地での、それこそ星やコロニーごとに変わる風習やら文化やらを教え込む立場でもあるからだ。
言う事を聞かなければぶん殴ってたたき出す、それがドック、通称港の人間のやり方だ。
なお下調べしておいたから今回は助かったが、ベルセルク本星じゃチップのやり取りは当たり前らしい。
そのためにクレジットをいくらか入れておけるスティックという物を購入しておいた。
現金の代わりにお金をチャージして電車に乗れるICカードと同じ役割をしてくれるのだが基本的にはそこに入れた金を他者に譲渡する場合が多い。
端末使ってはい送ったっていうのもあるのだが、味気ないからな。
俺の好みで導入したがメリナも賛同してくれた。
理由はいくつかあるが概ね俺と同じで電子的なやり取りだけじゃ味気ないというのが多いらしい。
あとはチップのいくらかを上が持って行くから端末通さずこの手のスティックでやり取りした方がいいパターンとか、大荷物で端末を出すのが大変な場合にも使えるという事だ。
「スティックとは気が利いてるな」
「調べたからな。それに傭兵はこういうやり取りが好きなんだよ」
「違いねえ」
ガハハと笑いながら記録媒体を持ったおっさんはそのまま去っていった。
あとはなるようになるだろう。
ただ確実に言えるのは、あの姉妹は傭兵とはそりが合わないだろうという事。
性格的に立場を笠に着ているが傭兵はそんなの知ったこっちゃない。
なんならあの姉妹よりも偉い人間とかが道楽で傭兵やってたりするが世間知らずのお嬢様方はそんなの知らんだろう。
そしてもう一つ、俺達が用意したシミュレーターで相応の苦情が来るだろうなということ。
覚悟はしているが、素面に戻って一通り短縮版をやってみたが心臓に悪かった。
何なら没にしたのは本当に心停止しかねないレベルの物もあった。
たぶん滅茶苦茶傭兵予備兵からクレームが来るし、他の教員からも苦言を呈されるだろうなぁ……。
頑張れよ、明日の俺。
今日の俺は寝るから。