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審査&テスト

「なるほど、バイオニクス強化が可能なタイプのナノマシンの導入をしたいと」


「そうだ。どうせいれるなら情報を集めるだけのものよりも良いだろ」


 交渉役は交代、さっきのおっさんは壁際で一服しながらこっちの話をメモしている。

 電子主流の時代でも紙のメモというのは重要なんだろう。

 スタンドアローンの記録媒体なら直にデータ引っこ抜く必要があるが何かしらの細工でコロニーの電気を一瞬でも止められたらどうなるかわからない。

 流石にデータが消える事は無いにせよ、点検のために駆け付けた奴らをぶちのめして物理的にぶち壊すことも可能で復元も面倒となれば文字通り盗んでどうにかするしかない物理データというのは信頼がおける物体なのだろう。

 いざ書き換えられたとしても筆跡とかでばれるだろうしな。


「すぐには許可は出せません。しかしプログラムを終えてからなら」


「それで構わない。先にぶち込むナノマシンと競合しないような物ならな」


「えぇ、個人識別用ナノマシンと身体強化ナノマシンは別の働きをしますのでその点は心配いりません。強いて言うなら採取の際に肉体情報も取られるくらいでしょうか」


「今更だろ。そこのおっさんに聞いたがやろうと思えば初体験だの自慰行為の頻度だのまで筒抜けになるって聞いてるからな」


 一瞬、交渉の場についたお偉いさんの女性が鋭い視線を交互に向けてきた。

 美人さんのひと睨みってのはなかなか怖いものがあるな……。


「それはあくまでもやろうと思えばの話です。身体強化の場合トレーニング情報なども引き抜かれるため通常のマシンよりも多くのデータ。つまり今あなたが言ったような内容まで勝手に引き抜かれるという事になります」


「なるほど、別に構わないが値段はいくらだ」


「最低ラインで1000万、一番いい物をとなるといくらあっても足りないでしょうね」


「となると……妥当なラインで2500万ってところか」


「もしや傭兵家業をするつもりですか?」


「あぁ、それが一番性に合っているしなにより他の働き口に魅力を感じないからな」


 おっさんに確認したがこちらの世界にも傭兵はある。

 宇宙海賊の駆除、コロニーに住み着いている賞金首やマフィアの排除、敵性宇宙生命体との戦闘に新規惑星開拓の際の護衛、他にも色々仕事はあるらしい。

 一般的な職業ならばデスクワークなどもあったがそっち系は苦手なのでパスだ。


「あなたなら色々できると思いますが、なぜ傭兵を選んだのかお聞きしても?」


「性分、命のやり取りに興奮するような性質はしてないがじっとしているのは苦手なんだ」


「そういえばここに来る道中宇宙海賊と戦闘していましたね」


「運が良いのか悪いのか、今までそういうのには遭遇してこなかったから初めての人殺しだな。童貞卒業ってところか」


 思えば人を殺したという実感がなかなか沸いてこなかったが、宇宙空間で乗ってる船を爆散させるというのは言い訳のしようがない殺人行為だ。

 その事にいっさいの忌避感が無いのは不思議だが、この際どうでもいいだろう。

 ゲームの中じゃ人の命なんて最低価格のサンドイッチよりも安かったからな。


「なるほど、たしかに傭兵向きな性格のようで……」


 頭痛をこらえるように頭を抱えるお姉さん。

 おっさんは壁際で笑いをこらえながらメモを取っている。


「それで傭兵に登録できるのも教育が終わってからか?」


「そうですね。基本的にはインターンを受けてもらう事になりますが登録前のチェックなどは一通り受けてもらって構いません」


「チェックっていうのは?」


「犯罪歴の有無、現在賞金がかかっているかどうか、艦船の起動テストと訓練プログラムによる戦闘評価、ある程度のサバイバル能力判断のための実習、近接戦の心得の有無、銃撃戦シミュレーター、パワーアーマーの起動テストと戦闘シミュレーターなどです」


「最初の二つは必要な情報なのか?」


「ナノマシン測定なので今のアナスタシアさんにはできませんが教育プログラムの完了を持って項目にチェックを入れる事になります。あとはクライアント、依頼人からの信頼を得やすくなるかどうかですね」


「あー、重要物資の護衛とかそういう時にちょろまかしたり背中から撃って物資奪って逃げないかって心配か」


「はい、こう言ってはなんですが傭兵というのは常人よりも強い力を持った存在でありながら集団に属さないはぐれものです。事前情報で人となりを知れるならそれに越したことはないでしょう」


「わかりやすい判断基準が欲しいってことだな。ただそうなると私は不利だな、あと新人も」


 どの職業でも前歴とかそういうのは重要だ。

 俺自身まともな試合に参加するために小さな大会を回って戦績を積み重ねてようやく事務所と契約することができたわけで、更にそこから良い結果を出してマネージャーがついた。

 スポンサーに関してはまぁ……はい、ゲーム動画でバズって有名人になったおかげです。

 それまで流派の関係上あまりにも卑怯とか、残虐ファイトとか言われまくって鳴かず飛ばずでした。


「そういう場合はやはりシミュレーターの結果とランクがものを言いますね」


「どういうことだ?」


「シミュレーターというのは多くの場合どの程度の動きができるかなどの判断基準になります。そのため様々な環境を再現したり、あるいは起こり得ないような状況なんかも用意されているのです」


「すまん、具体的に頼む」


「例えばそうですね……ガチガチに武装した軍隊相手に単騎でどこまで戦えるかとか、その際足手まといになる護衛対象がいたらどうなるかとか、数光年先から狙撃してくる相手との戦闘みたいなありえない想定なんてのがあります。現実的なところでは軍の指揮下において対軍事戦闘や短期で宇宙海賊の軍勢との戦闘などですね」


 なるほど……実際のところ宇宙海賊というのは弱い。

 なにせ奪った船や武器を無理やりくっつけただけの粗悪品を使っていることが多いからだ。

 中には傭兵や軍人から宇宙海賊になったような手合いもいるのだが、どちらにせよ機械なんてのはメンテナンスをしなければ劣化していくし使えない機能も増えていく。

 故に奴らは圧倒的な戦闘力を持つ船での単騎突撃ではなく数の暴力に頼るしかない。

 それこそ巣穴をつつけば100や200は出てくると思っていい。

 コロニーを占拠している連中ともなればその十倍はいるだろうし、装備だって充実したものが多いだろう。


 軍の指揮下というのはゲーム時代には経験してなかったが、命令遵守しつつ戦果を挙げろというようなクエストがあったというのは知っている。

 単純に画面映えしないし制限つけられるの嫌いだから遊んでなかったが、法の支配する場所ともなればそうもいかないか。

 あり得ない想定の、というのは……実はゲームではやってたんだよね。

 数万の軍勢に単騎突撃とか、数光年どころかビームをワープさせて狙撃してくるユニーク装備持ってる相手との戦闘とか。

 鹵獲品としてそのデータだけは持っているから作ることはできるけど、それは厳重にロックしてあるから。

 物理的にもシステム的にも。


 具体的に言うならデータチップを爆弾と一緒に鉄の箱に入れて、コンクリで固めて、それを宇宙船とかに使うような特殊合金で数m単位の板で封印してから100桁のパスワードを入れたうえで俺の生体データを全部入力しないとドカンといく仕組み。

 設計図とかそういうのは一応覚えてるから無くなっても困ることはないが流出は避けたいのだ。

 ゲーム時代には冗談半分で厳重に封印しますねーと配信中にやったので結構うけてた。


「その評価次第ってことは護衛が上手い奴は護衛の仕事が多く回されるし、戦闘特化の奴は宇宙海賊の巣穴突いてこいとか偵察とかそういうのに回されるわけだな」


「そうですね。ただ基本的には偵察が主な任務となります。奴らの逃げ足は大したものなので」


「あぁ、先走った馬鹿が敵を逃がした場合の事を考えてか。それはその通りだな、一人でも逃がせば損害が増えかねない」


「えぇ、独自のネットワークを持っている相手ですからね。見方によってはどこにも属さない侵略国家と言ってもいいです」


 宇宙海賊の本当に厄介なところは数じゃない。

 どこでどう作られたかわからないが独自のルートで情報共有をしているのだ。

 それこそ殲滅できればこちらの情報は一切流出しないが、短期で立ち向かうとなるとそれは基本的に不可能。

 やるならばこちらも数を用意してジャミングでワープを封じて殲滅するのが一番なのだ。


「となると、シミュレーターにはそういう偵察に関するものも?」


「いいえ、貴方のようにナノマシンを持たない相手が宇宙海賊関係者だった場合こちらのやり方が流出することになります。なのでその手のデータはありません」


「へぇ、意外としっかりしてるんだな」


「当然です。様々な物理、電子的なセキュリティでコロニーは守られるべきですから」


「でもそんなコロニーを不法占拠する宇宙海賊もいるだろ? あれはどうなんだ?」


「御存知ですか? 宇宙に置いて命は空気よりも安いのです」


 御存知じゃありませんでした。

 つまりあれか、そういう輩に占拠されたコロニーは外部からの総攻撃で爆破、あるいは占拠されそうになったところを自爆でドカンかな。


「さすがにそれは非人道的じゃね?」


「では宇宙海賊の慰み者や奴隷になるか前衛アートになるほうがいいと?」


「あぁ、それがあったか。だとすると楽に死ねるのは救いっちゃ救いか? とはいえもっとこう、防衛的なのはないのか? 少なくともコロニー級のデカさがあれば相応の防御設備があってもいいだろうし脱出艇なんかもあるだろ」


「機密事項です」


 あるって言ってるようなもんじゃねえか!

 まぁそうだよな、普通に考えればそれなりに備えはしているだろうし市民をむざむざ殺させるわけないか。

 恐らく想像もつかないような厄介な仕掛けが山ほどあるのだろう。

 俺がお世話になることは無いにせよ、あり得るとしたらここを狙ってくる輩がいるとかそういう時くらいかね。

 脱出艇の方はそれなりに金をかけてれば宇宙海賊のワープジャミングくらいなら突破できるだろうし、防衛設備にしても内外両方に仕掛けがあってしかるべしってところかね。


「誤解を与えないように言っておきますと、この手の情報は市民に対しても知らされていません。彼らにとって宇宙海賊に襲われるというのはニュースなどの縁遠い場所での出来事、そう思っていていただいた方がいいので」


「余計な恐怖心を与える必要はないってことか。緊急時のマニュアルくらいはあるんだろうけど」


「そうですね。避難シェルターがあります。少なくとも反応弾なら5発は耐えられる頑丈さの」


 反応弾5発って相当だぞ……頑丈性に極振りしたような船でもぶち込めばシールドは飽和、外殻にダメージを与えて一区画ふっ飛ばすような威力はある物体だ。

 並大抵の船なら一発、どころかその余波で爆散だ。


「あとはそうですね、これは立場に関係なく銃火器の携行が許されています。あくまでも護身用、ハンドガンですが」


「実弾か? それともエネルギー式か?」


「今時実弾なんて使いませんよ……本当に未開惑星出身なんですね」


「そう言ってるだろ。だがエネルギー武器って使い勝手悪いだろ」


 パワーアーマーの装甲は硬い。

 ついでにシールドまで持っている。

 そういう手合いにはどちらも豆鉄砲でしかないが、レールガンのようなハイパワー武器ともなればその両方を貫いて本体にダメージを与える事もできる。

 対してエネルギー式の武器というのは有機体やシールドには効果的だが、鉄の鎧とかそういうのにはめっぽう弱い。

 一応貫通力重視のビーム兵器なんかもあるわけだがそれはでかい、アサルトライフルくらいのサイズがあるから携行は許可されないサイズである。


「厳重な管理の下であれば大型武器も所持は許されます。ただしその管理はコロニー統括が行いますが」


「緊急時になったらロックが解除されて保管場所が開く、んでもって使用制限も解かれると」


「そういうことです。ちなみにあなたはまだ市民権を持っていないので銃火器はもちろん指先程度の刃物すら携行は許されません」


「その代わりお目付け役が護衛をしてくれるわけだ」


「はい、呑み込みが早くて助かります」


 端的に言うなら「お前はまだ監視対象だから何もするな、こっちが許可した事だけしか許さないしそれ以外をしたら処分も辞さない」という事だろう。

 命が空気よりも安いという話を先にしてから武器を持つなと言ったのはそういう意味があると思う。

 だってさ、このお姉さん美人さんだけどめっちゃ怖いんよ!

 格闘家としての勘が喧嘩売るなよ絶対にって告げてる。

 異種格闘技戦で2m超えてるマッチョマン3人に囲まれた時よりもやばい気配がびんびんなんよ。


「ところで」


「ん?」


「あなたは戦いの心得がありますね?」


「まぁ、それなりには」


 この身体で生身の戦闘は未経験だがホワイトロマノフの性能やその操縦技術なんかがゲーム時代と変わらなかったのを見るに、恐らくそっちも同じだろう。

 俺の生身での戦闘スタイルは拳銃などの小型武器で牽制しながら近づいてぶん殴り、投擲武器などで相手の宇宙服を破壊したり毒や麻痺といった状態異常を与えるといったものだ。

 普通ならパワーアーマーでどすこいしてぶち抜くような隔壁もこの身体のポテンシャルとリアルで培った技術を合わせれば何とかできるかもしれない。

 まぁさすがにガッチガチに固められたものは無理だろうから壊れかけの隔壁とかが限度だろうけど。


「せっかくです、そちらも見ておきましょう」


「見ておく、とは?」


「これから傭兵ギルドに行きます。その際にお力を見せていただくという事ですよ。試合でね」


 勘弁してくれ……。



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― 新着の感想 ―
[一言] 大体はコブラくらいの身体能力したねーちゃん? 後は流派はいわゆる古武術とかの相手殺す気満々=現代スポーツ格闘的にはブーイングレベルかな?
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