姉妹の処遇
近くにあった軍事拠点となっているコロニーに停泊して3日。
その間に様々な事があった。
まずシルバーランクへの昇格、元がブロンズだったがこれで上位陣への仲間入りだ。
実はギルドの方でも昇格させるかどうかの議論があったらしいが、連合軍の推薦もあり最終的には全会一致となったらしい。
続けて褒賞と勲章授与、ドレスコードとか聞いたが普段着でどうぞと言われたので遠慮なくワンピース姿で登壇した。
ジャケットを羽織って少し傭兵風味も出したが、明らかに浮いていたのは後の祭り。
ちなみにメリナはちゃっかり後から合流しますねとか言って遅れて参上、そして立食会ではドレスを着て優雅に振舞いながら情報をかき集めていた。
あいつ今度覚えてろよ……?
あ、ちなみに勲章は一般人に授与されるものとしては最上級だったらしいけど、今後ギルドのランクが上がったりしたらもっと凄いの貰えるらしい。
今回のはあくまでも一般人にしては凄いよねレベルの勲章らしいから。
権威としては役に立たないけど、持ってると自慢できるレベル。
例えるなら甲子園の砂くらいなものだ。
そして一番の問題だった艦長姉妹の処遇だが……。
「最終判断はキャプテンであるアナスタシアさんの決定次第ですけど……正直に、もう明け透けに言うと嫌ですね」
「だよなぁ……俺も嫌だ」
「ですよねぇ……絶対に問題起こしますよ?」
「妹があれだろ? 姉もそれに似たような脳筋って言う話だし、ブレーキぶっ壊されてバーサーカーになってるってなると本気で嫌だよな」
「宇宙海賊って聞いた瞬間主導権奪ってきそうですしね」
「軍人だからと上から目線で話してきそうなのもヤダな。俺が作戦の不備突いた時もご立腹だったし、態度も酷いもんだった。プライドが高すぎる」
「で、その鼻っ柱をへし折った人の船に預けるとか上は本気で考えているんですかね……」
「これで矯正できると思っているなら大間違いだろ。精神崩壊するまで追い込むか、事故に見せかけて脱出ポッドに詰め込んで射出するぞ俺は」
「となると、やっぱり返信は一択ですよね」
「そうだな、金払いも悪くないしもう一つの話を受けるか」
アルマさんだが、あの後正式に艦長に就任したらしい。
海兵隊を率いて暴走する責任者を糾弾、捕まえて情報漏洩やらかしていた奴も見つけ出したという功績からというのが表向き。
実際はやらせてみたら結構適性高かったという内容だ。
連合は王制でもなければ貴族制でもない、いわゆる民主制だが金持ちや権力者の家というのは優遇されるらしく、逆に庶民の出となると前線でドンパチするような立場に置かれることが多いらしい。
ちなみに帝国だが、こちらは名の通り皇帝がいてその周囲に貴族がいるという話だが余談である。
今回アルマ艦長が正式就任になった際に俺達との連絡役という立場も用意されたらしく、ちょくちょくメッセージが飛んでくるようになった。
常に玉虫色の返答で姉妹に対する回答を送っていたのだが、今回ようやくはっきりと答えを出したのである。
理由?
あの姉妹がうちの船にぶん投げられたからだよ。
上層部判断で二つに一つって形で選択肢を投げられて、そのどちらを取っても一時的に姉妹をホワイトロマノフに乗せることになった。
一つは先日の成果報告で聞いていた姉妹を俺預かりにするというもの。
これは今回メリナと話し合って正式にお断りすることにした。
結果的にもう一つの選択肢を取ることになったのだが、通常料金の三倍出すから姉妹を連れて傭兵国家ベルセルク本星に行ってほしいという内容。
その前入りとして既に貸し与えた個室でくつろがせているが、問題を起こしそうならぶち殺してもいいという許可を正式に。
そりゃもう懇切丁寧にお願いしてお偉いさんから取り付けた。
なおアマネ元艦長は上から配属されたと告げてずかずかと船に入ってきたから問答無用でぶん殴ったし、それを見ていたお姉さんの方は上の命令だと言い続けていた。
俺達はまだ辞令を知らなかったから外で待たせたら文句を言い続けていたので対人機関銃を向けて黙らせた。
船に取りついてハッチこじ開けて乗り込んでくるって戦法もあるからその対策で付けていたが、行為場面でも使えるんだな……。
ゲームだとコロニーの中じゃ一切の武装動かせなかったから。
話を戻すが、もう一つの内容の続きとして俺が二人を傭兵として最前線の戦いを直に学ばせないというなら傭兵国家本星で一から教育してもらい、船は連合軍のおさがりを貸し出すという事になるらしい。
多分あの調子じゃすぐに死ぬだろうな……と思っていたところでもう一通のメールが届いた。
「あのー、キャプテン……傭兵ギルドから指名依頼が……」
「このタイミングとか嫌な予感しかしないんだが?」
「あのですね……ベルセルク本星に行くのであれば現地で教官役をやってほしいという依頼が来てまして……」
「断りたいなぁ……」
まだ身柄預かり状態の時に鬼軍曹みたいな人の手伝いをしたけど、俺は教育者には向いていない。
たしかに状況とか、微かな情報や違和感を基に作戦立案なんかもするけどそれは一人で活動してきたからというのが大きい。
つまるところ経験と、感覚にものを言わせた予防策がメインである。
ここまで上手く行ってきたのはそれがドンピシャだったからであり、今後その手のものから外れを引くことの方が多いだろう。
いうなれば備えすぎという事だな。
だから個人的に言うなら俺はこっちの世界での勘を磨きたい。
どういう場面で違和感を覚えて、どんな状況で相手を疑うか。
そういうのを身をもって知っていきたいのだ。
身体は闘争を求めているのである。
「ちなみに報酬は?」
「どうぞ」
見せられた画面には0がいっぱい並んでいた。
……これ、マジで?
俺が打ったナノマシンをあと3回打ちなおしてもお釣りがくるぞ?
「これ冗談とか詐欺とか、国によって違う価値だったりとかしない?」
「マジでこの金額です。ギルドを通しているとはいえ国家からの依頼なので……このくらいは安い範疇なのかもしれません」
「傭兵は一攫千金というが、その大本はがっぽり儲けてるんだな……」
「流石に国家運営しているだけありますね。ベルセルクの国家体制って運営資金とか諸々はっきりしていないんですよ。それがシルバーランクへの教官依頼ってだけでこれだけ出すという事は特別眼をかけられているか、さもなければそれだけ懐が温かいか……」
「あるいはその両方かってか? まず間違いなく両方だろ。そして特別目をつけられているというべきだぞそれは」
ぽっと出の未開惑星出身者が傭兵になって、いきなりブロンズスタート。
そんでもってシミュレーターの情報や戦闘ログ、そして連合からの依頼を知るや否やアプローチをかけてきたとなればそりゃなぁ……。
「引き受けた方が無難だよな……断って妙な依頼回されるようになるよりはマシだ」
「ですね……」
あの糞姉妹……どれだけ俺達を追い込めば気が済むんだよ……。
ん? いや待てよ……これってもしかして。
「よーし! いい事思いついたし今回の依頼喜んで引き受けると伝えてくれ! 俺に教えられることならなんでもレクチャーするし、こちらで試験用シミュレーションとかペーパーテストとかも作っておくって伝えるんだ。そんで可能な限り金額を上乗せしてもらえ。金が無理なら便宜を図ってもらうよう伝えるんだ」
「は、はぁ……急に乗り気ですね」
「いいか、よく聞けメリナ……」
声を潜める。
コックピットで話している俺達の会話が、今もモニタリングを続けている姉妹に届くはずもないのについね。
だがそれに合わせてメリナもこちらに寄ってきて耳を傾けてくれた。
「あの姉妹ムカつくよな」
「有体に言えば、アマネ元艦長がアナさんに殴られた時はスカッとしましたね……」
「姉の方も態度悪かったよな」
「ミソノさんでしたっけ、機銃向けた時は誤射したくなりましたね」
「あの二人を教育の名の下、体罰とか誰からも怒られない形でぼっこぼこにできるんだぞ」
「……すぐにギルドと連合軍に伝えます!」
「それでこそだ。頼むぞ相棒!」
「任せてください、キャプテン!」
くくく……地獄のブートキャンプを味わわせてやる。
まずはフル装備でぶっ倒れるまで走らせて……次は宇宙怪獣と宇宙海賊相手に48時間くらいシミュレーターやってもらうか……。
腕が鳴るぜ……。