結果報告
一仕事終えた俺達はホワイトロマノフの居住スペースに用意したロビーでのんびりと過ごしていた。
俺は主に情報収集、さっきメリナから聞いた話だけど俺はまだまだこの世界の事を知らないとわかったからだ。
一方でメリナは近くで俺達と同じように待機を命じられた傭兵達とタブレットで賭け事にいそしんでいたのだった……。
それでいいのか元政府の人間よ。
「勝率どんな具合だ?」
「んー、今のところ勝ち越してますね。恨まれない程度に負けているので今後問題が起こることはないかと」
「そうか、手加減してやれよー」
「はい」
ナノマシンで強化されているメリナに賭け事で勝つのは難しい。
俺のような身体強化をメインにしたナノマシン強化者であっても、運動能力に付随できるだけの思考加速能力を備えているのだ。
そうなれば当然ちょっとした計算程度はすぐに終わるので、確率論なんかも余程複雑ではない限りすぐにわかる。
もちろん勉強していることが前提になるのだが、メリナに至っては事務仕事もできるようなナノマシンをぶち込んでいるので相当強いだろう。
脳以外を機械化していることもあってミスも無い。
正確無比な動きもできるためテーブルゲーム以外でもそれなりに強く、善戦して勝ったように見せる事も難しくない。
賭けを挑んできた時点で相手の負けは確定しているのだ。
……俺も殴り合いと船を使った模擬戦以外じゃ勝てないからな。
暇つぶしにこっちのゲームを遊んでみたがボコボコにされた。
あぁ、けどVRの格闘ゲームはいいな。
あれは生身の動きが物を言うから見た目はひょろかったりデブだったとしてもメリナのような機械化やナノマシンによる強化で滅茶苦茶強い相手も出てくる。
そして絶対に死ぬような技をかけてもゲームだから死なない。
手加減抜きで戦いの訓練ができるというのは実に優れている。
曰く、元は軍事用に用意されたシミュレーターだったものを民間に公開して、そこで好成績を収めた者は海兵隊としてスカウトするつもりだったとか。
それが思いのほか人気になったものの、トップ層はスポンサーがついてプロゲーマーとして活躍するようになり、身体改造なんかも普通にするようになったので海兵隊にスカウトするという計画はとん挫したという。
正しく言うなら、生身でも準トップ層に食い込むくらいの人物ならスカウトに応じてくれることもあるらしいが結構稀な例だというので、形式的に残っているだけともいえるそうだ。
代わりに売り上げが軍の資金源になっているという。
似たような感じでFPSや船を使ったオンラインゲームなんかも軍のシミュレーターを基に作られて一般販売されているらしいが、どちらも売り上げは凄いがスカウト成功率は低いという。
まぁそりゃそうだという感じもするのだが……。
「おん?」
ふとコール音で我に返る。
いかんいかん、考え事してて読んでた内容欠片も頭に入ってない。
「はい、こちらアナスタシア」
「アルマです。いくつか今回の件で報告をしたいと思いまして」
「そりゃどうもご丁寧に……いいんですか? 軍が一介の傭兵に報告なんかして」
「えぇ、あなたにはご迷惑をおかけしましたし今回の立役者でもありますから」
「ではお聞きしましょう」
「ありがとうございます。ではまずアマネ艦長の処遇ですが、略式裁判にて当面現場の事を知るべしとして傭兵業をしてもらう事になりました」
「……嫌な予感がするぞ?」
「えと……言いにくいのですが、上層部曰くあなたの船に乗せてもらえるなら報酬は弾むとのことでして」
だよなぁ……軍人で船の扱いにはなれているかもしれない。
だがそれは艦長としてでかい船と、艦隊の運用についてである。
まぁそこもボロボロだったのは何も言うまい。
「それに関してはクルーと話し合いをさせてもらいたい」
「ですよね、上にもそう伝えておきます。続けて彼女のお姉さんでしたが、運よく……いえ、この場合は運悪くでしょうか。両手足の他生きるのに最低限必要な臓器を残した状態で救助されました。敵拠点を脱出しようとした船に積み込まれていたらしく、情報を抜き出すために脳から直接という方法に出たようで……その……」
「廃人ですかね」
「いえ……これまた運の悪い事にナノマシンによる強化のため精神崩壊を防げてしまったんですよ。それで当初は怯えていたのですが、今は殺戮マシーンのように宇宙海賊も帝国もぶち殺すと息巻いてます。ただ捕らえられた上に艦隊を失い情報を抜かれたという事で懲罰対象になりまして……」
「まーた厭な予感」
「当人の希望もあってアマネ艦長に同伴したいと言っています」
「あの、差別的な言い方になったら申し訳ないんですがね。両手足も内臓も最低限しか残っていないような方を面倒見ろというのはさすがに無理ですよ」
「そこは今回裏で動いていた連合の悪徳政治家やらから取り上げたお金で修復しつつ、どうしても無理な箇所は機械化する方針で話が進んでいます。既に治療用ポッドで肉体の損傷を治していますが……とりあえず眼球や歯、手足などは機械化確定です」
「……まぁそれもクルーと相談で。流石に運用に携わる人数が倍になるという話を即断即決とはいかないので」
「もちろんです。それにこれはあくまでも本人の希望なので拒否も可能です。アマネ艦長に関しましてもこちらからの依頼という形ですので……あの姉妹は頭に血が上りやすい事が欠点ですが、実際はそれなりに有能なんです。ただ脳よりも先に脊髄か筋肉で考えるタイプでして……」
「いつの時代もいますね、そういう指揮官にしちゃいけないタイプ」
「なので今回はそれらを学んで来いとのことでした」
まぁ言い分はわかる。
自分で言うのもなんだけど、今回の俺は大活躍だった。
敵拠点の破壊、増援の即時発見と撃破、怪しい動きをしている艦隊の発見と単独撃破。
控えめに言って超大活躍だった。
まぁやったことと言えば反物質砲をぶっぱなして、あとは連携の取れてない相手を一方的にぶちのめしただけなんだけどな。
「それから今回捕らえた宇宙海賊ですが、やはり帝国の関係者でした。純然たる宇宙海賊と手を組んだ帝国軍が物資や最新鋭の試作機をまわしていたようです」
「ってことは黒幕は既にとんずらしていたと?」
「黒幕という言い方は正しくもあり、間違ってもいますね。そういう意味で本来の黒幕は帝国そのもの。軍はその命令に従ったまでですが、何名か帝国軍人らしき人物を捕らえる事が出来ました。その船に乗っていたのがアマネ艦長のお姉さんでしたので」
「あー、うっかり撃墜しなくてよかったですね。本当に運が良いのか悪いのか」
「私達としてはどんな情報を抜かれたかなどを知れるのでありがたい限りですし、帝国側がどんな戦を仕掛けてくるかわかるので最上の結果だと思いますが……その後始末を貴女に投げてしまうのが申し訳ないです」
「まぁ本当にそれはクルーと相談させてください。前向きに考えるとは言えませんが」
「よろしくお願いします。そして最後にあなたが……本当に何度もログの改竄を疑ったのですが、事実だという結果しか出てこなかったレッドカラーズの艦隊についてです」
「あー、改竄疑われるとはクルーも言ってましたが連携がお粗末でデカい武器持っただけの子供みたいな相手ですから」
「それを平然と言えるのはランク詐欺ですね……話を戻しまして、彼等は連絡のつかなくなった宇宙海賊の拠点を確認しに来たようです。必要とあれば破壊するとのことで」
「……それ、現役で活躍している宇宙海賊がレッドカラーズって国と繋がってる証拠じゃないですか? スパイだらけじゃんこの国……」
「いえ、彼等はそれなりに使えそうな宇宙海賊を正規軍として引き抜くこともありますのでこの程度はどこでも行われています。私達も帝国やレッドカラーズの近辺で海賊行為を行っている者達に声をかける事も珍しくないので」
うわぁ、凄く厭なスカウトだ。
敵の敵は味方という理論で人を引き抜いている。
当然安全装置みたいな、例えるならメリナや俺の中のナノマシンみたいにいざという時は即死させるような物を仕込んでおくのだろうけど、当人からすれば真っ当で安全な仕事につける可能性というのをちらつかせられたらどう転ぶやら。
根っからの悪人で奪うのも殺すのも大好きーな奴ならわからんけどさ。
なんにせよ、そういうやつらは放置して相手の国への嫌がらせに使うんだろうな。
こういうのもある種の政治なんだろう……うん、普通に傭兵になってよかった。
「それで続きなんですが、結果的に拠点は帝国の手が入り、我々連合に潰されたので漁夫の利を狙い疲弊した側を潰して戦利品を持ち帰ろうと考えていたとかなんとか……」
「どうあがいても海賊ですね。極刑で」
「そうしたいところですが……外交もあるので政治的に穏便に、えぇ、それはもう穏便に対処しますよ」
おっと、何やら黒い感情が見えるぞ。
多分これ情報引き抜いて、金やら反物質やらの迷惑料引っ張る気だな。
レッドカラーズ本国が知らぬ存ぜぬを貫いたところで持ってる情報は全部引っ張れるわけだから……うん、損はないな。
見捨てられた奴らは普通の宇宙海賊同様に船外服着せて小惑星で命がけの採掘作業とかになるだろう。
そう考えると国に仕えるってのはやっぱりリスキーだな。
「それと今回の活躍から連合国から報奨金の他に勲章の授与、それに伴い傭兵ギルドはシルバーランクへの昇格を認めるそうです。一気に昇格ですね」
……なんて?