理由
海賊拠点のごたごたを片付けたアルマ艦長たち一行が駆け付けた頃、俺達は小型艦も残しておいた3番の戦艦も行動不能にしたうえで明後日の方向に飛んで行った戦闘機を回収していた。
一応緊急時の手動ブレーキはできてたけど、姿勢制御はできなかったらしくきりもみ回転してたのを網でとっ捕まえたのである。
本来の使い方は複数機で設置して、飛んでくる敵やミサイルを破壊するための物だが今回は投網漁となった。
まぁ普段は滅多に使わない武装だから試す機会があってよかったと思っておこう。
「こんなものまであるんですね……」
「標準武装は一通り、この手の追加武装も一般的に流通してる奴なら大体持ってるから。使わないだけで」
「でしょうね……」
戦闘記録を見直しているメリナが何度も目をこすっている。
「そんなに擦ると腫れるぞ?」
「いや、この頭のおかしい戦績をどう証明したらいいかと思いまして……」
「ログだけじゃだめなのか?」
「改ざんされたと思われるのがオチですよ……とはいえ、あれもその手のログは残してあるでしょうし大丈夫だとは思いますけど。そのために戦艦を最後にしたんでしょう?」
「まぁ半分くらいはそう」
「じゃあ残り半分は?」
「鈍足だから置いて逃げようとするやつが出ないように。動ける戦艦を置いてけぼりにしたらアンカーつけられて簡単に追いかけられるし、そもそも3隻の戦艦を主軸とした艦隊ってのはバレてるんだから逃げようにも俺を落とさなきゃいけなかったわけでな。敵前逃亡する小型艦中型艦が出ないようにするために残しておいた」
戦艦はその巨体故に高火力を維持できている。
反面、巨体だからこそ足が遅く、そしていざという時には味方の盾になって逃がすのが役目だ。
とはいえそれは情報を無事持ち帰れそうな場合に限る。
でかいというのはそれだけ利点があり、レーダーやセンサーなんかも普通の船より上等なのだ。
真っ先に戦艦を全部潰していたら相手の中型小型艦は即座に撤退していただろう。
だが情報収集を続け、解析を行っている戦艦を放置して逃げたら敵前逃亡の無能として一生揶揄されることになる。
ようするに海賊国家においても海賊扱いされるという……まぁ文字通り居場所がなくなるわけだ。
現状他の宙域で活動している宇宙海賊がレッドカラーズという国家とは無縁……と表向きはなっているものの、それなりのネットワークと活動履歴はあるだろう。
無論木っ端な奴らが持っている情報ではないので、今回の戦艦を隅々まで調べたところで大した情報は出てこないはずだ。
なんなら今回拠点を攻撃しますよという情報がどこからか漏れた、あるいは帝国の攻撃を受けて壊滅した拠点があるという情報を基にこの場にいた可能性が高い。
ただの野次馬ならそれまでだが、少なくとも3隻の戦艦と100を超える船を引き連れていた以上戦闘は視野に入れていたと見るべきだ。
ちなみにアンカーというのはワープの跡をたどるためのシステムであり、これが付けられるとどこまで逃げようとも追いかける事ができる。
高性能なものになると先回りすら可能で、ぶっちゃけた話戦艦がワープを終えるまでにワープアウト先を解析して追い抜いてウェルカムズドンが可能なのだ。
ホワイトロマノフに乗せているアンカーはそこまでの性能は無いので追いかけっこになるだけだが、今回は作戦行動中なのでそれもできないので逃げてほしくなかったというのが本音だったりする。
「つまり敵はアナの術中に見事にはまったと」
「そうなるな。正直ここまで奇麗にハマってくれると笑えてくる。装備面じゃ宇宙海賊なんか目じゃないが、戦闘関係は大差ないな。むしろでかい船も数もある分動きが制限されてまともに活動できてないようだ。本国の守りに徹してる奴らは手ごわいんだろうけど、こいつらは雑魚だったな」
「まぁ……そうですね」
妙に歯切れの悪いメリナ。
そっと目を泳がせているのが何かを物語っている。
「何が言いたい?」
「えっとですね……以前、といってもレッドカラーズが国家として名乗りを上げて少しした頃なんですが帝国と連合とベルセルクが合同で母星に攻撃仕掛けたんですよ……」
「その口ぶりだと負けたんだよな。しかも大敗」
「えぇ……母星から数百万の反応弾が飛来して運よく巻き込まれなかった者だけが帰還しました……ログは今でも見られますが、間違いなく全滅させる気の攻撃でしたね」
「……その頃からガバガバなのか」
「そのガバガバなところもあってすくわれた面もありますから……はい」
普通は少しは生きて帰そうとするはずだ。
自分たちがどれくらいの力を持っているかを誇示するには情報が不可欠。
それを持たせて帰らせるというのは常套手段だというのにそれを怠ったという事だ。
戦術としては上々かもしれないが、戦略としてはカスもいいところ。
「で、結局その時のログから手出しはしない方向になったと……」
「えぇ、ただそれだけの反応弾を用意するにも時間がかかると判断して波状攻撃をという人もいたらしいのですが、私兵を連れて突撃してからは音沙汰無しとのことで……」
「馬鹿がいたから情報が確定に変わって、しかも量産もできるようになっていたと推測できたわけだ。少なくとも今はもっと蓄えていると考えた方がいいだろうな」
「そうなんですよねぇ……今回の一件で多少の弱みを握ったところで向こうからしたら大したダメージじゃないでしょうし……何せ資源持ってますから」
「だが反物質惑星となると居住に向いてないだろ? 食料とかはどうしてるんだよ、流石に輸入じゃないのか?」
「いえ、帝国と連合の戦争中期に大量に反応弾を買い込んだのでそのお金で資材を用意してコロニーをいくつも建てたみたいです。そこで国民全員が飢えない程度には食料生産もできているらしく……なんなら私達のつかっているオートメーション化したバイオ肉工場と同等以上の物も持っているかと」
「自給自足ができて、防衛向きの軍隊がいて、拠点は巨大爆弾か……まぁ手を出したくないし情報戦も無駄な相手だな」
「まぁ彼らを捕らえられただけでも多少交渉が有利に進む可能性もあるかもしれませんけどね……少なくとも戦艦の艦長が3人はいるわけですし、それなりの立場でしょうから見殺しは……」
「無いと言い切れないのが怖いよな」
ま、あとはアルマ艦長に丸投げしよう。
俺は疲れたから風呂入って寝たいのだ。