正規兵なの?
縦横無尽という言葉がある。
文字通り縦にも横にも好き勝手に動き回っている状態を指すが、今回はそれどころじゃない。
縦にも横にも斜めにも前にも後ろにも、あらゆる方向に向かって急接近急反転急制動をかけるのだ。
中にいる俺達も、それなりに高価な対G制御システムを積んでいるにも拘わらず車で事故を起こすよりも激しい衝撃に耐えている。
まぁ、ナノマシンで強化された俺はもちろん、骨格から内臓まで人工物のメリナは物ともしていない。
それでも酔うのは避けられず、少し青い顔をしているメリナが視界の端に映るが吐く様子はないから無視して突撃をかます。
エネルギー充填量を見て相手の射線から外れたり、逆にこちらの射線から外れようとするやつを充填率無視してぶっ放して脅かしたりと様々だ。
戦艦自体はこれだけ近づけば驚異じゃない。
もともとこいつらの何が怖いって、当たれば一撃で落ちるような攻撃を遠距離からバンバン撃ってくることだ。
いうなればスナイパー、あるいはそのままの意味で海戦してた頃の戦艦だ。
一方こちらは小型艦と呼ばれているが、その実は巡洋艦に値する。
そこそこ硬くて、そこそこ早くて、そこそこ痛い一撃をぶっ放す。
そして戦闘機と呼ばれる居住スペースすらないような船は駆逐艦で、近づいて重たい一撃をぶつけるだけのお仕事なのだがとにかく撃たれ弱い。
俺も昔は戦闘機で飛び回っていたなぁ……居住スペースが無いからキャラクターのストレス値がマッハで上がっていくことを除けばいい船だった。
一応パーツだけならこの船にも残っているから、組み立てれば使えないことはない。
問題はそれを保管する場所が無いし、メリナじゃあ使いきれないじゃじゃ馬だから死蔵している状態だけどな。
俺でもリアルで飛ばすには勇気のいる代物だ。
エンジンは載せられる中では最上級で、スラスターなんかも拘り抜いた逸品。
武器は一撃必殺のライフルとブレードのみの構成で、とにかく近づいてぶちのめすという戦法の物だ。
それなりに強いのは事実だが……本当に使うのは怖い。
一回シミュレーターで使ってみたが思わず顔が引きつるくらいには怖かった。
「敵艦2番! こちらに向けてミサイル群を射出!」
「了解だ! 掴まってろ!」
スラスターをふかしてミサイル群に突っ込む。
こういうのはビビったら負けだ。
下手に回避しようとすると余計な被弾をする。
じゃあどうすればいいか、ミサイル群のど真ん中に攻撃を集中させて誘爆させて正面突破を狙うのが一番である。
エネルギー反応を見る限り中に反応弾を隠している様子も無し、素人の戦法だ。
実際にやるなら普通のミサイルと、爆発しないダミーと、バルーンを含んでいて突然膨れる物と、反応弾、それとエネルギー量をごまかすための偽物やらトリモチ付きの粘着液なんかを散布するタイプを混ぜてぶっ放すのが基本である。
これやられると尻巻いて急速反転からの逃げの一手に徹するか、全部叩き落とすか、反応見て安全な場所を絞るしかなくなる。
選択肢が一気に増えるからこちらもまともな対応が難しくなるのだが、全部同じ爆弾となれば対処法は一つに絞られるから容易い。
というわけで多少、振動はあったが無事ミサイル群を抜けて敵艦2番に接敵。
そのまま艦橋に向かってグラビティバレットをぶち込み沈黙させる。
普通に落としてもよかったんだけど、せっかくなら情報は欲しいよね……とか思っていたら俺を追いかけていた戦闘機が何機かミサイルに巻き込まれて吹っ飛んでいた。
……位置情報くらい共有しようぜ。
素人か? こいつら。
「敵艦、残りは3番と小型艦17隻、中型艦5隻、戦闘機が78機です!」
「そうか……3番は無視、砲撃予想地点とミサイル発射の時だけ教えてくれ」
「了解。他はどうします?」
「まずは中型から潰す。次に小型、それが終わる頃にはアルマ艦長たちも追いつくだろ」
「なるほど、では1番2番の情報は共有しておきます」
「頼んだ。せっかく生け捕りにしたのに潰されたらかなわないからな。っと」
近づいてきた戦闘機に向かってグラビティバレット射出、一瞬姿勢を崩したがそのまま直進していったのを見送る。
うん、制御が効かなくなるから慣性の法則に従ってそのまま飛び続けちゃうんだよね。
お星さまになる前に見つかるといいね。
まぁ戦闘機のシステムはかなり簡易的で、一部は手動操作もできるからまともな訓練受けていれば方向転換やブレーキくらいできるだろうけど。
……できるよな? こいつら正規兵とは思えないくらい連携取れてないんだが……。
「どうしました?」
「こいつら持ってる船は悪くないのに弱いなと。連携がお粗末だし、攻撃が単調すぎる。それに口振りからして正規兵だってのに仲間意識とかそういうのが無さすぎるだろ」
さっきの旗艦諸共潰せという命令もそうだ。
仲間意識なんか欠片も無い様子だ。
「そりゃまあ、ここはレッドカラーズからしたら僻地どころか別の国の宙域ですから。正規兵にしても木っ端者しか送ってくる余裕はないでしょうね」
「その心は?」
「まともな兵士は自国の防衛が基本です。なにせ自爆覚悟で母星に反応弾でも打ち込まれたら……」
「あぁ、国として立ち行かなくなると。そりゃ外に出せるだけの戦力もないか」
「それに国家とはいえ、元は宇宙海賊の集まりです。歴史の中の話とは言え、そんなところに軍隊としてのいろはを教え込んでくれる国は無かったと思いますよ。危険なものも持ってますし」
「なるほどなぁ……で、残りは?」
「中型艦は全部沈黙、小型艦は残り8隻です」
「おし、じゃあこのまま押し切りますか」
雑談を交える程度には余裕ができたが、さてさて、アルマ艦長は俺達が食いつくすまでに追い付けるかな?