レッドカラーズ
「わ、我々は宇宙海賊国家レッドカラーズの部隊だ! このような狼藉が許されると思っているのか!」
通信を開いて早々投げつけられたのはそんな言葉だった。
レッドカラーズ……確か反物質が豊富な惑星を持つことで外交を勝ち取った元宇宙海賊共だったな。
今じゃ真っ当な立場らしいが……大隊引き連れてこちらを覗き見している時点で問答無用でぶち殺されてもおかしくないのは言うまでもない。
「こちらは星系連合の傭兵だ。狼藉とか知らねえよ、大人数で覗き見してるお前らが悪いし、こちらの通信に反応しなかったのはお前らだ。要するにこっちは覗き見されてなお、お話合いしましょうぜって言ってるのに無視決め込んだうえにドンパチに至ったわけだが? しかもこっちは手加減までしてやってるんだが……あまりふざけたこと言ってると本気でぶち殺すぞ?」
メリナに目配せをして副砲にエネルギーを充填させる。
ぶっ放すのもやぶさかではないが、狙いは目の前で銃口突き付けている機能不全に陥った船じゃない。
すぐさま今いる場所を離脱して他の船を撃てるようにという準備だ。
「単騎で我らに勝てると思うのか!」
「その単騎に旗艦潰された奴らの台詞かねぇ。勝てるかどうかはともかく、こちらが死ぬことはないだろうさ。連合軍の艦隊が宇宙海賊や帝国の連中片付けてこっちに来るまで持たせればいい。対してそっちは俺を相手に戦いながら逃げなきゃいけないわけだ。ケツを向けるわけにもいかず、かといって引き撃ちしていたら追いつかれる。さて、どっちが有利だと思う?」
「たかが小型船一機ならば本気で挑めば!」
「あー、いい事を教えてやる。この船反物質砲積んでるぞ。他にも反物質ミサイルも。あんたらはそれの恐ろしさをよく理解していると思うがどうだ?」
「っ……!」
さすが、反物質名産地という事もあってその恐ろしさは理解しているらしい。
やろうと思えばここにいる全員を倒す事はできるし、消滅だって簡単にさせられる。
とはいえそれじゃああまり意味が無いから使う気も無いんだけどな。
ミサイルも安いもんじゃないんだ、特に反物質詰んでるようなのは。
一発で……ゲーム時代の初期船くらいなら買える値段だったな。
中堅プレイヤーともなればそれをポンポン撃ってくるから恐ろしいが、上位陣は逆に使わなくなる。
そんな武器だ。
なにせ当てた敵が消滅してしまうし、余波だけでも並大抵の船はバラバラ、情報もパーツも使い物にならないようなジャンクしか手に入らなくなる。
要するに金でぶん殴っているようなもので、リターンはほとんど0なのだ。
ランカーと呼ばれるくらいの実力があればそんなものに頼らなくてもどうにでもなるが、それでもみんなお守り代わりに積んでいることが多い。
正しくは報復装置だろうか。
船が壊される寸前で装填して発射準備を終えておくと撃墜された瞬間周囲を巻き込んでドカンと大爆発を起こす。
ホワイトロマノフのエンジンなんかはその代表例だが、反物質を乗せた船は触るな危険とされていた。
つまり撃墜してもいいけどお前らも吹っ飛ぶからな? という脅しである。
あとはもう数の暴力に訴えられた時の対処法だ。
敵陣に何発もぶち込んで頭数を減らす。
そして焦った敵を潰すというのが基本だ。
集団戦PvPじゃよく飛び交っていたが、それなりのセンサーを積んでいれば誰が持っているかとか、どこに向けているかとかそういうのがわかるのであらかじめ射線上に不活性ミサイルなんかを置いておくことも戦法としてはあった。
いたちごっこだったんだよな、相手を多く削る反物質ミサイルを如何に当てるかと、それを如何に撃たせないか、あるいは無害化するかという対策が次々と出てくる。
中には安物の超高速戦闘機に反物質ミサイル括りつけて突撃してくる奴もいたが……あれはただの的だった。
「さて、また3秒やろう。大人しく武装解除すればよし。さもなくば」
「全砲門開け! 旗艦ごとやつを潰すのだ!」
「上等」
口封じか。
そう来るならこちらにも考えがある。
「メリナ、副砲のエネルギー充填率は?」
「100%です。いつでも撃てますよ」
「そうか。なら合図したらポイントアルファに向けて撃ってくれ。それとジャミングされてるだろうけど、一応アルマ艦長にも通信入れておいてくれ」
そう言って宙域図にマーカーをセットする。
「了解しました……やっぱりジャミングされてますが、問題なく繋がりそうですね。この船本当に未開惑星の物かわからなくなるくらい性能いいですね……」
「そりゃ生きるか死ぬかの世界で戦い抜いた船だ。宇宙観光ができるような連中の持ってる量産品と違ってワンオフが基本だったからな」
「つまり全員が規格外でパワフルだったんですね……こわっ」
そんなに怯えなくてもいいと思うんだがなぁ。
そりゃゲームの頃は輸送船でもダース単位の宇宙海賊程度はおやつ感覚だったが……。
「じゃ、とりあえず吐かないように頑張ってくれ。こっからは本気で挑むから」
「了解しました」
かちゃりとシートベルトを締めたメリナがグッッと親指を立てた。
さて、じゃあ狩るか。