突貫
ポイントB487392……面倒だな、敵のいる場所目がけて最大船速で向かう。
この広い宇宙、惑星間の距離くらいなら数分で移動できるだけの機能が実装されているが、俺等傭兵や、救急隊、軍隊が使っているような船は特に足が速い。
ただ作った企業や土地の影響でスラスターやらが発する波形が違うとかで敵味方の識別は割と簡単にできてしまう。
それが難しい傭兵を雇うような仕事の場合は敵味方識別信号を渡して、仕事を終えたら削除というのが基本だ。
まぁそれもハッキングすれば方式とか見抜いて偽装したりできるんだけど、俺はそっち方面のテクニックは持ってない。
ゲームだとスキル扱いだったが、端的に言って俺の欲しいツリーとは違う所にあったからノータッチのままだ。
主に俺の育成方針は船か身体を使った戦闘。
そして医療系統と探索とメカニックの5つである。
大体のプレイヤーが3~5個のスキルをメインに伸ばしていたが、その中でもハッキングは色々と優遇されていた。
金策が簡単であり、犯罪歴の削除なんかも可能となればそりゃみんな欲しがる。
だがスキルレベリングが地獄なのだ。
ゲーム内で四六時中PCの前に張り付き、有志によるツールを使ってもスキルツリーを進めるのに三日かかる。
不眠不休で、という意味になるので実際は一週間くらいかかるのではないだろうか。
一方戦闘系は比較的上げやすい傾向にあるので多くの人間は船か肉弾戦かのどちらか片方を主力としていた。
俺の場合も船の戦闘が主力だったのだが、こちらに来てから実際に身体を動かせるという利点、俺のリアル職業である武闘家というのがスキルに合わせて超強化された上にナノマシンによる肉体処理能力の上昇まである。
既に本職にも劣らない……どころか、普通に蹴散らせるくらいの力はある。
医療系統に関しては必然的に覚えたというか、探索して敵陣に乗り込み暴れまわって自分を治療するという事を繰り返していた結果伸びた。
他のゲームと比較するのはナンセンスだが、例えるならファンタジー系で言うところの殴りヒーラーに近い。
メカニックも同様に船での戦闘で派手にぶち壊して戻って自分で直すっていうのを繰り返した結果なので同様だ。
探索はラスプーチンとかそういうユニークアイテム探すのに必要だったから上げた。
結局のところ俺の立ち位置というのはある種の軍人に近いのかもしれない。
そんな俺の勘が告げているが、今いる奴らは第三勢力であり、そしてこちらに友好的とは言い難い存在である。
「メリナ、ボギーに通信」
ボギー、つまり敵味方不明の相手という意味であって個人名じゃない。
「え?」
「いいから早くしろ。内容は……応答されたし、返答がなければ敵とみなすだ」
「りょ、了解です」
移動中数回通信を繰り返させる。
宇宙空間では妙な干渉が起こり通信が繋がらない事もそれなりにある。
酷い時はワープが阻害されるような事もあるが、今回は受信確認付きの通信であり先方が確実に受け取っているにも拘らず返答をしていないことが分かった。
つまり奴らはバンデッド、アルマ艦長の早とちりではないという事だ。
「音声記録開始、これよりオープンチャンネルにて会話記録を試みる。ボギーへの通信に返答がなくバンデッドと断定。受信確認付きの物であるため確実にこちらを無視しているものと想定して対処する。……さて、メリナ。お前にはいくつか言っておくことがあるが守れるか?」
「は、はい!」
「OKだ、じゃあまずいつも通りの仕事をしてくれ。敵の位置を教えてくれればいい。ミサイルの発射やエネルギーの上昇、敵機の沈黙なんかもな」
「わかりました」
「次に……あー、ほぼ同じ内容だから纏めて言うわ。叫ぶな、吐くな、漏らすな」
「え? そ、そんなことしませんよ!」
「言質はとったからな?」
メリナが顔を紅潮させ、そして青ざめたのを確認してからリミッターを外してブースターを全開にする。
先ほどまでの移動が自転車並みの速度だとして、今はコンコルドだ。
流石にGがきついが扱えないことはない。
メリナも一瞬息を詰まらせたような声を出したが、悲鳴そのものは飲み込んだようだ。
注意しておいてよかったぜ。
「副砲一番二番にグラビティバレット装填! 目標敵中央戦艦! 以後中央を1番、正面左を2番、右を3番と呼称! 小型への呼称は省略する! 突貫!」
「ちょっ、そんなの持ってたんですか!?」
「兵装の確認位しておけ! 後で目録渡してやる! それより戦闘に集中しろ!」
グラビティバレット、通称重力弾。
船体へのダメージはカスみたいなもので、発射時の反動がでかいため当てにくい事でも有名だが使い道は多い。
主に船のシールドは重力場と電磁場の混合物であり、重力弾はその重力場を破壊する効果がある。
つまり当たりさえすれば一撃で相手のシールドを大きく削れるという事だ。
メカニック知識として持っている範囲では、重力で電磁場を固定しているっぽいから……例えるなら風船を割るようなものだな。
中の気体がすぐに霧散するわけじゃないが、長くは持たないという状況。
まぁ当ててもシールドシステムそのものをぶち壊したわけじゃないからすぐに復活するので追撃が必要不可欠なのも欠点で、宇宙怪獣相手じゃ無意味。
宇宙海賊のゴミみたいな船でも船体へのダメージはほぼ無し。
そしてそんなゴミみたいな船なら無理やりシールドぶち抜いた方が手っ取り早く楽という事もあって使うプレイヤーは限られていた。
主に他のプレイヤーを相手取るPKや、軍隊を襲う事を目的としたジャイアントキリング狙いの海賊プレイ、あとは護身用にという傭兵がちらほら。
俺の場合はちょっととある裏技を見つけた結果大量に持ち歩いていた。
まぁ、情報公開したらみんな持つようになって値段が高騰したけど後悔はしていない。
その前に十分な量を買っておいたからな。
売ればもう一隻ホワイトロマノフを作れるくらいの予算はできたかもしれないが、それ以上の稼ぎが見込めるからやらなかった。
そしたらこっちに来ていたのだが、結果オーライだな。
「発射! 続けて副砲3番4番発射!」
「め、命中です! 敵1番エネルギーダウン! 戦闘続行不可能と断定!」
「まだ早い!」
迫りくる弾丸の雨を避ける。
ミサイルを対空砲で撃ち落とし、ビームはシールドで受け止めて、逐次シールドを回復させながら、実弾系武装は発射角から位置を推定して回避する。
さながら絶叫マシンを超えた絶命マシンに乗っている気分になるが、リミッターを解除したままだったのを忘れていた……。
まぁ問題なく敵主力艦らしきそれに近づけたので、続けざまにグラビティバレットを敵艦に近づいて、艦橋に向けてぶっ放す。
これが裏技、重力場をどうのこうのしてくれる弾丸を相手のコックピットや艦橋にぶち込むと中の人間もシステムも全部ダウンするという仕組みがある。
ハッカー技能が無ければ復旧は不可能、あったとしても蜂の巣にされるのが先という仕様になっている。
これで敵を一機完全無力化した。
なにより先頭で堂々とこちらを見ていた相手、でかい戦艦を盾にすればあとはのろのろと作業できるわけだ。
多分指揮官だろう船だからな。
「さて、全艦艇に告げる。そちらの船を一隻人質にとる。艦橋にぶち込んだのはグラビティバレットだから死人は……そんなに出てないだろう。さて、仲間を見捨てるか、それとも大人しく交渉のテーブルに着くか選べ。5秒以内の返答がない場合、また砲撃を確認した場合貴君らを殲滅する」
そう告げてすぐに通信回線が開かれた。
なんだよ、もうちょい戦いたかったんだけどな。