助太刀無用
あれから少しして、レーダーの方向を少しずつずらしていると後方に大部隊が控えていることが分かった。
すぐにアルマ艦長に連絡を入れ、攻撃許可を貰うと二つ返事で了承されてしまった……。
いいのかなぁと思いながらも、攻撃予測範囲を味方のチャンネルに飛ばす。
わずか数秒で空白地帯が生まれたので、チャージ100%の超長距離攻撃型の主砲をぶち込んだ。
本来小型艦が持っていい火力じゃないんだが、弱点も多くてなぁ。
撃てる限界は日に5回、これはラスプーチンというとんでもエンジンを利用してもこれが限度だ。
エネルギーよりも機体の問題だから。
それだけの威力をぶっ放せる主砲ってのは、それだけ反動もデカい。
つまり一発撃つだけで反動ダメージが僅かながらに入るのだ。
もちろん一番ダメージがでかいのは砲塔であり、ちゃんと休ませないとぶっ壊れる。
船そのもののダメージは装甲含めて各ポイントに修復用ナノマシン散布装置が設置されているので時間経過で直る。
砲塔も撃つ時だけ展開する方式で、収納されている間は冷却と修復が進められるのだ。
やりようによっては10発、短期間では3~5発が限度という武器。
大体の敵を撃ち落とせるし、集団戦でも使えるが、その代わり弾数が滅茶苦茶少ないと思ってもらえればいい。
敵が消滅して戦利品が得られないからだけでなく、上限があるからこそ使えないというのもあるのだ。
「後続部隊の7割が消滅、3割が航行不能のダメージを負った事を確認しました」
メリナがレーダーを見ながら伝えてくる。
敵陣のど真ん中にぶち込んだからなぁ。
輻射熱や、飛び散った反物質で機体の一部が損傷して動けなくなったのだろう。
放置しておけば勝手に死ぬ存在だし俺は無視する。
が、とりあえずアルマ艦長にポイントだけ教えておいた。
こういうのは上に丸投げするに限るね。
「こちらアナスタシア。後続部隊の壊滅を確認。戦闘終了後生き残りの回収をするも打ち殺すも任せたし」
「こちらアルマ、貴君の活躍に感謝を」
もはや挨拶など不要。
軽く会釈するだけで通じ合える程度には打ち解けた。
……リトルグレイの会釈、というか感情の機微と表情が読み取れるようになってきたのが自分でも不思議だ。
美人さんというのはまだよくわからないが……あながち間違いではないのかもしれないな。
俺の感覚じゃわからないだけで。
「さて、そんじゃ俺達は後方待機だ」
「いいんですか? 任せっきりで」
「むしろこれ以上暴れたら他の連中に恨まれる。敵拠点破壊、後続部隊殲滅、そんでもって一部敵の新機体っぽい物をほぼ無傷で手に入れられたわけだ。戦闘までこなしたうえでこれとなると、既に戦績はトップだろうしこれ以上戦場引っ掻き回すと本当に恨まれるからやめておこう」
まぁ既に敵には相当恨まれているだろうし、一部戦況を向こうの本国に送られている可能性もある。
それを考えると今後は気楽にコロニー散歩とかできないなぁ……。
だからといって補給とか考えると何もしないわけにはいかないんだけど。
ならばめて、他の傭兵が戦いやすい舞台を用意しました、思う存分暴れてくださいという状況だけ用意して後ろに下がって活躍してもらえばいい。
味方は多いに越したことも無し、頑張りが認められればそれだけギルドでの対応も良いものになるだっろう。
俺達が関係を持つのは職員だけじゃなく、同業者との関係性も重要なのだ。
職員とのかかわりが縦のものなら、同業者は横のつながりだ。
縦だけじゃ得られない情報が横から来ることもあれば、その逆もまた然り。
フリーランスなんてこんなもんだ。
「戦況は?」
「味方の損害は……さすがに0ではないですが軽微です。船にダメージを負って撤退したというのが主な損害なので撃墜された人はいません。こちらの砲撃に巻き込まれた人もいませんし、それに加えて……待ってください! 別方向から艦隊接近! 数……嘘、戦艦規模で三個大隊!」
「なに⁉」
流石に数が多い。
主砲はチェックしてみれば撃てなくはないけど、暴発の危険性が2割を超えている。
こんな所で命がけの博打をするのは無謀もいいところ……。
「こちらアルマ。全艦に告げます、ポイントB487392から接近する艦隊への攻撃を許可します。キャプテンアナスタシア。先ほどの攻撃は可能ですか?」
「こちらアナスタシア。残念ながら暴発の危険性が20%を超えている。下手に暴発した場合この船だけじゃない、この辺り一帯が吹き飛ぶことになる。つまり使いたくない、使えないと思ってくれ」
「了解しました。他の方法で戦闘は可能ですか?」
「あぁ、主砲が使えないだけで他は弾薬も十分だ。いつでも参戦できる。他の傭兵の奮戦もあり弾薬もエネルギーも温存できたからな」
「もとよりあなたのお仕事は敵拠点の破壊です。後詰を撃破してくれたことも含めて勲章物ですが、新たにお願いします。敵艦隊を攻撃してください」
「了解。ただし一つだけ注文がある」
「なんでしょう」
一呼吸おいてから煙草に火をつけて、無理やり精神を落ち着かせた。
そうでもしないと笑みがこぼれてしまいそうでな……。
「助太刀無用に願う」
そう告げるのに、喉の奥から湧き出る笑い声を我慢するのが大変だった。
……楽しくなってきたなぁ!