戦闘開始
ホワイトロマノフの主砲、それは段階を決めて何種類かの方法で反物質砲をぶっ放せるというものだ。
性能で言えば最強の攻撃力と、最悪のエネルギー消費と言ったところ。
いわゆる浪漫砲だが、実は細かい調整が効くので好んで使う人は多い。
が、消費エネルギーの問題で特定の組み合わせじゃないとまともに使えなかったり、使った後動けなくなって案山子になるなんてことも結構あった。
初期の頃なんかその攻撃力に魅せられて、ヒャッハーした結果直後に雑魚に蛸殴りにされるという事例もあったくらいだ。
まともなエンジンじゃ一発撃っただけで動けなくなる。
下手したらオーバーヒートして自爆することもあるような危険物。
それをまともに運用できる数少ないエンジンが反物質精製半永久機関のラスプーチンだ。
こいつは宇宙空間から微量の、それこそ当たっても対消滅を起こさないような反物質を吸収して、更にゴミなどから反物質そのものを生成してしまうというとんでもない物体だ。
特に反物質砲をぶっ放したとしても、その残りを吸収して連発できる。
弱点と言えば不安定な物質を積んでいるから、ちょっとした攻撃でも運が悪ければドカンと吹っ飛ぶくらい。
ゲーム内だと確率で、という感じでシールド剥がされた後に攻撃を喰らったら何%って感じで爆発する。
ただ、ちゃんとした装甲詰んでれば確率は下げられるし、宇宙海賊くらいの攻撃なら1000回くらいくらってようやく10%に届くかどうかといったレベルでもある。
逆に言えば宇宙海賊でもそれだけ撃ってくれば1割の確率で格上の機体をぶっ飛ばせるという事だが……。
「主砲、設定3ー4ー3! 目標正面アステロイドベルト!」
「目標設定完了、チャージ100%。いつでも行けます」
「発射!」
メリナの管制に従いスイッチを押す。
チャンネルは今回の作戦に従った物を開いているが、声に出したのは注意喚起の意味もある。
巻き込まれたら確実に死ぬからな……。
「アステロイドベルトに複数の突破口生成完了。主砲のチャージはどうしますか」
今回撃ったのは主砲の長距離拡散モード。
本来なら複数の敵をロックして使うのだが、今回はそれをせずにランダムな方角へと照射した。
これによりアステロイドベルトにいくつものトンネルを作り出した。
文字通り、岩にも罠にも引っかからない穴、それが無数にできたのだ。
あとはここから突撃してもらうだけ、と思っていたらアルマ艦長が即座に指示を出し、それに従って傭兵達が次々とトンネルに突っ込んでいく。
続けて艦隊を分散させて軍艦もそれに続いたので俺達も傭兵と軍艦の間を位置取ようにして航行する。
「チャージ80%で維持。モード3ー5ー1で待機」
メリナに指示を出しながら次の展開を予想する。
まずあり得るのは、敵さんの大歓迎ってところだろうか。
少なくともこちらが反物質砲をぶっ放したのはバレている。
そりゃ罠として仕掛けてたあれこれが吹っ飛んだわけだし、向こう側まで続くくらいの距離を吹っ飛ばしたんだ。
気付かない方がどうかしている。
次にあり得るとしたら、まぁ憶測で言った事だからどこまで本当かわからないけど同じ反物質砲をぶっ放してくる。
でかい=強いの法則で、基地ひとつ丸ごと砲台に変えたとなればそりゃ広範に巻き込むだろうなと。
ただそれはこちら側に奥の手としてそういうのがあるというのが露見することになる。
多分使ってこないけど、追い詰められたらわからない。
だから先に潰しておこうというのが今回の作戦でもある。
人質のお姉さんはごめんなさい。
というか言ったら悪いが、たぶん拷問とかされて死んだ方がましな状態か、本当に死んでるだろうし……。
「了解、モード3ー5ー1にて80%チャージ状態で待機」
その言葉に満足げに頷きながら、徐々に閉じていくトンネルを通る。
所詮はデブリ帯だからな、時間が経てば穴も埋まる。
とはいえ、この作戦中に埋まるような大きさでもないし、そもそも人が快適に生活できるようなでかい軍艦が抜けられるような穴だ。
もともとアルマ艦長の策としてはこのデブリ帯を大きく迂回する部隊と、穴をあけて突撃する部隊でタイミングを合わせて強襲するつもりだったが俺の発案でトンネル一択になった。
一応だが予備部隊というか、今回の作戦で足手まといになりそうな機体や船籍の奴らを迂回させてはいる。
有体に言ってしまえば、厄介払いを兼ねた足手まといの排除だ。
そいつらも戦闘が終わっていたとして、金は貰えるのだから文句は無いだろう。
なにせ楽して稼げるんだからな。
「まもなく目標地点……いえ、接敵します!」
「戦闘中の部隊を監視しつつ中央突破する。合図を出したらチャージを進めて100%になったタイミングで合図をくれ。敵拠点に向けてぶっ放す!」
「了解!」
トンネルを抜けて縦横無尽に飛び回り、敵の弾幕を掻い潜る。
光学センサーによって映し出された映像からは敵拠点が改造された様子はない。
ただ、エネルギーの数値が明らかに高いのは見てわかる。
いざとなったら自爆、それによりこの辺り一帯を吹き飛ばす事もできるかもしれない。
それだけで脅威だ。
「っと、お出迎えご苦労さん!」
進路を阻むように出てきた敵機、明らかに挙動が素人ではないし、その速度も並の船じゃない。
が、ホワイトロマノフの前では大した差は無いのだ!
「副砲一番二番! 発射!」
スイッチを押して眼前の船を吹き飛ばす。
伊達に大半が死に戻りしたイベントで無傷とまではいかないが、原形をとどめて生き残った船だ。
やりようによっては軍隊相手でも善戦できるだけの力がある。
今撃った副砲にせよ、他の傭兵の持つ船の主砲かそれ以上の威力がある。
それをシールドの厚い正面からとはいえまともに受けたんだ、機体の損傷率からまともに動くことはできないだろう。
下手したらダメージより衝撃がでかすぎて中のパイロットがミンチになっている可能性すらある。
ま、知ったことではないがな。
「対空機銃用意! オートセンサーで探知した敵を撃て」
「対空機銃展開、オートセンサー起動、8時の方角から敵機接近……撃墜しました」
「よし、問題ないな」
シールドが厚くなっているとしても、装甲は大したことがない。
ならシールドが飽和するまで撃ち続けてしまえばいいじゃないという事だ。
なにせ宇宙海賊を装うために民間船のガワにしてあるからな、そっちまで改造するには時間が足りなかったんだろう。
「チャージ100%です」
「了解だ。向こうもなりふり構わない様子だしな」
光学センサーによって映し出された光景、そこには明らかに軍属の船と見られる形状の物が徒党を組んでこちらに向かってきていた。
おそらくはガワを用意できなかったか、換装前、さもなくば攻める時に使うための部隊だったのだろう。
それをここで投入してきたという事は自爆も視野に入れ始めたという事だ。
だが敵拠点のエネルギー数値は依然同じ数値のまま、まだ自爆に至る様子はなし。
なればこそ今が最大の好機というわけだ。
「主砲、発射!」
スイッチを押し込み、敵部隊を巻き込みながら拠点に着弾したそれは一瞬の抵抗もさせずに大穴をあけてエネルギー数値を0にした。
あそこにあるのは穴あきの巨岩でしかない。
「さて、残敵掃討に移るぞ!」
「あいあいさー」