戦闘開始
飯食ってシャワー浴びて、コーヒーブレイクを楽しんでいたら一時間なんてあっという間だった。
というかまともに休憩できてないんだよ……情報の精査が必要だったから飯食ってる間もシャワー中も、基本的にずっと端末見てた。
「……これマズいよなぁ」
その中で見つけた特大の爆弾が一つ。
前艦長のお姉さんが襲われたという船のデータだが、その一部を解析した結果出てきたものだ。
まずEMCでシステムダウンまでの時間と、そこから復旧にかかるまでの時間。
それが大体3分。
そしてその間に襲われたという記録が残っているのだが、レーダーに敵影は映っておらず、そしてワープアウトによる空間の歪みなども観測されなかったという。
つまりは3分以内に駆け付けられるが、レーダー範囲の外にいたという事実だ。
これが意味しているのは、とんでもなく足が速くて戦艦を落とせる火力を持っている船が存在しているという事になる。
艦隊は5隻からなる鏃型の陣形で航行していたらしいが、そのうち二隻が逃げ延びているという情報があるから正面からくらったと見るのが正しい。
EMCの影響を逃れた船のデータでも同様の記述がされているし、その記録も残っている。
つまりは偽装されていない本物という事だ。
要するに違わず進路上にEMCの罠が仕掛けられていたということ。
例えるなら……巡回中の戦車部隊のど真ん中で爆発するように地雷が仕掛けられていたようなものだが。
完全にこっちの情報が筒抜けになっているし、向こうは最新鋭かそれに準ずる機体を持っていることになる。
記録から機体の情報を見れば、ガワはそこら辺の宇宙海賊が使っている略奪した民間船の改造機。
だがありえないほど足が速い。
それに武装だが、これも一見すれば宇宙海賊が使っているへぼいレーザー系の武装に見えるが、整備が行き届いているのかシールドダウンしている船のどてっぱらに一発ぶち込んでそれなりの損害を与えている。
でかい=強いは宇宙の船でも変わらず、それだけ装甲も厚くなるのだがそいつをぶち抜くだけの威力を保持しているのだ。
普通では考えられない速度と威力から見るに中身だけ入れ替えた、逆の意味での張りぼてというべきだろう。
こいつと同レベルの機体が何機いるかによって戦局が大きく変わる。
少なくとも軍用機が中身だとすれば傭兵でもまともに太刀打ちできるか怪しい。
宇宙海賊相手ならば傭兵1機で3機までの相手は何とかなるだろう。
だが軍用機となれば逆になる。
3体1で挑んで勝てるかどうかといったところだ。
単純に宇宙海賊の巣に帝国のスパイが紛れているならいいが、宇宙で楽観的な考えは即座に死ぬことになる。
なら最悪の想定をするべきなんだが……やっぱり巣が丸ごと帝国に乗っ取られていると考えるべきだな。
結果的にやることは変わらないが、問題はレーダーと罠の二つ。
向こうは俺達艦隊の動きをある程度読んでいる。
少なくとも軍が前艦長のお姉さんとやらを取り返そうと動いているのはバレているだろう。
このままの進路は危険極まりないが、かといって迂回すればそれだけ相手に猶予を与える事になる。
「アルマ艦長、ちょっと進言したいことが」
「はい、キャプテンアナスタシア。なんでしょうか」
「もしかしたら、というよりは結構な確率でこの先罠があると思う。EMCパルスとアラート系の奴。今その予想の裏付けデータと注釈を送った」
「確認させます。こちらも同じ予想をしていましたが、迂回はしたくないと思っていまして……」
「流石ですね。なのでこちらから先制攻撃を仕掛けたいと思います。ただ敵が出てきた場合傭兵には3機でかかるように命令を出してください」
「それはあのきな臭いというデータに基づいた情報ですね?」
やっぱ優秀な軍人さんだなこの人。
俺がリトルグレイの美醜に疎いのが残念だが、これだけ仕事ができるってだけで惚れそうだ。
「えぇ、足が速くて攻撃力も高い。そんな船が何隻もあった場合兵力を無駄遣いする余裕はありません。死なないで損傷を与えればベター、エネルギーを少しでも削れたら十分です。一部の傭兵を除いて軍用機に対応できるような人材がいるとも思えませんし、あれが切り札だとも限らない。見せ札だった場合もっと面倒な事になりますね」
「面倒とは?」
「例えば拠点が反物質砲の発射台に改造されているとか」
「……正直考えたくないですね」
「ですが最悪を想定しておかないと死にますよ」
「ですよねぇ……」
「なので進言します。恐らく罠が仕掛けられているポイントはもう目の前でしょう。なのでここから超長距離範囲砲撃で罠をぶち破って全速力で直進、幸いというべきかうちの船にそういう兵器があるので許可さえあればぶっ放しますが、その後はなし崩し的に戦闘開始です。3機編隊で散開して各個撃破を目指すように伝えてください」
「……わかりました。その案に賭けます。少なくともほかに良い手が浮かびませんしね。各傭兵に伝令!」
そこからは早かった。
ホワイトロマノフの主砲を最大出力でぶっ放して、すぐに傭兵達は突貫していった。
アルマ艦長の率いる艦隊も散開して拠点を包囲する形で展開。
俺も開けた穴を直進した。
戦端は開かれたのである。